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とある海岸沿いの町 宇打市にて

「海だ」

「海だわ」

「海」

「海だコレ」

「海だね」


「うだみん(海を題材にした高出力公式萌えキャラクター ウダーとか叫ぶ 髪は緑色で目が><とかになる 非常にかわいらしいし、海要素は一切合切無 チビ)」


【うだみんの日常】

「ねーうだみーん。今日は海行かないのー?」

「……」

 すっかりと耄碌した友人の声色に亡き母の面影をみる。すっかりと暮れ沈んだ夕日はとっぷりと畏怖の波際、そしてまた水平線境界。白日とは裏腹に生命の胎動、及び蠕動を促すことなくやや荒れ気味に。

「朝ごはんどうする? またカレーにする?」

「ウダー……」


 彼女ことご存知『うだみん』は環境という外的要因の為、自身もまた耄碌、ひねこびてゆく事に対し僅かな憤懣を抱きつつある。しかし幾許かの変化であれ、様相があらぬ方向へと傾くのを恐れてもいる。生活様式、及び思想を洗い直すのがこの上なく億劫なのだ。

「しかしまぁ、コペルニクス的転回に乗っとりカツ丼等にするのもオツなのでは?」

「ウ、ウダーラ……」


 彼女らは夕ご飯を食べ終えるや否や、もう既に翌日の朝食について茶飲み話を繰り広げて。夢や目標を人生から取り上げると自ずから話題は卑近で下らぬモノへと。実直に生活に結びつくインスタントな事態をただ欲する。うら若き乙女よ、怠惰は毒である。


「宿題やった?」

 うだみんは静かにその指を海へと突き指し嘲る。

「ウダらぬ、宿題などとは資本主義(?)の産み出した盲目的課題にすぎない。ポスト構造主義的俯瞰視点から見渡した場合、私のこの考えすら構造の中の——」

「宿題?」


【アトマ(飼い犬)の弁明】

「ワンワワ、ワンワ、ワ——」

「アトマー、ご飯もらったー?」

「ワン——」

「このお粗相の夥しさウダは?」

「ワッ——」

「人間だねお前は、そう人間」


【宇打市観光促進委員会】

「えー、今日は皆さま、お集まりいただきまことに、まことにありがとうございます。進行はわたくし——」

 往々にして不思議な存在は人間社会に放り込まれ見せ物にされる。ひた隠しにされる物語など有るだろうか? 事象は観測者ありきなのだ。取り繕い虚しく観光大臣こと大二郎の卑しき感情(うだみんを利用して地元を盛り上げる事)は観衆へと露呈していた。


「ウダー! みんなの海産アイドル、うだみんだよー!」

 彼女が何者なのか誰も知らない。ある人が言うには地球の意志。ある人にとっては大切な友人。観念が生み出した集団幻影。バーチャルAI表象アイドル。彼女は明るく振る舞うが、その瞳の奥にほの暗い情景を皆が覗き見ている。以上の事を共通認識として理解しつつ、味わいのある観点から、やや遠巻きに楽しむのだ。換言すると対岸の火事大海を知らず(?)。


「うだみんさん、お疲れ様です」

 大二郎の側近善吉の家系は明治より鉄鋼業で財を蓄え、彼自身は放蕩息子として有名だが、アイドルのプロデュースに関しては自信ありと客観を欠いた勘違いをしている。人は手付かずの自然を目の当たりにした時、足跡のひとつでも残そうかと考えてしまうのである。そのような心持ちから、純朴なうだみんの才覚を見出し、より有能なプロデューサーの手に渡る事を阻止する為囲いを設けたのだ。


「この490円のお弁当も飽きたウダ」

「左様ですか」

「……」

(終わった……!?)


【うだみんレストランへ】

 活動終了後の昼下がり、宇打市沿岸にある地元民御用達の場所へ彼女らは足を運んでいた。アイドル活動一周年を記念し友人が奢ってくれるらしいのだ。

「久しぶりだねー外食」

「じ、じゃあこの特別製サーロインをウダ……」

 店員曰くソレは人気故に品切れとのこと。

「それじゃ8種のチーズのエピックピッチァを」

(ぴっちぁかわいい)

 しかしながら原材料価格高騰の波を受け1200✖︎→4500となっており、手の届く範囲且つ、腹が満たされそうなカツカレーを注文した。


「ウダー……」友人ことキオミは唐突にエビグラタンを吹き出す。理由を尋ねると先程のピッチァとやらが遅れて笑いを誘ったらしい。肩を震わせながらドリンクバーへと歩む彼女の後ろ姿を見尽くすと、食後のコーヒーが当然食後に出てくる事実を自覚し、食事中店員の監視下にある空恐ろしい実感が全身を支配した。

 キオミの手の中にあるドリンクは濁った色をたたえており、説明不用の所業を繰り出した次第で。うだみんはソレを見つめながら又、人類の足跡と重ねずにはいられなかった。


「私もなんかさ、店員にジロジロされてた」

 当たり前だろうと、うだみんは思った。バタ臭い馬鹿笑いを繰り出しながらドリンクサーバーを右往左往する彼女の姿は店員に奇異な感触を与え、不愉快に眉をひそめさせた。

 この店員は善吉の孫娘で、名をアイコという。殊更外面だけがよい祖父に対し嫌悪の感情を持ち合わせ、商売道具とされているうだみんに憐憫、又は同情すらあった。にも関わらず彼女の口から湧いたのはつまらないアイロニーであった。


「それ、似合ってるね」

 うだみんは常にホタテを模したポーチを持ち歩いているが、言うまでもなくこれは本人の意志でなく、善吉に無理矢理待たされているのである。当然ファンはそれも理解し、否応なしに海産アイドルをさせられているうだみんに対しトキメキに似た気持ちの悪い感情を抱く。しかし、彼女を特別視していないアイコは堂々と。


「ありがとうウダ!」

 アイコはこの瞬間全ての勝手極まるわだかまりが溶け去るのを感じた。不本意とはいえ長いことアイドル活動を続けてきたうだみんには人を魅了する素養があったのでアイコは決意した。

「ずっと好きでした」

「はあぁ!? あんた頭おかしいんじゃない!? 私はねぇ、この一年間ずっと友達だったワケ、わかる? いきなりそんな……ねぇあんたさ、おかしいんじゃない!?」

 キオミの中身の無い反論に彼女は毅然と対応。

「店長(大二郎の一人息子)、今日は上がって彼女らと出掛けても?」

 大二郎の息子征五郎は小さい頃からアイコを知っており、一度言い出したら聞かない性分を熟知している。彼女の母エツミと不徳をいたし弱みを握られ、アイコを不当な時給で雇ったことを皮切りに経営難に瀕していた。しかしアイコの我儘に反駁した場合どうなるかは説明するまでもない。


「ああいいよ、いっといで」

 その次第で彼は表面上は人のよい、物分かりのよい店長を演じる。一端のプライドだけを健気に守る意志のない奴隷、柴田征五郎。アイコはほんの一瞬、侮蔑の目を彼に差し向け店を後にした。


 つづく

 

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