第四十四話『デッドエンドに吐き気がする』
青白く光っているようなレイジニアは、私が天井に開けた穴からの光に照らされていた。
鏡の中の自分と相対する。そんな感覚の中でも、私が彼女の顔に拳を叩きつけられたのは、私自身がいつのまにかレイジニアではなく、そうして碇二朱とも決別し、ニア・レイジという新たな自意識を持ち続けていたからなのだろうと思う。
私が思い切り放つ拳。そこにはついぞ、魔法の力も、剣の力も何も無くなった。
ファンタジーの上に成り立った、ファンタジーを許さない世界。
これが、『私』と『レイジニア・ブランディ』という同じようで絶対に違う二人が、各々の想いのまま、我儘に動いた結末の舞台。そうして奇しくも共に世界を打ち破ってしまった。
この世界のバグとも呼べる存在二人の、因縁のフィナーレだ。
――レイジニアという身体に転生した時に持っていた。ティーカップの重さを右手で思い出す。
武術の心得こそあっても、決して剛力では無かった私のような小娘が、多少鍛錬しただけの拳。
だけれどそれは、こと今の私達にとっては、生命の削り合いに匹敵するのだろう。
それは私の拳を顔面で受けてしまったレイジニアの反応と、殴った私の拳が実際にひりつくような痛みを帯びた事で理解出来た。
私の拳が当たった部分、彼女の頬が透けている。
私の拳もまた、彼女程では無いにしても。透明感が強まっている。
――ここまで、禁呪に設定なんて無かろうに。
おそらく、私達が今からやることは、データの消し合いなのだろう。
禁呪の先へと到達してしまったレイジニアというバグと、一つしか無いはずの禁呪保持者が二人いるというバグが組み合わさった。雁字搦めで、修復も、セーブも、ロードも不可能の、致命的なバグ同士の戦い。
この姿はおそらく周りにいる皆には伝わっていないのだろう。
ふと視界に入った誰かの視線は、正しく私達の実体に向けられている。
では声はどうだろうかと思えば、どうやら私の声は届いていない様子だった。
レイジニアが得た禁呪の先の先に、私は到達していない。私はやっとの思いで、彼女の精神体に縋り付き、無理やり同じステージに立っただけなのだ。
だからこそ、私は禁呪を使えていない。
しかし、レイジニアは違う。実際に精神体としての声を私は聞いている。
ただ、周りの皆が私達の実体に注視しているという事は、その声を届かせるかどうかは彼女の思惑一つなのだろう。そう思えば、やはりこの状態は孤立無援。
私が、決着を付けるしか無い。
「不思議な痛み……気持ちが悪い」
レイジニアが自身の頬を撫でながら、冷たい目でこちらを睨む。
その表情には実体だった頃程の余裕は無く、静かな苛立ちが垣間見えた。
「そう……でもそうね。貴方もまた禁呪を知っているなら、一番邪魔、か。丁度、良い!」
レイジニアの精神体が距離を詰めてくるのを待ち受けるように、私は彼女両手の拳を握る。
――私が現実で、喧嘩する両親を脅した時に掴んだ破片の感触を、左手で思い出す。
「まさか此処で、私の存在に意味が生まれるなんて、ね!」
私が最初に使った拳は右手、だけれどそれはレイジニアの利き手だ。
でも、碇二朱という人間の利き手は逆の左手。
それは現実から私が引っ張ってきた、まるで意味のないような、私自身の経験。
両利きになれた事に意味なんて無いと思っていた。
だけれど、ステゴロ勝負なんて時には、そんなものに、助けられる。
私に向かってくる拳は、レイジニアの利き手を思えばおそらくは右から来るだろう。
彼女が両利き手では無い事を私は良く、良く知っている。
そうして、ずっと、ずっと彼女の利き手を使って生活していた。
何せ、レイジニアを演じていた時にバレては元も子も無いから。
