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第四十一話『雄々しきフラグは、いずれ王たる為に』

 王城へ乗り込む為の、最後の談合。

 ブラウンとクロによって、スラム街の腐敗要素はある程度取り除かれたと考えていい。

 そうして、フォスフォレッセンスの雨によって、マイロの禁呪の残りが発動するという事ももうないだろう。

 世界のシナリオとして作られていた昨日の『婚姻の儀』は塗りつぶした。

 だけれど、世界と拮抗している人間が、私以外にもう一人いるという事にも、気づいてしまった。


 世界はもはや、その殆どが壊れていると言っても良いだろう。

 婚姻も崩され、もはや話はエンディングに近づいていると思っている。

 アポロ王子が帰ってきた今、最終決戦になるであろうシナリオに寄っているのは理解していた。

 それを乗り越えたならば、この世界のシナリオというしがらみから抜け出す自体は、出来る。


 だけれど、私に世界を動かす力があると同時に、レイジニアにもその力がある。

 結局の所、彼女を止めなければ世界がどうなろうと、私達の生命は、彼女の怒りによって壊されるのだ。

「ふむ……アシャーが死んだか……せめて骨にしてやれ」

 駆けつけたアポロ王子は、隣国の事を話すよりも先に、レイジニアが精神転写を行っていた傀儡、第三王子アシャーの顔へと、自らのマントをちぎり、そっとかける。

 隣国についてはおそらく上手くいったのだろう、問題があればそれを先に話すはずだ。

「最後まで愚弟であったな。この後に及んで魔女に利用されるとは嘆かわしい。だが最後くらい、役に立て。その巨大な植物にも、栄養が必要であろう? 我が許す、撒いてやれ」

 黒焦げになっているフローラを見上げて、アポロ王子は自身の身内を、肥料にしろと言う。

「王子様……それはあまりにも……」

 流石のノア先生も少し引いている。だがアポロ王子が頑として譲らなかった。

「いや、我が許す。最期も惨めだというなら、その先に善行を行わせてやれ。ヤツの本意ではないだろうが。ふん、死人に口は無い」

「では……私が、燃やします」

 ウェヌが、慣れない手付きで炎魔法を扱う。確かに慣れてはいないように見えたけれど、その威力は充分に見えた。これもきっと、彼女なりの思いやりなのだろう。私の消耗を思って、そうして第三王子を思っての事なのかもしれない。何処までも、優しいのだと思って、燃える屍を見ていた。

 その言葉通りに、第三王子アシャーは、王家の墓に入れられる事すらなく、黒焦げでまだ植物としての生命があるかも分からないようなフローラの周りに、骨粉肥料として、撒かれた。

「これで、後は愚兄と愚父……か。話を聞く限り、ニア・レイジとほぼ同一の見た目の魔法使いに注意を払うべきだろうな。愚兄と愚父に、我が剣で負けるつもりは無いが、魔法使いの……それもニア・レイジと同等かそれ以上の相手を眼の前にするなら、我であれどうなるかは分からん」

「心配なのは、誰かが意識を奪われないかっていう事ですね。時間はかかったという記憶が今の私にはあります。だからこそ彼女は今襲ってきたのでしょう。だけれど"次の自分"を示唆していたという事は、そう遅くないうちに次の行動に移るのは間違いない。それに、その禁呪についての対抗策は、見いだせない」


 それこそ、あまりにデータが足りなすぎる。

「いえ、それについては心配無いはずです。ニアさん、私達が創ったフォスフォレッセンスの効用を思い出してみてください」

 ノア先生が、一輪のフォスフォレッセンスを持って、こちらに語りかける。

「僕達が創ったのは、禁呪封じです。マイロの禁呪の詳しい事について分からなかったからこそ、禁呪そのものに対抗出来るように、要は大味の特効薬を創った。だからこそ、おそらくは私達には禁呪そのものが通用しないかと」

