表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
叛逆のヴァルキューレ  作者: 雪野螢
31/142

ヴァルハラ回想3




 話し終えたクローバーは蜜酒(ラード)を一気に飲み干して、わたしはすぐに追加のお酒を用意し、彼にお酌した。

 ダンデはとても複雑そうな目顔で沈黙していたが、クローバーが話を区切ると、付け足すように開口した。


「あとはみんなも知っての通り、帝国(きた)の独断専行だよ。僕らはそれぞれ西と東の故郷に一旦帰還して、クローバーは間もなく自刃。僕も僕で自分の才華に打ち勝つ手立てを探してた。北の勇者は向こうの国では傀儡になってるらしいから、知り得た情報(こと)を帝都に戻って残さず報告したんだろう。魔王がいないと分かった途端に停戦中の軍事を始動。帝国(きた)は聖王国を襲い、城を落としてしまった」

「……っ」


 今にも激昂せんとばかりの(メネス)(トケイ)が宥めている。

 片手で両目を覆い隠したリナリア老の姿を見て、クローバーは「浅慮だった」と自分の判断を悔いていた。


「いいえ。仮に西東(ふたり)の勇者が別の選択を取っていても、帝国による開戦自体は避けられようがなかったでしょう」

「ええ、わたしも女神様の仰るご意見に同意します。クローバー様もダンデ様も、どうかご自分の責任などとは考えないでください」

「……」


 エインヘリャルの約半数が聖都を偲んで黙祷する。


 そんな中で、残り半数はお酒にべろべろに酔っていた。

 その中心で旗を振るのはいつもの通りバーベナで、彼女は視線が合うや否や、わたしに縋りついてきた。


「お嬢ちゃーん、一緒に飲もー?」

「今、大事な話を……」

「えへー」


 たとえ同じ人間でも、自分が死んだ後の世界に興味があるかは区々(まちまち)らしい。

 わたしに抱きつくこのバーベナも聖都の生まれのはずなのだが、勇者や戦争の話になっても関心を示していなかった。


「あ、そうそう。お客さんよ」

「え……?」

「こっちにいらっしゃーい」


 がやがや騒ぐ酒池肉林の宴の席から起立して――。


 こちらに来たのは、魔王軍の女悪魔だった。


「げーっ!」


 ユカリが椅子から引っ繰り返って、石のように硬直する。

 女悪魔は面白そうに、彼の身体をつついていた。


「真面目な話をしてたからさ、あっちで一緒に飲んでたのよ。でもでも、話は済んだんでしょ? それじゃあ、お客に応じてよね」

 

「今日は飲むぞ」とげらげら笑って、バーベナが席に戻っていく。


 ユカリは我に返るや否や、女悪魔を睨みつけた。


「おい、どうしてお前がここに! 悪魔が神界にいるんだよ!」

「君と同じで、戦女神に選定されたからだよ?」

「えーっ!」


 ユカリがこちらを凝視するので、わたしはこくりと頷いた。 

「女神ちゃんは知ってたの……?」「はい。それはもちろん」「ええ……」


「正確には、わたしではなくわたしの同輩によるものです。彼女は強い力を持つので、選定の対象になりました」

「だってこいつ、魔王軍だし人間じゃないし、悪魔じゃん!」

「わたし、半分は人間だよ。というか、元々人間」

「はあ……?」


 くすりと笑い、女悪魔は二人の勇者に目を向けた。

 

 元は敵対していた仲だ。

 辺りが緊張に包まれた。


「さっきのお話、楽しかった。全部聞かせてもらったよ。まあ、南の勇者の事情(こと)ならわたしも知ってたけれど」

「……」

「どう? 喧嘩はここまでにして、そろそろ和解しておかない? 同じエインヘリャルの誼み。今後は仲良くしようよ」

「……」


 長い尻尾でユカリの身体をぐるぐる巻きに縛り上げ、女悪魔は楽しそうに嘗ての(かたき)に問いかける。

 ユカリは「助けろ! 助けてくれ!」と必死になって訴えるが、どうも二人の様子を見るに救出する気はないようだ。


「もしも生前(むかし)のことは忘れて友達(みかた)になってくれるのなら、わたしの知ってる魔王の話を聞かせてあげてもいいよ」

「……何?」

「あとね、ユカリをわたしにちょうだい。それが仲間(みんな)に秘密を明かす、わたしからの条件」

「……」


「乗った」と口を合わせた二人が、女悪魔と握手する。


 ユカリが「乗るな!」と反論するが、周囲からは拍手が湧き――。

 人と悪魔の直談判は、賛成多数で成立した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