表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
墓穴を埋める  作者: 下之森茂
4/10

4.墓荒らし

墓守は墓荒らしから墓を守るのが仕事だ。

だが、生活できないほどの低賃金であれば、

死者には悪いが、死後の安寧は保障できない。



なにより墓荒らしのほうが儲かる。



最初は棺など誰が欲しがるかとも思ったが、

埋めた棺を掘り返すのは、

それなりの理由はいくつかあった。



ひとつはただの盗掘。

金持ち貴族はあちらの世界で困らないように、

死者のために装飾品や大事な金品を棺に入れる。

まずそれが狙われる。



だが今回の対象は貴族じゃなさそうだ。



アレッサンドロの墓に集まった参列者は

どいつもこいつもみすぼらしい格好で、

人種もバラバラの外国人にも見える。



アレッサンドロとやらが金持ち貴族であれば、

参列者の外国人たちはいまごろ空き巣に入り、

さっさと遺品をくすねるだろう。これは偏見だが。



よほどのお人好し貴族が生前に

かれらに施しでも与えて親しくし、

盗掘しないでくれと頼んだのだろうか…。



俺は仲介業者の依頼でしか墓を暴かない。

それが仕事であり、犯罪ではあるが

積み上げた信用になっている。

ましてや遺品や盗品を売ればどこかで足が付く。



今回の依頼は別のところにあるだろう。



たとえば支配欲や独占欲を満たすため。

死体になってまで欲しがるほどの相手か。



たとえば愛する人であるとか、

一方的に愛していた人であるとか、

死後も服従させたい人物であるとか。



アレッサンドロはたぶん普通の男だ。

依頼人の気の毒な欲を理解する必要もないが、

そんな人間を欲しがるだろうか。



性欲の対象にしている客も多い。



上流貴族、舞台女優、娼婦、

子供の死体であったなら、

さらに高値が付くのだから理解に苦しむ。



最近多い客は、ロンドンの頭脳、王立協会である。



かのアイザック・ニュートンが会長を務め、

文字通り猛威を振るった科学者団体。



ジョン・ハンターは盗掘した死体を観察し

功績を上げたので、会員たちの功名心によって

こうした手段を選ばない依頼も増えている。



宗教上の理由で墓を荒らす者もいるが、

生き埋めにされるのを恐れ、土葬を拒絶するだけの

相当な暇人集団だと言える。



依頼主が増えれば死体の奪い合いで値段も上がる。

だが末端である俺の賃金は上がらない。



おまけに最近は葬儀業者という商売敵のせいで、

こちらの仕事はめっきり減ってきた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