第2話 編入手続
「わかりました。編入者は1名で、この戸籍の全員が編入に賛成しているという事で宜しいでしょうか」
「ええ。その通りです」
僕の台詞で美愛とちひも頷く。
「わかりました。それでは問題ありません。
実は最近、戸籍の入出を利用して財産を不正取得する詐欺行為が多発しています。特に移住者の方を狙った事案が多いので確認させていただいた訳です」
「そんな詐欺があるんですか」
「ええ」
彼女は頷く。
「特に同郷出身の移住者が狙われやすいです。移住時に渡された支度金を使い果たしてしまってにっちもさっちもいかなくなった不良移住者に。
その件がありますのでこうやって全員で来ていただけると助かります。意思確認が楽ですから」
なるほど。
全員で来て正解だった訳か。
ところで少し気になる事がある。
だからあえて口に出して聞いてみた。
「そういう不良移住者はどうなるんですか」
「基本的にヒラリアは労働力が足りません。だからこそ移民を募集している訳です。ですから選びさえしなければ仕事が無いという事はまずあり得ません。
つまり移民には労働が期待されている訳です。
ですので移住後一定期間の間、開拓の成果を上げず、かつ労働実績もほとんどない、病気や怪我等で労働出来ない状態にある訳でも無く、労働している誰かの扶養者でもない者。
これに該当すると認められた者は労働の義務を果たしていないとされ、国営強制労務施設入りとなります。
国営強制労務施設は寮も勤務場所も揃った施設です。ここで農作業や制作作業等に従事する事となります。
なお此処に収容されるのは移民だけではありません。一般国民で社会で経済的に破綻し、かつその理由が生活保護を受けるに値しないと判断される者も収容されています。
ここでの労働は一応給与が出ます。最低賃金以下ですし寮費や食費も引かれますが、他に使わなければ1月で小金貨1枚程度の貯金は可能です。貯金して支度金額と同額の罰金を支払う事が出来れば施設を出て国民としての権利を復活させる事も出来ます。
労務施設での労働は基本的には自由意志の元で行われます。ですがそれら労働に対して誠実さに欠けると判断される場合、使役魔法等による労務強制が行われます。この場合は給与が半額以下になります。
なお犯罪者の場合は収容先がより監視の行き届いた刑務労働所となります。罪状により労務期間が更に増加する他、警備管理等の分だけ更に給与が安くなります。
また移民の犯罪者の場合は、支度金額と同額の罰金の他、所有財産及び服役後の労働によって被害額を弁済する必要もあります。
ですから犯罪で身柄拘束された不良移住者は相当期間、一般社会に出てくる事はないでしょう」
実は説明されなくてもこの辺は知っている。
この質疑応答は美愛達の父親が現れた場合にどうなるか、予備知識を持ってもらうためのものだ。
なお移民の契約の際にもこれらの事についてはある程度提示されている。美愛や結愛は知らないうちに連れてこられたから知る機会は無かっただろうけれども。
「わかりました。ありがとうございました」
「それでは戸籍に編入する件は手続きを進めて宜しいですね」
「ええ、お願いします」
これでまず用件1つクリアだ。
「次に税金の手続きです。
チヒロさんは移住してまだ3か月以内で、収支台帳の提出も本年分が初めてです。ですので本日までの分を含め、そのまま新しい戸籍で全て一緒に計算していただいて構いません。公設市場を通して品物を売買していらっしゃるのならば、新戸籍に編入した証明書を市場の事務へ提出して頂ければ結構です。
この証明書は戸籍編入の手続きとともに作成いたします。本日お帰りになる際にお渡しいたしますので、そのまま公設市場の方へ提出してください」
「わかりました。ありがとうございます」
どうやらその辺は簡単らしい。
簡単すぎたせいか知識魔法でもよくわからなかったのだ。
聞いてみてすっきりした。
「それではあとは教育代行認定資格試験ですね。1名で宜しいでしょうか」
「私も受けます。ですから2名でお願いします」
美愛も受験するのは当初の予定通り。
「わかりました。あと試験には1時間かかりますが、カズキさんとユアさんはどうなさりますか」
そうか、どうせ此処で時間があるんだな。
それならば。
「先に外に出て用件を済ませておきます」
買物もあるし商品搬入もある。
戸籍が一緒になった事に対する市場の手続きは証明書が出来た後にすればいいだろう。
「わかりました」
「それじゃ試験、頑張ってな。結愛、行こうか」
「うん!」
僕と結愛は相談室を後にする。
ちょうどいい機会だ。
結愛に欲しい物があるか聞いてみよう。
結愛は普段聞き分けが良すぎてかわいそうになる。
たまには甘くしてもいい。
「ところで結愛は何かしたい事とか欲しいものとかあるか?」
「うーん、みんなでパフェが食べたい」
うーむ、『みんなで』か。
それは後回しだな。
「なら何か買いたいもの、ほしい物があるかな」
「うーん、じゃあ貝を掘る奴。お姉ちゃんが欲しいって言っていた!」
お姉ちゃんが欲しいか。
本当は結愛の個人的な願望が聞きたかったのだけれども、まあいいか。
「なら買いに行くか」
「うん!」
結愛はそう返事して歩き始める。
熊手は下手に専門店を探すより公設市場の最後の方のコーナーで見るのが早いだろう。
大きな店が見本を出していたりもするし。
役所から公設市場は歩いてすぐ。
熊手がある方は釣り場を順番に歩く最後の方。
だから近道をしようと思って事務所近くまでいった時だった。
「あ、カズキさんですよね。つい先日加工食品を持ち込んだ」
いきなり誰かにそんな風に呼び止められる。
見ると委託販売を受け付けて貰った若いアングロサクソン系風男性だ。
名前は確かグラハムさんだったかな。
「ええ、そうですけれど」
「次回の商品納入はいつになりますでしょうか。既にほとんどが売れてしまいました。次はいつ来るか予約は出来るのかなんて問い合わせが多数来ている状態です」
おっと、醤油だけでなく他もそういう状態か。
「一部は在庫があるので今日納品可能です」
「でしたら至急お願いします。受け取り次第売り場に並べて、予約者に連絡しますから」
仕方ない。
「結愛ごめん。買い物前に少しお仕事が入った。買い物はお仕事をすませた後でいいかな」
「わかった」
結愛には非常に申し訳ない。
ききわけがいいから余計に。
「それでは事務所にお願いします」
半ば引っ張られるように事務所の奥へ。
「今回は個室なんですね」
カウンター形式の窓口では無く、会議室風の個室だ。
「用心の為です。あれくらい動きがいい商品となると直接取引をしようとする者が必ず現れますから。
勿論カズキさんが納得した上でされる取引なら問題ありません。です往々にしてそういう業者は問題を起こしがちです。ですから邪魔が入らないよう個室を使わせていただきました」
うーむ、こんな田舎でもその辺は結構注意が必要な模様だ。
「さて、それでは先に本日までに売れた商品の精算をして参ります。少々お待ち下さい」