だから私は密かに、レイジニアとしての経験で右手、碇二朱としての経験で左手。両方の手で、上手く力を込められる身体を手にしていた。そのアドバンテージは、こと殴り合いに於いては有利すぎる情報。
それに対応出来る程の格闘訓練を、元々のレイジニアが行っていない事くらい、記憶を辿ればはっきりと分かる事だ。実体であればまるで勝負にならない。何せ力の強い誰かの身体を借りているのだから。
だけれど今眼の前にいるレイジニアは、私と同じただの小娘でしかない。
そうして、私は精神体として、彼女よりも大人の姿だ。自身としては、決して好きでは無かった自分の顔を見ないで済むのがホッとする。だけれど握る拳も、彼女より大きい。
今のレイジニアは、怒りに溺れるただの小娘でしかないのだ。
だからこそ彼女が元々持っていたその強く精神の軸は、ブレる。
「右に右なんて、貴方らしくもない!」
思考すれば、分かるようなこと。私ではなく、彼女なら。
私は、あの身体を通して知識としてのレイジニアの記憶は持っていても、彼女が元来持っている思考能力の強さには、到底及ばない。
要は結局の所、私は私でしかなかったのだ。レイジニアではない。
――レイジニアという悪役令嬢は、彼女の思考を以て、成立するものなのだ。
だから、きっと私は大きな勘違いをしていたのだ。
私はただの、疲れた一人の人間でしかなくて、悪役令嬢をこなせるような器の持ち主では無かった。
だけれど、だからこそ、だからこそだ。ウェヌが、ブラウンが、クロが、ジェスが、ノア先生が、アポロ王子が、助けてくれた皆が、いてくれた。
「悲しい、話よね」
私は呟きながら、大振りで躱しやすそうなレイジニアの、右の拳での軌道を目で捉えた。
そうして、その下をくぐるように躱して、私は碇二朱としての利き手……左手で彼女の顎を思い切り下から殴りあげる。いわゆるアッパーカット、これが乙女の嗜みとはいい難いかもしれないが、ウェヌを守る為にした訓練だ。実際に彼女の前で披露する事が無かったのは少し残念ではあるけれど。必要の無い事なんて、やっぱり一つも無かった。
「私の世界にはね。貴方みたいに自分の運命に気づいた人間が、それを覆す為に努力するお話で、溢れかえっているのに」
哀れだと、思った。
だって彼女は気づけたのだ。私がよく知っている創作上の悪役令嬢の話達のように。
私やそれらの物語の多くに存在しているのように、転生こそしていなくとも、彼女は自分が創り物の世界にいるという事に気づいて、世界のしがらみを自分で打ち崩す権利を得る事が出来ていたのだ。
「言っている意味が分からないわね。私は現に今、覆している。覆すのよ!!」
その怒りが、叫びが、悲しい。
もしその努力の方向性が怒りに依らず、正しい方向に向いていたら、と考えてしまう。
それはきっと、私がこの世界の人間ではないからなのかもしれない。私にとってのリアリティが二つ存在するからこそ、思ってしまう事なのだろう。
漂う血の匂いなんて、魔法や剣なんて、想像の世界。創作だけの物。
そこに存在するキャラクターなんて物に、意思なんて無い。
それが当たり前だと思っていたからこそ、思う事。
それが当たり前じゃないこの世界にいたからこそ、思えた事。
――でも、もう遅い。
もっと早く気づけていたら、良かったのかも知れない。私も、彼女も。
「次、行くわよ」
二撃連続で食らった殴打に、レイジニアが数歩後退する。彼女の事だ。何かを考えているのだろう。
無茶な攻撃をやめて、様子を伺っているのが見える。私の即断の一撃目、そうして彼女の殴打を避けての二撃目、その時点で彼女はこの状態での力量差を正しく測ったのだろう。
私が彼女の記憶を持っているからこそ分かる。彼女は狂っていようが、そのくらいの事を同時に行える女だ。
