ヴァルハラ捜査7
「あ、ロメリア、女神様だよ」
「ほんとだ! こっちこっち!」
「?」
フォールクヴァングの大宮殿に豊穣神を放置して、わたしは元いた場所へと戻ってヴァルハラ捜査を続けていた。
ノルンの泉に足を延ばしてヘリアンサスを捜索中。
見やれば、ロメリア、アスシア……更にはちょっぴり離れて、アルスがいた。
「三人とも、お散歩ですか」
「はい。天気がよかったので」
「ラーズ様、見て見て!」
「?」
「いーっ! いーっ! わたしの歯!」
人差し指を口に突っ込み、左右に広げるロメリア嬢。
彼女が生前失くした全歯は、元の状態に戻っていた。
「わあ、とっても綺麗な歯」
「そうでしょ? そうでしょ? えへへへへ……」
「貴女が元気になってよかった」
「うん……?」
「いいえ、こっちのこと」
小首を傾げるロメリア嬢は「まあ、いっか!」と笑っていた。
ノルンの泉で水場遊び。
アスシア嬢が構っている。
「……幼児退行の一種、なのか?」
「そうかも。子細は分かりません」
「……」
「あの子は失意の底へと沈んで命を落としています。精神的に異常を来していても、不思議じゃありません」
ロメリア嬢は冤罪により収監されて、没している。
彼女の心身的な負傷は尋常ではないものだった。
それこそ、今、笑っていられることが……奇跡であるほどに。
アルスは心底神妙そうに実妹の姿を見つめていた。
「あの子がこの地にやってきた時、その身は衰弱しきっていて、第二の人生を送ることなど考えられないほどでした。しかし、間もなくアスシア嬢がわたしの家族になってから、消沈していたロメリア嬢の魂を癒してくれたんです」
アスシア嬢はエインヘリャルになって早々、名乗り出て、それはそれは親身になってロメリア嬢を介護した。
ロメリア嬢は少しずつだがその目に光を取り戻し、そうして笑顔を浮かべるまでに、ここまで快復したのである。
「お兄ちゃん」
いつの間にやら、ロメリア嬢がすぐ傍に。
半分こした双子の名前。
その目は実兄を見つめていた。
「お兄ちゃん、アスシアさんに伝えたいこと、あるんじゃない?」
「ロメリア……」
「ほら、一緒に行こう? 大丈夫。わたしもついてるから」
こくりと頷き、にこりと微笑み、アルスの手を引くロメリア嬢。
アスシア嬢は何かを察したように、二人を見つめていた。
「アスシア、俺は……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
……。
「お前を殺してしまったことを、今は……後悔している」
「……」
長い長い沈黙の後、二人は互いに見つめ合い――。
「お気持ちだけで充分です」と、アスシア嬢は微笑んだ。
「アスシア、お前……」
「過ぎたことです。大体、お互い様ですよ」
「だけど、俺は、お前の家族を……」
「弟妹は救けてくれたでしょう?」
「わたしはそれが嬉しかった」と、アルスのその手を包み込む。
「お前に頭は上がらないな」――二人は一緒に笑っていた。
「よかった。二人が仲直りして」
「え……? ロメリア、貴女……」
「ふふ」
わたしの隣りに立ったロメリア。わたしは彼女に目を見張る。
人差し指を口に当てて、彼女は片目を瞑っていた。