「まぁ、紅茶の味は大味じゃあないけれど……確かに言い得てはいるわね。それでも、不安要素であることには代わりない。もし私達のうちの誰かが精神転写を受けたとしたなら、どうしても、覚悟が必要」

 誰かを、殺さなければいけなくなる。彼女が精神体であった時に、どのくらいの研究を進められたかは分からないけれど、少なくとも数ヶ月の時間は経っているのだから、精神転写の禁呪が手軽に使えるようになっていても不思議ではない。

 一方、私の知識にもその禁呪の記憶が流れ込み、使う事こそ出来そうではあるけれど、今の私にそれを使いこなすような自身は無かった。


「ニア様、じょーほーが漏れてるってのは?」

「ん、きっと。ずっと彼女は私達の事を見ていたんでしょうね……正確には見ている、か」

 それは、きっと今も同じなのだろう。

 精神体になっている状態がどのような物かは分からないけれど、彼女が自由自在に第三王子の姿を得るまでの間自意識があったとするなら、私達の事を見張っていても不思議ではない。

 禁呪の使用に於いて、適応という言葉があったことから、おそらくは適応していない人間に禁呪を使うのは手間がかかるのだろう。だが、私という存在であれば精神体の状態でも意思疎通くらいは出来るはずだ。

 そう思う理由は、レイジニア・ブランディという人間を、悔しくもかってしまっている自分がいるからだ。私だって、精神体になった事こそ無いにしろ、その気になれば何かしらの魔法で意思を届ける事くらい、出来るだろうと思える。


――つまり、敵は敵として私達を見ていた。

 その事実に、少しだけホッとする。裏切り者は、いなかったのだ。


「で、隣国の話であるが。結果的に交渉はまずまず、と言った所だ。半信半疑であったのも、まぁ無理はなかろうな。だが防御に徹するべきだという話と、禁呪に付いての話は伝えておいた。そうして、もしもの時に匿ってもらう事を約束しておいた。これは最悪の策ではあるがな」

 それだけしてくれたならば、充分だろう。何にせよ、アポロ王子のルートであったかもしれない、戦争というシナリオはとりあえず回避出来たはず。

 というのも、結局は後から分かった事ではあったけれど、レイジニア・ブランディが婚姻の強制を知らされたのは、私がこちらの世界に来る前だ。ということは元々、この国は戦争をするという流れが出来ていたという事。

 だからこそ、アポロ王子が隣国に出向く事によって、戦争をするかもしれないというシナリオは封じたという事になる。


 世界のシナリオをまた一つ壊した。もう、この世界についてのシナリオという物は殆ど残っていないだろう。作られた物は全て壊し尽くした。まだあるとするならば、第一王子と国王との決戦。

 それに対して、レイジニアが正しく味方をするという、悪役令嬢と悪の親玉のタッグとの決戦というシナリオ。それを破れば、少なくとも強制的に私達が進む事になったアポロ王子のシナリオを元にする世界の意図は打ち崩せるはずだ。

 それでも、向こう側はタッグを組むというよりも、この世界での始めてのバグであり、世界への抵抗者のレイジニア・ブランディの独壇場なのだろうけれど。

「じゃあ、行きましょう。全員で、ね」

 もう、この場に兵士が来る事は無かった。おそらくは、私達が攻めてくる事も筒抜けで、王城の警備に当たっているのだろう。

 それでも、此処に戦闘の出来ない人間を残すのは少し心配だった。

 その時に後ろから、聞き覚えのある声が聞こえる。聞き覚えこそあっても、仲間の声では無い。

「姐さん! 此処にいやしたか!」

 スラムの、情報通の男だった。その後ろには十数人の大人の男女を連れている。

「貴方……どういう風の吹き回し?」

「そりゃあ、どでかい事が起きるってんだから、手伝いに来たんですよ!」

 情報通の男は、倒れている兵士達の身ぐるみを剥いで、その鎧の血も気にせずに着替えていく。

 何とも言えない行為ではあったが、スラムに住んでいた彼らにとっては当たり前のような事なのだろう。

「事情はね、クロとブラウンの兄貴から聞きましたぜ。だから此処は、自分らに任せて、やることやってきてください。ニア・レイジ姐さん」

 これはまた、余計な事を、クロが行ったかブラウンが行ったか分からないけれど、情報通の男は物知り顔で、笑っていた。

「ほんと、嘘ばっかりついたのに、よくもまぁ手伝う気になったわね?」

「そりゃあ、この国一番のニュースが今から生まれるんだ。黙っちゃいられねえよ、なあ!」

 その声に、スラム街の人々が声をあげる。

 