――私がレイジニアなら。
それを考える事に徹した時間が多かったからこそ、分かる。
彼女が私の立場であれば、次の一撃は、拳を撃たない。
だから、私はあえて大振りの右蹴りを、躱させる。
そうして、その勢いのまま、左手で裏拳を叩き込んだ。
私から見ても、現状の格闘における力の差は、明白に私の勝ち。
彼女の全身像が、薄く揺らいでいく。
「野蛮……ね。せっかく私という名を持っても、貴族としての誇りすら磨けない、クズ」
「そのままそっくりお返しするわよ。私が野蛮人なら貴方は狂人。まさか貴族の矜持が貴方の中に残っているだなんて、思ってもいなかったわ?」
その言葉に、レイジニアの怒りの視線が向く。
「貴方は、私を、レイジニア・ブランディを知っているのだから。分かるでしょう? であればどうするべきだったっていうのよ!!」
その激昂は、理解出来る物だった。でも、許せる物では、決して無かった。
だって彼女は、その性根が、悪役なのだから。
「何だって出来たわよ? そう、私は何だって出来た。だからこそ、分かった。貴族としての矜持が貴方を壊したのね」
せめて、痛みは感じて欲しくないと思った。
だけれど、仕方ないとも、思った。
私から繰り出される殴打、蹴撃。
それを時に受け止め、時に直撃し、彼女の身体が消える寸前まで、この殴り合いは続いた。
ついぞ、彼女からうめき声が漏れる事は無く、私の身体に彼女の手が届く事は無かった。
禁呪の先を彼女が行ったならば。
私は、彼女が成せず、元の私が成せなかった人生の先を行く。
だから、さようならだ。
「貴方のした事は最低だけれど、それでも私は貴方を否定しない。だって私は貴方でもあるのだから。でも仕方がなかったなんて言葉は言いたく無い。間違え続けた罪は、償わなきゃ、いけない。私も、貴方も!」
最後の一撃、目尻に涙が浮かぶ感覚を覚えた。
だけれど彼女は、嗤っていた。
「私に償いなんて……いらない」
小さく零したレイジニアの身体が、涙でぼやけて、一瞬見えなくなる。
その隙が、私という人間の証明であり、悪役に成りきれなかった所以だった。
彼女の精神体が、私の上に覆いかぶさる。
――この後に及んで、乗っ取るつもりだなんて、呆れるほどの、悪意。
私は焦って彼女の手を掴むが、もう既に彼女の精神体は私の実体に溶け込み始めていた。
私は禁呪を使えなかった、つまり彼女のように転写自体の実行が出来ない。
だからこそ破れかぶれの作戦だった。
でも彼女が私の身体、抜け殻になっているレイジニアの本当の身体を奪って、私を演じてしまえば、元の木阿弥だ。
今の私の実体は魔力が切れているから禁呪こそ使えないだろうけれど、上手く取り繕って、周りの目をごまかし、魔力が回復する日を待てば良い。そうなってしまえば、もう何も出来やしない。
「させて、たまるか!!」
「貴方は、こーーーーっちっっ!」
彼女の手を掴んだ私の手を、レイジニアはガッシリと掴み、死んでいたと思っていた、王の実体の中へと吸い込ませるかのように放り込まれる。
――これが、彼女が悪役である所以だ。
ただ、殺せばいい。けれど、この女は、血も涙も無いのだ。
同情した私が馬鹿だったと思い知らされる。一瞬でも哀れみを、悲しさを覚えた事が悔しくも思う。
だけれど、それらもまた、泣きたくなる程に、本物の感情だった。
何故ならば、こんなに歪んだ彼女の思考の成り立ちを思った時に、私はもう、決して憎む事が出来ないようになっていたから。
それでも、彼女がやったことは最低だ。
彼女の精神体はニア・レイジの身体を、そうして私の精神体は彼女が使っていた国王の身体へと、それぞれ転写される。
おそらくは、彼女は嫌がらせの為だけに、私が苦しむ為だけに、この瞬間を待っていたのかもしれない。
