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叛逆のヴァルキューレ  作者: 雪野螢
134/137

ヴァルハラ捜査7




「あ、ロメリア、女神様だよ」

「ほんとだ! こっちこっち!」

「?」


 フォールクヴァングの大宮殿に豊穣神を放置して、わたしは元いた場所へと戻ってヴァルハラ捜査を続けていた。


 ノルンの泉に足を延ばしてヘリアンサスを捜索中。

 見やれば、ロメリア、アスシア……更にはちょっぴり離れて、アルスがいた。


「三人とも、お散歩ですか」

「はい。天気がよかったので」

「ラーズ様、見て見て!」

「?」

「いーっ! いーっ! わたしの歯!」


 人差し指を口に突っ込み、左右に広げるロメリア嬢。


 彼女が生前失くした全歯は、元の状態(とおり)に戻っていた。


「わあ、とっても綺麗な歯」

「そうでしょ? そうでしょ? えへへへへ……」

「貴女が元気になってよかった」

「うん……?」

「いいえ、こっちのこと」


 小首を傾げるロメリア嬢は「まあ、いっか!」と笑っていた。


 ノルンの泉で水場遊び。

 アスシア嬢が構っている。


「……幼児退行の一種、なのか?」

「そうかも。子細は分かりません」

「……」

「あの子は失意の底へと沈んで命を落としています。精神的に異常を来していても、不思議じゃありません」


 ロメリア嬢は冤罪により収監されて、没している。

 彼女の心身的な負傷は尋常ではないものだった。


 それこそ、今、笑っていられることが……奇跡であるほどに。

 アルスは心底神妙そうに実妹(かのじょ)の姿を見つめていた。


「あの子がこの地にやってきた時、その身は衰弱しきっていて、第二の人生(ひび)を送ることなど考えられないほどでした。しかし、間もなくアスシア嬢がわたしの家族になってから、消沈していたロメリア嬢の(こころ)を癒してくれたんです」


 アスシア嬢はエインヘリャルになって早々、名乗り出て、それはそれは親身になってロメリア嬢を介護した。

 ロメリア嬢は少しずつだがその目に光を取り戻し、そうして笑顔を浮かべるまでに、ここまで快復したのである。


「お兄ちゃん」


 いつの間にやら、ロメリア嬢がすぐ傍に。


 半分こした双子の名前アルストロメリア・アイスクリーム

 その目は実兄(アルス)を見つめていた。


「お兄ちゃん、アスシアさんに伝えたいこと、あるんじゃない?」

「ロメリア……」

「ほら、一緒に行こう? 大丈夫。わたしもついてるから」


 こくりと頷き、にこりと微笑み、アルスの手を引くロメリア嬢。


 アスシア嬢は何かを察したように、二人を見つめていた。


「アスシア、俺は……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」


 ……。


「お前を殺してしまったことを、今は……後悔している」

「……」


 長い長い沈黙の後、二人は互いに見つめ合い――。


「お気持ちだけで充分です」と、アスシア嬢は微笑んだ。


「アスシア、お前……」

「過ぎたことです。大体、お互い様ですよ」

「だけど、俺は、お前の家族を……」

弟妹(ふたり)は救けてくれたでしょう?」


「わたしはそれが嬉しかった」と、アルスのその手を包み込む。


「お前に頭は上がらないな」――二人は一緒に笑っていた。


「よかった。二人が仲直りして」

「え……? ロメリア、貴女……」

「ふふ」


 わたしの隣りに立ったロメリア。わたしは彼女に目を見張る。


 人差し指を口に当てて、彼女は片目を瞑っていた。




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実は策士?(笑)(*´艸`*)
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