ヴァルハラ捜査
「ラーズちゃーん、お邪魔しまーす」
「おや、エルル」
「こんにちはあ」
大食卓の厨房奥にてお昼ご飯を調理中、戦女神の仲間の一人、エルルーンが訪ねてきた。
「んー、とってもいい匂い! わたしもお腹が空いてきた!」
「……エルル、匂いに釣られて来たの?」
「まあ、半分正解かな」
「ヘリアンサスを捜しているの」と、エルルはわたしに尋ねてきた。
聞けば、彼女はここのところ、自室に戻っていないらしい。
「元々自由な子ではあるし、不問に付してはいたけれど、そろそろ監督不行き届きになり兼ねないと思ってね」
「それで、一矢がわたしのもとに?」
「一番、確率高いじゃない?」
確かに、あの子は、ヘリアンサスはいつもユカリと二人でいる。
しかし、思い返してみれば……この頃、彼女を見てはいない。
「あまりに奔放すぎるがために謹慎させているのかと」
「まさか。というか、命じたところで従わないんじゃないかなあ……」
「ユカリは今までここにいたわ。席を外したばかりだけど」
「むう。でも、ユカリ君って最近、あの子と一緒にいた?」
はて。となると、ヘリアンサスはどこに行ったというのだろう。
「うーん」
わたしは考え込む。
「はっ!」
わたしは、はっ! とした。
「わたしの家族に、生前、彼女の執事であった老爺がいて……もしかすると此度の事件、彼が関係しているかも」
「あー、それ、ボルネオさん?」
「何だ。エルル、知ってたの」
「リアン姫! リアン姫! ってわたしのところに訪ねてきて、ぽかんとしてたらその勢いでどこへともなく飛んでったわ」
「それが何か?」と首を傾げるエルル。
わたしは腕を組む。
なるほど。つまりボルネオ老は「リアン姫」を捜していて、そしてどうやらヘリアンサスは彼から逃れているようだ。
分からないのはヘリアンサスが逃走している理由である。二人が出会うと不味いことが……?
お皿に料理を盛りつけた。
「とりあえず、エルルの分」
「え、いいの? ありがとーっ!」
「……貴女も自分の従者たちに昼食を作る時間では?」
もぐもぐもぐ! と昼食を頬張る戦女神、エルルーン。
「そういうの、わたしのとこでは従者の自主性任せだから!」
もぐもぐもぐ! もぐもぐもぐ!
エルルのその手は止まらない。
一応、食事の支度なんかも戦女神の仕事だが……。
わたしは笑って、一息ついた。
今日は長い日になりそうだ。