殴られながら、蹴られながら、自身の存在が消えるリスクを冒しながら、私が一番悲しい死に方を、考えていたのかもしれない。
それはきっと、正しい。
だって、私の姿は髪の長い、レイジニアの姿へと変わっていき、
レイジニアの姿は、ニアレイジの姿なのだ。
「ぐ……う……」
先を越されるかのように、交代した身体でレイジニアが呻く。
私の実体は傷を余り負っていないから、ダメージとしては少ないはず。
代わりに、私の精神が入った国王の身体はボロボロだ。
あえて、この瞬間の事を考えて死んだフリをしていたのならば、脱帽してしまいそうな程の、悪辣だ。
「ニア……! ニア! 大丈夫?!」
ウェヌが、レイジニアに駆け寄る音が聞こえる。
私は指先一つも動かせずに、痛みの中でパクパクと口を動かして、声が出るか確認するので精一杯だった。
「え、えぇ……大丈夫よ。レイジニアは何とか、元の身体に押し留めた」
私のフリをしている。声は当たり前だが、口調すら真似ているのが、憎たらしい。
「しかし、一旦愚父の姿に戻ったと思えば、またレイジニアの姿に戻るとは、面妖だな。まだ息があるとは、愚父らしいしぶとさか、それともレイジニアの邪念の強さか……」
「えぇ……アポロ王子、その女を殺して。それでやっと、私は……」
彼に頼むのも妥当だろう。私は、この場にいる人間の中で一番彼と親交が浅い。それも分かりきっているからこそ、一番気付かれにくい人間に私のトドメを刺させる。
理にかなっている。悔しい程に。
「アポ……ロ……」
「小さくて聞こえぬが、まだ口を動かす余裕があったか」
声は、届かない。
届いたとしても、きっと心には、届かない。
「ジェス、その女を立たせろ」
アポロ王子の命令で、ジェスは黙って私の腕を持ち、無理やり私を立たせる。
ジェスの力に小さく抵抗してみるも、彼はどうしてか力を強めず、私は一回床へと倒れ込んだ。
「私……は……殺したく……なんか……」
懺悔のように、呟く。彼女ですら、殺したくなんか無かった。
その覚悟を持てなかったのが、私の敗因。
「貴方が、それをいうのですか……! あれだけの数を殺した、貴方が!」
ジェスの言葉が、広間に響く。
それはその通りだ、何故ならば人死にを避け続けたのは私の精神を持った実体であって、今の私の精神が宿っているこの実体は暴虐の限りを尽くしたレイジニアのものなのだから。
意思は、届かない。
届いたとしても、きっと心には、届かない。
「んー? なんか……」
クロが困ったように呟いて、こちらを見ている。
瞳で訴えかけるが、その視線もすれ違わない。彼女は、倒れたままのレイジニア――私の実体を見ている。
視線は、届かない。
届いたとしても、きっと心には、届かない。
「アポロ王子……クロ、誰でも良い。早くその女を……殺して……っ!」
絞り出すような声に、クロが、飛ぶのが見えた。
立たされている私からははっきりと、彼女の短剣がギラつくのが見える。
――この子に殺されるなら、本望だ。
そう思って目を瞑った。
だけれど、私の身体にその短剣は突き刺さらず、私の実体を乗っ取ったレイジニアの首近くの床に突き立てられていた。
「クロ様、乱心ですか?! ブラウンが駆け寄ってクロの身体を押し付ける」
「だって、だってなんか、だってなんか! こわくて!」
彼女は、妙に勘の良い所があった。
じっと彼女を見ていたのは、おそらくレイジニアが演じている私の微妙な変化を見破ろうとしていたのだろう。
「駄目じゃないアンタ達、殺すのは、アイツでしょ? でも、もうきっと……放っておけば死ぬわね、ふふ」
少しだけ、レイジニアの声が苛立ちを帯びたが、嬉しそうな笑みを浮かべるのが見える。
アポロ王子は難しい顔でその光景を見ていた。
