第31話
悲劇
――月の日。
明日は何を隠そう、わたしの十五の誕生日だ。こんな時世にそんな呑気な、気楽なことは言えないけど、家族揃って明日という日を迎えられて幸せだ。
何でも、母がわたしと父に大事な話をしたいらしい。一体、何の話だろうか。
母の横顔が胸に残る。
――火の日。
昨日、仄めかされた大事な話の内容は、わたしの実の男親は別人だということだった。母は昔、父とは異なる別の間男の子を宿し、それを隠して、秘密にしたまま父と婚姻したのである。
驚くことに今の今まで、それは父さえ露知らず……母の話を聞いた父は、黙って家を出ていった。
――水の日。
十五の誕生日とか、浮かれたわたしが馬鹿だった。母はその日に打ち明けようと決めていたとのことだった。あれからわたしは部屋に籠もり、一度も外には出ていない。食事も、水さえ飲んでいない。
一人で蹲っていた。
――風の日。
親子で過ごした日々に、わたしは思いを馳せていた。父も母もとても優しく、わたしを愛してくれていた。
母は何度も、扉越しにわたしに語りかけてくる。嗚咽の混じった謝罪の声が、わたしの心を苛ませた。
――金の日。
今日はフレイア様が女神の涙を流した日。フレイア様は夫を捜して金の涙を零したらしい。
母も、父の帰りを待って毎日涙を流している。父は未だに帰ってこない。
わたしは、部屋から外に出た。
――土の日。
母と話をした。互いの気持ちや、考えを。父とも話をしたいと思う。
きっと……分かり合えるだろう。
――天の日。
週末。今日は天の日。母と買い物に繰り出した。父が好きな料理の具材をたくさん準備するためだ。
一息ついて、一旦、わたしは部屋で日記を書いている。家の呼び鈴が鳴り響いた!
続きは、あとで書こうと思う!
「……」
「ねえ、もういいでしょ。恥ずかしいから止めてよ」
「……」
「人の日記を読んだりして、ほんとに変わった神様……」
「……」
あの後、わたしはすぐに戸口に飛び出し、呼び鈴に対応した。
思った通り鈴を鳴らした主はわたしの父であり、しかし、父は何も言わず、冷たい表情を浮かべていた。
「その後、起きたことは全部、女神様も知ってるでしょ。お父さんは調理中のお母さんの台所に行き、包丁を奪い、襲いかかり……わたしは必死に食い止めた。それで、わたしは突き飛ばされて、頭を打って、そのまま……」
「……」
父も父で、一人になって苦悩し、考え抜いたのだろう。そうして「決して許せはしない」と自分で結論付けたのだ。
父は我に返った後、自責の念から自刃して……娘と夫の最期を目にし、母も同じく自刃した。
女神様は、わたしの日記を何度も何度も読んでいた。
彼女がわたしを選んだ理由は、わたし自身も分からない。
父と母が、死んだ後に……和解できたか心配だ。
両親の仲が直ったことを、娘は、ただただ信じている。
キンセンカ




