ヴァルハラ捜査5
リコリス、アザミの一騒動は事なきを得て落着した。
二人を危惧して見守っていた家族は胸を撫で下ろし、それぞれ思い思いの場所へと捌けて、この場を後にした。
その際、ヘリアンサスの所在を尋ねて回ってみたのだが、ただの一人も彼女の行方を知らず、頭を捻っていた。
大城門を潜り、わたしは一人、腕組み考える。
ヘリアンサスは一体全体、どこに行ったというのだろう。
「女神様ー」
少女の声だ。わたしはそちらに振り返る。
シラユキだ。
彼女はこちらに駆け寄り、ぺこりとお辞儀した。
「女神様、城門前で何やら騒ぎが起きてたけど、大丈夫? 何だかみんな、心配そうにしてたけど」
「はい、問題ありません。概ね解決しました」
「……?」
「それより、シラユキ、調子はどう? 身体に異変はないですか?」
「女神様ってば、そればっかり。わたしはとっても元気だよ?」
今のこの子のその外見は十四歳のものだった。
彼女は死没を経験すると同時に、記憶を失くしていた。
言うなれば、元の姿に戻ったということだろう。
彼女はかれこれ数十年間、寝たきり、植物状態で、目覚めと同時に自身の変化を受け入れられずに、憤死した。そうしてエインヘリャルとなって神々の世界に来てみれば、彼女の霊体は老婦ではなく、少女となっていたのである。
「そう。それなら、それならいい。元気であるならよかったです」
「えー? 変な女神様……」
「ふふふ」
「シラユキ、早くしろー」
見やれば、小さな少年少女が愉快に駆けずり回っていた。
金の野原で子供たちが仲良く、みんなで遊んでいる。
「ジオン、ラナン、カズラに、チドリ、それから……リジアやカランもいる」
「わたしはちょっぴり年上なのに、みーんな、ほんとに生意気だよ……」
「分かった分かった! すぐ行くから!」と、子供たちに返事をする。
彼らは心底楽しそうに、きゃっきゃと笑い合っていた。
「女神様も一緒にどう? 子守りみたいになっちゃうけど」
「ごめんなさい。用事があって」
「用事?」
「ヴァルハラ捜査です」
「何それ。意味が分かんない」とお腹を抱えて一笑し、彼女は元いた場所へと戻り、子供たちと合流した。
数十年間、眠り続けていたとは到底思えない。わたしはそれでも構わなかった。
彼女が、幸せだったら。
「……」
魂とは、心の中身が形となったものである。
竜の姿を具現化させた竜王国のローダンセも、一時的に昔の姿に戻った老兵リナリアも、強い思いがあったからこそそんな奇跡を起こせたのだ。
シラユキとて、そんな思いを以って子供に戻ったのだ。
わたしは否とは思わない。
「あはは!」
彼女は笑っていた。