第72話
嫌悪
母が死んだ。十年以上の無為徒食にも誹らずに。
母の顔は安らかだった。わたしは、心底安心した。
心身ともに閉じ籠もったこの生活ともおさらばだ。
どうしてわたしは劣っているのか。他人と同じになれないのか。
どうして、わたしは……生まれてきたのか。
結局、答えは出なかった。
母は「元気でいてくれたなら」と何も咎めはしなかったが、わたしの強い自責の念は日に日に大きくなっていた。
黒い黒い感情一つがわたしの全てを支配して、今の今まで心が安まる時間はなかったように思う。
父はかれこれ十年前に。そうして母は、つい先日。
両親がいなくなったが故に諦めたというわけではなく、わたしは、父が死ぬより前から……。
この日を、ずうっと待っていた。
「――」
父母には人一倍の感謝の気持ちを抱いていた。先立つことこそ親不孝だと落伍者なりに思慮したのだ。
世界や社会が嫌いだとか、人間自体が嫌いだとか、決してそういうわけではない。
わたしは、わたしのことが――。
「……」
小さな少女が悲しい瞳でわたしのことを見つめていた。
ありがとう。だけど、わたしに同情なんてしなくていい。
わたしに生きる資格はない。わたしに生きる希望はない。わたしに……生きる価値などない。
わたしは、わたしが大嫌いだ。
アーチン・ドライアンドラ




