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叛逆のヴァルキューレ  作者: 雪野螢
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第71話

一刻




「ムクゲ……? ああ、ムクゲじゃないか!」

「ムクゲが村に帰ってきた!」


 勝手知ったる村人たちが俺の帰郷を出迎えた。

 みんなに変わりはなさそうだった。


 俺は故郷に帰ってきた。


「小母さん、ムクゲ! ムクゲだよ! さあ、早くこっちに来て!」

「ムクゲ、ほんとにあんたなの……?」

「あはは。お袋、ただいま……」

「ああ……」


 俺の姿を見るや否や、母はその場で泣き崩れた。

 終戦してから暫らく経つ。随分、遅れてしまったから。


 俺は戦で徴兵された。しがない一般兵だった。

 南に軍を進めんとする帝国方に属していて、竜王国との前哨戦に参加。そうして敗北した。


 あれから長い時間が流れ、月日が経ってしまったが……再び母の顔が見れた。

 心の底から安心した。


「ムクゲ、ほら、こっちにおいで! お腹が空いたろ。ご飯にしよう」

「今日はムクゲの帰郷祝いだ! 村の総出で騒ぐぞ!」

「おお!」


 村人たちは俺のために食材、酒を用意して、疲れてそのまま寝落ちするまで村の灯りを燈していた。

 宴の後、母は一人で流し台に立っていて、後片付けを手伝いながら……。


 俺はゆっくり開口した。


「お袋、いろいろありがとな」

「何だい。改まって」

「……」

「いろいろって、どういうことだい」

「いろいろったら、いろいろだよ」


 少し前まで喧しいほど同郷(みんな)が騒いでいたのだが、今はとても静かだった。

 夜の帳が下りている。


 母が食器を水で洗い、食器(それ)を受け取り、布巾で拭く。

 戦争前は毎日親子(ふたり)で流し台に立っていて、これは本来、我が家にあった……いつもの光景だったのだ。


「お袋、俺、帰って早々、慌ただしくて悪いけど……暫らく家を留守にするよ。ごめんな。ゆっくりできなくて」


 母の横顔(かお)に驚いている様子などは一切ない。

 振り向き、姿を現している――。


 戦女神を見つめていた。


「……」


 神の姿を見たとて母に動じる気配はなく、戦女神は後片付けを手伝い、一人で黙っていた。


 迎えるように、認めるように、受け取るように……首肯して、母は俯き、沈黙する。


 最後の食器を拭き終えた。


「まあ、そういうことだから。俺、そろそろ行くよ」

「……」

「お袋、なるだけ長生きしろよ」

「ムクゲ――」

「元気でいてくれよな」


 北と南の戦争中に俺は命を落としていた。

 世界の鎖に縛られながら戦女神に願いを乞い、たった一日、俺は故郷に帰還を果たしていたのである。


「……」


 母の小さな肩に何も言わずに両手を添え、彼女が後ろを振り向いた時、俺の姿は消えていた。


 はっきりしたのは、親に嘘など通用しないということだ。

 母は唯一、俺の身体が霊体なのだと気付いていた。




ムクゲ

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