――決して、無駄では無かった。

 我儘だって、時には人を救う。そればっかりが正しいとは限らなくても、その我儘は人を奮い立たせたり、悪い意識を変えたり、強い意志を持たせたりする。

 だから、やっぱり私の我儘に、最後まで付き合ってもらおう。


「……アポロ王子と、ジェスは露払いをお願い」

「我が国の民を手にかけるのも無粋だ。王城の前で、上手く立ち回ろうぞ」

「はい……殿下。ジェス・ブライトは貴方の盾に」


――王国の矛と、王国の盾が、頷き合う。


「クロとウェヌとブラウンは、一緒にね」

 三人が気まずそうな顔をするけれど、この三人にも、仲間として解決すべき事が残っている。


「ノア先生は……なんですかそれ?」

 彼は目に大きなクマを作りながら、謎の液体をグビグビと喉へ流し込む。

「ふへ、ははは……あの子も、この子も、フローラ。フローラが一杯で、僕は幸せだなぁ……」

 彼の白衣の中からは、幾重にも伸びるツタが見え隠れしていた。まさか彼は丸々一晩かけて、自分の身体に纏わせるようなフローラの小型版を創り出したのだろうか。

「本当に……学問と結婚したんですね……」

「いいや? 僕はフローラを愛しているんだ。彼女と一緒なら、そこらの兵士に劣りやしないよ! はは! はははっ!」

 おそらく、自身で創り出した何らかの液体で元気の前借りをしているのだろう。

 法に触れていないといいのだけれど、それは今気にしている事ではない。戦力は一人でもいるべきなのだ。


「そうして、私は一人で行って、食い止める。皆の事、信じてるからね。さっさと追いつく事!」

 ウェヌの、心配そうだけれど、私を信じているという事が分かるような顔。

 ブラウンの、またこの人はという感じで苦笑している顔。

 クロの、きっと大丈夫だろうと、無条件で私を信じ切っている楽観的な顔。

 ジェスの、言葉にはせずとも、絶対に間に合わせると自信に満ちている顔。

 ノア先生の、やっと自分と、その恋人にも大きな役目が出来たと喜ぶ顔。

 アポロ王子の、この娘、よく言ったというような偉そうな笑い顔。


 そんな、仲間達の顔を見て私は頷いて、王城への侵攻が始まった。


 道中の静けさは、この異変を表しているようだった。

「えっと……ウェヌ。話さなきゃいけない事、あるんだ」

 その静けさを最初に破ったのは、クロだった。

 あえてウェヌとクロとブラウンは並んで歩かせていた。誰から話を振るだろうと思っていたけれど、やはり思った通り、クロからだった。


――何故なら、実際にウェヌの姉を殺す寸前まで痛めつけたのは彼女なのだから。

 ブラウンは、ポーズとして、もう放っておいても死ぬようなウェヌの姉にとどめを刺しただけだ。

「ん……なんとなく、分かるよ。あの日の事、だよね」

「そう、だな。ずっとごめんって、言いたかった。だってウェヌの姉ちゃんを殺したのは、殆ど私だから……」

 ウェヌだって、あの重症状態のブラウンが魔物の群れを倒し尽くしただなんて、彼には悪いが思えないだろう。だけれど、目に見えていた現実は、姉にトドメを刺していたブラウンだった。

