ひとやすみ
「クソ、ぜんぶ耳栓のせいだろ。ダリィな」
「完全無音の状態での戦闘がこんなにも難易度が高いとは思いませんでしたね」
「ああ、戦いづらくてしょうがねぇ」
耳栓を装着しての慣れない戦闘を終えたモニカたちは、今はダンジョンの隅でひと休みしている。
戦闘中に起こった出来事についてヴラドとルティが大げんかを始めそうになったのを、状況をよく把握していたモニカが説明し、何とか二人が落ち着いたところだ。
四人が座っているイスはルティが錬成してくれた。
なんか、ダンジョンの隅で休憩するこの感じ、なつかしいなぁ。
モニカは昔の楽しかったときの思い出に浸った。
「お前、そもそも何でベビーシッターなんかやってんだ?」
「え? 唐突にどうしたの」
「おかしいだろ、どう考えてもよ」
「べつにおかしくないよ。私がベビーシッターの仕事をしてるのは、このスキルを一番有効に使えるから。どう、合理的でしょ?」
モニカの主張にヴラドは頭を抱えた。
「俺にはわからねぇ……マジで。一番有効に使えるのはどう考えてもダンジョン攻略だろ……。聞いたことねぇよ、一瞬で相手を眠らせるスキルなんざ」
「ダンジョンは危ないもん」
「なんだそりゃ……」
ヴラドは呆れた様子を見せた。
「そのスキルは生まれつきなのかしら」
エマが尋ねたのを、モニカは首を横に振って否定した。
「そう……」
エマはそれ以上は聞いてこなかった。
モニカも話す気はなかった。
モニカのスキルは、明らかに他のそれとは一線を画する。
初級、中級、上級スキルまでは鍛錬を積めば習得可能だ。
しかし超級と呼ばれるスキルは、生まれつき持ち合わせるか、もしくは何らかのきっかけで覚醒するのが習得条件になる。
エマが使っていて驚いたサンダー・ドラゴンでさえ上級魔法。
対象を一瞬で眠らせるアブソリュート・スリープが超級スキルなのは火を見るより明らかだ。
生まれつき持ち合わせてはいなかったと言ったモニカには、あれだけのスキルを習得するだけの試練が過去に与えられたことを意味する。
そのことが分かったから、それ以上の質問が飛んでこなかったのだ。
「オイ、そろそろ行こうぜ。こんなカビくせぇ屋敷、くつろぐような場所でもねぇだろ」
気だるそうにヴラドが立ち上がった。
「ええ、そうですね。でもその前に、どうやって戦うかを決めないと」
「思ったんだけどさ」
ルティが口を開いた。
「僕たち、戦う必要ある?」
沈黙が流れる。
およそダンジョン内で冒険者同士が交わす会話とは思えないが、皆それぞれ考えを巡らせた結果を、ヴラドが代弁した。
「ねぇな」