依然、私の身体はジェスに拘束されている。
些細な違和感は、きっと全員抱いているのだろう。
だけれど、姿が入れ替わっている以上、私のいう事を信じるしかない。
彼らは禁呪という魔法について深い理解を持っていないのだ。
私と彼女が入れ替わっているというのは、想像こそ出来ても根拠の一つも無いだろう。
「ジェスさん、少し拘束を強めてください。ウェヌさん、治療魔法は使えますか?」
「え? ……はい!」
ウェヌが、ジェスに拘束されている私に駆け寄って、じっとレイジニアの姿の私の目を見ながら、私に治療魔法を施す。
「駄目……です。傷が致命的で、私の魔法程度では……」
「でも、喋る事くらいは出来るでしょう? さぁ、レイジニア。貴方は謝罪をする義務がある。それもさせずに逝かせるなんて、ニアさんも随分せっかちですね?」
ノア先生は、おそらく疑ってくれているのだ。だからこそ、チャンスをくれたのだろう。
それはきっと、彼女に身体を乗っ取られかけたという事実を身を以て体験しているからこそ、思えた事。
だけれど、私はこの姿のせいで、何を言えばこの状況を打破出来るか、分からない。
「謝罪……か」
レイジニアは、黙っている。おそらく私の心が折れて、命乞いをする事でも期待しているのだろう。
「私はね、世界を壊して、皆の人生を狂わせた。もしかしたら、私が何もしなければ救えた生命があったかもしれない。だから、ごめんなさい。私の我が儘は……実らなかった」
「今更……何をほざいているのよレイジニア! 謝ったところで! 許せる事なわけないでしょう!!」
レイジニアの野次が飛ぶ。おそらくは、私の言葉に危機感を覚えたのだろう。
だけれど、私は助けてと叫んで死ぬよりも、本当の事を謝って死にたい。
「ウェヌは幸せになれたかもしれない伴侶を選べず、ブラウンは執事としての安定な日々を失いかけ、ノア先生の職を強引に奪い、ジェスとアポロ王子は今や国賊に等しい。未来は未知だから言っても仕方無いけれど、今この瞬間におびき寄せてしまったのは、私」
「何言ってるの……? まるでニアみたいな、事……」
息が、詰まっていく。言葉がスラスラと出てくる代わりに、四肢が一本ずつ消えていくような感覚があった。
この感覚を私は知っている。
碇二朱は、知っている。
「はぁ……もうそろそろ、駄目ね……。でもね、これはそう、私からの忠告よ。貴方達の人生を狂わせたニア・レイジなんていう人間もまた、許しちゃいけない。そこに寝転んでいる女は世界を壊した女。殺さずとも、魔力だけは、絶対に奪って、監視の目を光らせておかなきゃ……駄目……よ」
首元が冷たくなっていき、言葉の代わりに血が溢れる。
「そんなヤツの戯言に耳を貸してる場合?! さっさと! 殺すのよ! アポロ!」
「あぁ、そうだな」
私は、冷たく放たれたアポロ王子の言葉を聞き、ゆっくり目を閉じる。
どちらにせよ死ぬのなら、このまま自然に死にたかった。
「貴方に、背負わせる……のは、酷、ね」
身体から完全に力が抜けていき、息をするのが苦しくなっていく。
ウェヌは回復魔法をかけてくれているようだけれど、それでギリギリ生命が留まっているくらいのものなのだろう。
「ジェス、手を離せ」
「……殿下」
その言葉と同時に、私の身体が宙に浮く。
「待って!」
耳だけは、その死の最後まで聞こえているらしいという話を昔聞いた。
「あぁ……ぁ、最期くらい、紅茶……飲みたかった、なぁ……ごめんね……みんな」
ウェヌの叫び声と共に、私の混濁しかけた意識の中、ジャキン! という音が聞こえ、私は自身の失敗から招いてしまった死を、悟っていた。
せめて、皆が私の遺言通り、レイジニアの魔力をなんとかして奪い続けてくれる事を、祈りながら。