「いいえ。クロ様が謝る必要はありません。私の我儘で、お願いした事なのですから、それにとどめを刺したという事実は、変わりません」

 ブラウンが、口を開く。

「確かに、クロ様がウェヌ様の姉上様を殺している姿を見せたくなかったというのも事実です。だけれどそれ以上に、ずっと前から虐げられているウェヌ様の事が、見ていられなかったんですよ。要するに、きっと私は彼女の事が、憎かったんです」

「ブラウンさんは私以上に怒ってくれたって事……なんですね」

 ウェヌが、その意を汲んで、言葉を紡ぐ。

 クロは何も言わずに、二人の会話を聞いていた。

「クロちゃんも、ブラウンさんも、ありがとう。大丈夫だよ、二人とも。私を思ってしてくれた事なのは、変わりないんだから。それに、ニアもね?」

 思わず私に言葉が飛んで来たので、私は言葉に詰まる。

「え? あの場で私何かしたかしら……」

「私の家、燃やして、くれたでしょ。へへ、実は、すっっごーくスッキリした!」

 彼女の笑顔は、私にも、クロにもブラウンにも向いていた。

 純粋な笑顔だった。その身を賭けていても、それが善意なら、きっと伝わる。そんな事を思えた。


 それからのウェヌは、クロとたわいない話をしながら、柔らかい笑顔で決戦への行軍へと向かっていた。そうして、ブラウンが少しだけ歩みをおとして、私に近寄る。

「本当に、優しい人ですね」

「そうね。あの子には、きっと誰も敵わない」

 そう言うと、彼は少し笑って、首を横に振った。

「そりゃあ勿論、ウェヌ様の優しさは誰よりも深い。けれどね、ニア様。貴方だってうんと優しいですよ」

 

――まさか、私が優しいなんて言われるなんて日が来るとは。


「本来は伝えるべきでは無かった事、なのに貴方は死地かも知れない場所に行く前に、こんな機会を作ってくださった。だから、ありがとうございます、貴方に仕えられて、私は本当に良かった」

 ブラウンはそれだけ言って、私の返事を待たずに歩を進め、ウェヌとクロの他愛もない話を、微笑みながら聞いていた。


――王城が見えてくる。否、人間の群れが、見えてくる。

「ふん、あの程度で、軍とでも言うつもりか? どの道戦争になろうと、勝てはせぬわ」

 実際、禁呪が揃っていたら分からなかったけれど、これだけ状況をかき乱した今、この国の兵士達にまともな力は残っていない。それでも、数だけは多かった。

「入口を固めていますね……つまり、入られては問題があるという事にもなります」

 ジェスが、馬から降り、その剣を抜く。

「実に分かりやすい。嫌いではないぞ。バカ共の愚策は」

 アポロもまた、馬から降りて、剣を天に掲げる。

 

 王城までの距離は、もう既に声が届く程まで近づいていた。

「有象無象ども! 我を誰だと思っている!!」

 アポロ王子の一喝に、兵士の多くが身じろぐのが見えた。

「通さぬならば、その生命、上手く残してやれるかの保証は無い! 正義が我にあると思うのならば、道を開けろ!」

 だけれど、それでも兵士達は、まるでその場に縛り付けられているように、道を開ける事は無かった。

 流石に王の命令を背くわけには行かないのだろう。

「ふん、であれば! 第二王子アポロ、押し通る! ジェス! 往くぞ!」

「仰せのままに、殿下」

 もはや、ジェスの中ではアポロこそが殿下と呼ぶべき存在なのだと、その言葉が語っていた。

 彼は、アポロを信じている。必ず、この国の腐敗を正してくれると信じているのだろう。

「ウェヌ! 防壁魔法お願い!」

 駆け出したアポロとジェスの背中を見ながら、私は飛び道具の類を警戒して、ウェヌに防壁魔法を張らせる。

「ウェヌは定期的に飛び道具を警戒、クロとブラウンも、ウェヌを守りながら敵兵の鎮圧に協力してあげて! ノア先生は……えっと……」

「僕もニアさんと一緒に乗り込みますよ。僕には魔力という物が存在しないですからね。各々に持ちうる魔力に作用する精神魔法の類は効かないし、もしかすると禁呪が効かない可能性すらある。だからこそ、大した戦力にならないにしても、一緒に行きましょう」

