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アダルトシッター

 モニカは昔の記憶を手繰り寄せ、自分に身体強化の魔法をかけた。


「お? いい感じかな?」


 ヴラドの脇から手を入れて軽く持ち上げてみると、重い彼の体を持ち上げることができた。

 身体強化の魔法と呼ぶにはあまりにもお粗末な、男一人を何とか運ぶことができるぐらいの弱い強化だが、今はこれで十分だ。


 地面に落とさないよう苦労してヴラドを背負ったが、身長差があるためヴラドの足先は地面についていた。


 これは大変になるぞぉ……。っていうか、今の私だいぶあやしいよね?


 小柄なモニカに覆いかぶさるようにヴラドが乗っかっている。

 もし誰かが暗がりでこの姿を見たら、正体不明の化け物が王国アジト内に現れたと思うだろう。

 もしかしたら、いきなり襲い掛かられるかもしれない。

 そうしたら、ヴラドとの変な噂が広まる程度では済まされないのだが……。


 とにかく、今はあれこれ考えていても仕方がないので、誰にも見つからずにヴラドを部屋に運び込むことだけに集中した。


 周囲に人の目がないことを確認すると、慎重に歩き始めた。


 ちょっと夜風にあたるつもりが、とんだ事態になってしまった。


 もうっ! まったく、なんでここまできてベビーシッターしなきゃいけないの!


 そう思いっきり叫びたいモニカだったが、実際は足音ひとつ鳴らさないよう静かに城内へ入った。


「ぐがぁ!」

「ひっ!」


 エントランスを抜けるため忍び足で急ぐモニカを、いきなりイビキをかきはじめたヴラドが驚かせた。


「勘弁してよぉ……!」


 心臓が口から飛び出しそうになり、危うくヴラドも放り投げてしまうところだったが、何とか踏みとどまった。

 少しずり落ちてしまったヴラドを担ぎ直すとポータルに入り、ヴラドの部屋がある階まで飛んだ。

 さいわい降りてきたときと同様に通行人はおらず、無事にヴラドを彼の部屋まで運び込むことができた。


「ふぅ……。よかったぁ」


 リラックスするつもりで散歩に出たというのに、今は出発前よりも心臓の音が高鳴っている。

 ただ、直面した問題は解決することが出来たので、モニカはそっと胸をなでおろした。


「よいしょっ……と」


 ヴラドをベッドに転がそうとしたときだった。

 無事に彼を部屋に運びこめたことに安堵してしまったせいか、うっかり身体強化の魔法が切れてしまった。


「あ、まずっ……」


 ベッドに押し倒されるような形で、ヴラドがモニカの上にのしかかってしまった。

 身体強化の魔法は解けてしまっているので、モニカの腕力では彼を押しのけることができない。


「う、うぅぅ……重いぃ……」


 そのとき。


 部屋の扉があけられた。


 はっと視線をやると、そこにはルティの姿が。


 助かった! 


 そう思うが早いか否か、ルティは表情ひとつ変えず扉をバタンと閉めた。


「えっ……ちょ、ルティちゃん!」

「ごめんっっっ!」


 そう叫びながらルティが走り去るのが、その足音でわかった。


「……」


 今の自分の状態を客観的に想像してみたモニカ。


「……!」


 そのイメージ映像が鮮明になっていくに連れ、モニカの顔はみるみる赤くなった。


 もう……なんで私がこんな目にぃ……!


「うぅ……もうちょっと……」


 動ける範囲でどうにか杖のほうへ手を伸ばし、指先で手繰り寄せることに成功したモニカ。


 握りしめた杖で身体強化の魔法を発動し、ヴラドを横へ押しのけた。


「はぁ……はぁ……」

「ぐがっ」


 モニカの苦労などつゆ知らず、がぁがぁといびきをかきながら寝るヴラドを見下ろした。


「はぁ……。こんな手のかかる子供、初めてだよ」


 誰にも聞かれていない愚痴を吐くと、ルティへの誤解を解くため部屋をあとにした。

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