ヴァルハラ士道
「リナリア、宮殿外で何を……?」
「これはこれは、女神様」
黄金色の草原の中、リナリア老は立っていた。
いつもはメネスやトケイたちの近くに控えているのだが、今の彼はたった一人。
フォールクヴァングを見つめていた。
「恥ずかしながら、老体一人でフレイヤ様にお祈りを。金の日、こうして祈祷するのが習慣だったものですから」
「こんな場所で? 宮殿を訪ねて直に拝謁してみては?」
「そ、それは、いくら何でも……畏れ多いというものです」
人間界の人間たちは豊穣神を崇めている。
エインヘリャルの立場であるなら謁見自体は不問だが、しかしそれでも恐縮するのは彼らの性だということだろう。
「貴方も生前、フレイヤ教の?」
「いいえ。旧友たちが」
「……」
「その昔、彼らに倣って祈りを捧げていたのです。わたしは二人の友を見捨て、騎士の使命に邁進し、聖王国の栄華のためにこの身を捧げて、絶えました。もはや記憶も色褪せるほど、時間が経ってしまいました。彼らに引導を渡すとあらば、それは……わたしの役目でしょう」
遠い目をするリナリア老が、一度俯き、わたしを見る。
覚悟の決まった、騎士の瞳。
彼は膝折り、垂頭した。
「女神様、存じています。ユーフォルビアのことでしょう」
「……」
「どうぞご命じをば。わたしが再び、あやつを――」
「……」
わたしの胸の内の思いは綺麗に見透かされていた。
正しい返事が分からなくて、わたしは、ただただ沈黙する。
「……」
「必ず、このリナリアがユーフォルビアを討ち取ります」――力強く言い残し、彼はこの場を立ち去った。
胸に手を置くわたしのもとへと一人の家族がやってくる。
濡れ羽の騎士、ユーフォルビアの実弟、ハーデンベルギアが、リナリア老が去っていった先を……。
静かに見つめていた。