 その言葉に私は頷き、道を切り開き続けるアポロ王子の咆哮をしばらく見ていた。

 

――明らかに、戦闘力という点で飛び抜けている。

 砦で出会った時は魔法や二対一という状況によって、打破出来たけれど、今思えば彼はそもそも本気など出していなかったのだと、今になって気付かされる。

 

 敵兵の剣を弾き、自らの剣でその剣を持つ腕を貫き、蹴り飛ばす。

 その圧が見える程の勢いで、敵兵達の無力化が行われている。

 

「腕に覚えのあるものがいないのであれば、抵抗なぞ無意味であると知れ!」

 ジェスは常に王子の近くで不意打ちに対処していたが、それも意味がないと思う程に、王子の戦闘力は秀でていた。

 ブラウンの戦闘力が、10あるうちの、1から4まで成長したとするならば。

 ジェスの戦闘力が、それのニ倍近い7あるとするならば。

 アポロの戦闘力は、軽く10を越えていてもおかしくない。これもまた、アポロ王子が強いという設定のインフレーションによる効果なのだろう。


 私達が少しずつ切り開かれた道を進んで行くと、アポロ王子の声がよりはっきりと聞こえる。

 元々大きな声は、近づいてみるとまるで叫んでいるかのようだった。

「我が王道を、邪魔する為に生きるな!」

 その言葉は、真に迫っていた。

 国民を守りながらも、自らの敵をなるものにはしっかりと罰を与える。

 不器用で、優しく、ぶっきらぼうで、強い彼が、道を切り開いて行く。

「ジェス、我が王道が、こんなものになるとはな!」

「剣が答えを示す事だって、ありますよ。殿下」

 その答えに、アポロは笑って答える。

「殿下殿下と、気が早いな。お前は、だがすぐに本当にさせてやろうではないか!」

 アポロは血を振るい落とし、敵兵のリーダーらしき人物と、対峙する。


「敵うと思って、そこに立っているのか?」

「それでも、私は此処に立てと、そう命じられました」

 敵兵のリーダーのその言葉を聞いて、アポロは少しだけ悲しそうな顔をしてから、その剣を空高く投げ、多くの敵兵がその光景を目にする。

「そんな命令など、我がこの手で砕いてやる」

 そうして、彼は徒手空拳で、敵兵のリーダーの腹部へと、思い切り正拳突きを放った。

 小手をつけているとは言え、相手だって鎧をつけている。だけれど、その鎧が大きくへこんでいる。

 

 二撃目で、敵兵の口から血が溢れた。

 そうして、三撃目を待たずして、バタンと敵兵のリーダーがその場で倒れる。

「その痛みを以て、我が王道への抵抗を不問とする!」

 倒れた敵兵のリーダーに足をかけ、アポロは同じ事をまだ動けるであろう兵士達へと叫ぶ。

「死に身を投じるなど、巫山戯るな! そのような命が下る国など、腐りきっている。我は主らにいくらでも痛みを与えてやろう。だが殺さぬ、その痛みを以て、我が王道への抵抗は全て不問とする!」

 その声が響き渡っても、それでも尚、呪いのように縛られた王の勅令は、兵士達に剣を握らせる。

 

 だけれど、前に進む道は開かれた。

「行け。ニア・レイジ。後は我らが何とかしよう。何、すぐに追いつく。」

 

――彼の、王になる為の器は、間違いなく本物だった。

 雄々しく振るわれるその剣は、人を殺さず、正すためにあるのだ。

 王城の入口から、改めて大声を上げながら敵兵を無効化するために走り出した王子のときの声を聞きながら、私はノア先生を連れて、王城の中にいるであろう。最大最悪の『怒り』に向かって、歩を進めた。

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