表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
叛逆のヴァルキューレ  作者: 雪野螢
135/138

ヴァルハラ捜査8




 ノルンの泉のそのまた先には小高い丘陵帯があり、そこには純白色の野花が辺りに咲き広がっていた。


 白いお花。見憶えがある。人間界の野生花だ。


 お花畑のその中心に、二人の男女を発見した。


「綺麗なお花畑ですね」

「へ……? あ、ラーズ様」


 眠たそうにうとうとしていたその人物はソニアである。

 そして彼女の膝を枕に鼾を掻きつつ寝ているのは、無防備すぎる素顔を浮かべる、勇者のクローバーだった。


「ぐっすり熟睡してますね……」

「そうなんですよ、全くもう。人の膝を占領しといて、ほんとによろしいご身分です」

「それだけ貴女と一緒にいるのが安心できるということかと」

「どうですかねえ。小さい頃から、こういうところは変わらずです」


 寝顔の頬をつんつんしたとて彼が目覚める様子はない。


 クローバーの頭を撫でつつ、ソニアはくすりと笑っていた。


「ここ、わたしたちの故郷に地形や景色が似てるんです。種を撒いたら、ご覧の通り! お花畑ができました」

「それで、二人で日向ぼっこ?」

「はい、今日は休養です。クローバーはエインヘリャルの任務も稽古も大変で、たまにはゆっくり休ませたくて……そしたら、こういう有り様です」


 戦女神(わたしたち)にはエインヘリャルの選定以外の仕事もあり、わたしの場合、勇者たちがその大半を担っている。

 取り分け西の勇者の彼にはおんぶに抱っこに肩車で、お陰でわたしはこの神界で(ぎりぎり)立場を保てていた。


「クローバーには、ほんとにほんとに、たくさんお世話になっています。負担をかけてしまっているなら、そこは講じるべきですが……」

「いえいえ、こいつはこいつなりに自由にやってるだけですから。遠慮も憂慮も不要ですよ。()き使ってください」

「?」


 すると、ソニアが輪っか状の、草……? 花……? を持ち上げた。


 純白色の花冠だ。

 わたしはそれを受け取った。


「クローバーが寝てる間、のんびり作ってたんですよ。ラーズ様に差し上げます」

「綺麗……」

「きっとお似合いです」


 花冠を頭に乗っけて、こほんと一回、咳をつく。


「どうでしょうか」「お可愛いこと!」――ソニアはにこりと笑っていた。


「……」


 ソニアとクローバーを眺めていると、思い出す。

 コスモス、そしてカーパスである。彼らは奥手であったのだが。


 自分の家族のそういう(・・・・)事情に、わたしは極めて疎かった。

 謂わば、わたしは「お母さん」なわけで。


 ちょっぴり気になった。


「ところで、ソニア」

「何でしょうか」

「付かぬことを訊きますが」

「はい、何でもお尋ねください」

「クローバーとは、ちょめちょめは?」


 ぼふっ!

 ソニアの脳が、頭が、沸騰(フットー)しそうだよう! となる。


 しまった。野次馬女神のせいで、わたしも触発されていた。


「あー、えー、今のはなしで……」

「……」

「ソニア……?」

「……ええっと、はい」


 何が「はい」かは分からないが、ソニアはこくりと首肯した。


 クローバーが寝返りする。わたしに背中を向けていた。


「クローバー、貴方、もしや……」

「……」

「……」

「……」


 ……。


「……英雄、色を好むですか」

「ラーズ様ったら!」

「冗談です」


 両手で目顔を覆い隠すソニアの頭をぽんぽんし、黙ったままのクローバーに小さく窃笑。

 振り仰ぐ。


 さて、いよいよヘリアンサスの行方が不明瞭である。一体全体、どうしたものか。

 風が一陣、吹き抜けた。


 一度、お城に立ち戻るのも良案、着想かもしれない。

 わたしは二人の幼馴染みの豊かな時間を敬って、お邪魔にだけはならないように――。


 風と共に姿を消す。


「ラーズ様……?」


 左、右とソニアが辺りを確認する。


「?」


 気付けば、クローバーが彼女のその手を握っていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いちゃいちゃは良い…ラブラブは尊い…善きことかな〜♡(ꈍᴗꈍ人)<ヘリアンサスがいないのが、とーっても気になりますが…… 遅くなりましたが、残暑見舞いをお贈りいたします〜♪ https://4272…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