第93話
昔話
御大将の話を聞くため、一人で……? 遥々やってきた……?
わはは。あんたで何人目かね。その手の物好き連中は。
懸賞金だろ? 知ってるよ。斯く言うあんたも、その口かい?
分かった分かった。俺の知ってることなら、教えてやるから。
――。
俺は昔、御大将の部下でな。副将やってたのさ。
東の旧王国の戦。内乱、あんたも知ってるだろ?
当時、俺は御大将と並んで一緒に戦ったが、リナリア公との一騎討ちで……フォルビアさんは敗北した。
だが、よっぽどアネモネ姫のことが気懸かりだったんだな。
御大将は死して尚も天に召されず、残留し、世界の鎖を超克してまで……王女を捜し続けている。
アネモネ姫……? 何だ何だ。そんなことも知らないのか。
ユーフォルビア、そしてリナリア、アネモネ姫の三人はな、一人の王女と二人の騎士の、三角関係だったんだよ。
御大将は革新党、リナリア公は保守党で、争う両者に胸を痛め、王女は失踪なされたのさ。
結局、王女のその足取りは今になっても不確かで、御大将は何十年も彼女の行方を追っている。
悪鬼羅刹と恐れられてその名を広めてしまったが、フォルビアさんは……アネモネ姫と再会したいだけなんだよ。
――。
え? 御大将の行き先? それは……分からんな。
強いて言えば、アネモネ姫はフレイヤ教の信仰者で、各地で捜索されたらしいが……発見にまでは至ってない。
御大将も王女の宗派はよーく知ってたはずだから、世界中の縁のある地を巡っているやもしれないな。
――。
お礼……? 要らん要らん。見ての通りの死に体だ。
あの内乱から数十年か。道理で歳を取るわけだ。
できることなら、御大将とは……俺も再会したかったな。
俺もあの時、死ぬべきだった。旧王国の戦で。
――。
随分、話し込んでしまった……。
俺はそろそろ、もう寝るよ。
わざわざこんな話をしにきたあんたも訳ありなんだろう。
余計な世話かもしれないが、そんな気、毛頭ないかもだが……あんたは、命を大事にしろよ?
じゃあな。僧侶のお嬢ちゃん。
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