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移住記録 ~異世界に移住した僕の開拓と捜索と成り行きの日々~  作者: 於田縫紀
第9章 千錯万綜

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第2話 同居宣言

 船は底を擦るぎりぎりくらいまで近づいた後、魔法で海面から少し上へと浮く。

 そのまま砂浜の波がかからない部分まで移動して着地。


「ただいま!」


 結愛が元気いっぱいで下りてくる。


「お帰り。どうだった、向こうは」


「こんな大きな魚が捕れた。いっぱい!」


 どうやら予想通り漁業をやってきたようだ。


「さて先輩。早速だけれど私も此処に住むことにしましたから。工事は明後日以降にしますけれど、とりあえず家も持ってきたからよろしく。手続きは明日役所に行ってする予定です」


 ちょっと待ってくれ!

 何だ、どういう事だ一体。


 そう思っても焦った様子を見せるのは癪にさわる。

 だからここはあくまでいつも通りの態度を堅持だ。


「なんでまた」


「私の方も人手不足なんですよ。美愛ちゃんや結愛ちゃんの手を借りられれば助かるかなって」


「役所という事は戸籍も一緒にするのか」


「当然ですよね。その方が今後の手続きが楽になりますから。収支台帳だって1つで済みます。


 それに収入だって私や先輩単独では一世帯分に足りませんよね。でも合わせれば現時点でもなんとか暮らせる程度になる。違いますか。


 美愛ちゃんとも向こうで話し合った結果、その方がいいんじゃないかって事になりました」


 誓ってもいい。

 絶対今の台詞の中に含まれていない理由がある。

 ただそれを今聞いても答えてくれないだろう。

 もし聞くなら後で、美愛や結愛がいない時だ。


 さしあたって今、確認するのはこっち。


「美愛と結愛はいいのか?」


「うん!」

 

 結愛は大きく頷く。


「私もその方がいいと思います。場所も船で行けばすぐですし。でも勿論和樹さんがそうしない方がいいと思えば、それを優先します」


 外堀は埋められ宅地造成済の模様。

 仕方ない。


 それにちひには彼女なりの思惑というか意図がある筈だ。

 彼女の思考回路は信用して問題無い。

 少なくとも以前はそうだった事を僕は知っている。


「わかった。どうせ明日、醤油や味噌を売りに行くし、一緒に行くか」


「もとよりそのつもりです」


 ちひはそう言って漁船をアイテムボックスに仕舞う。


「あと家は一応持ってきているけれど、普通のユニットハウスだからそう何回も移動させるような造りじゃないんです。だから今日と明日はまたあのコンテナに泊まりますのでよろしくお願いします」


 何だかなあと思う。

 20代童貞男性の忍耐力の限界を試すつもりだろうか。

 あと数ヶ月で三十路に到達するけれど。


 なお惑星オース年齢では既に40歳超え。

 それはそれで悲しい気もする。

 いや、そういう問題じゃない。 


「わかった」


 とりあえず今夜、ちひにどういう事か聞いておこう。

 寝る場所が隣だからその気になればなんとかなる筈だ。


「それじゃ夕食を作りますよ。実は先輩に是非調理して貰いたいものがあるんです。滅多にかからない貴重品ですよお」


「何だ」


「じゃーん!」


 ちひが出したのは巨大な貝、ではなくアンモナイトかオウム貝みたいな代物だ。


「これの塩辛が食べたいです。前に合宿で作った即席版でいいですから」


 おっと、それは僕自身も試してみたい。


「それじゃ他のメニューは刺身と天ぷらでいいかな。主食はアローカの御飯で」


「それじゃ申し訳ないです」


「いいの。今日は作りたい気分だから」


 そのメニューならちひに調理させても問題ない。


「味付けがないメニューなら大丈夫だ。ちひの味付けは薄すぎるから」


「皆が濃すぎるだけです。あ、味噌汁くらい作りますよ。サイパは味噌汁にすると美味しいですから。見た目も味もゴンズイっぽいですしね」


「実際は軟骨魚だけれどな。あと味噌汁は断固として僕が作る」


 ちなみにゴンズイとは日本の海にいる、人差し指より少し大きいくらいのナマズみたいな形の魚。

 毒のあるトゲが3つあって刺さると無茶苦茶痛いらしい。


 この魚、夜釣りなら簡単に釣れる。

 そして柔らかい白身で味もいい。

 そんな訳でサバイバル合宿時に釣って食べまくったおぼえがある。

 トゲだけは怖いから釣った時すぐにはさみでヒレごと切って捨てていたけれど。


 確かにそう言われてみるとサイパ、ゴンズイに似ている。

 系統は全く違うけれど、煮物で美味しいらしいし味も似ているのか。

 なら味噌汁かな、やっぱり。

 少し甘めの味噌がいい感じであいそうだ。


「それじゃ作業場確保、この場所を使わせて貰いますね」


 ちひは壁際にステンレス製らしい何か大物を出す。

 見ると流しと作業台、それも業務用のかなり大きなものだ。


「そんな物まで用意していたのか」


「食品加工業もやるなら当然ですよね」


 いや、うちには4人用のダイニングテーブルしかないぞ。

 その辺まで予算を割けたのかと思うと正直羨ましい。


 しかしテーブルがあれば大抵の事が出来るから問題無い。

 魔法で加熱も水関係も出来るから。

 なんて悔し紛れに思いながらまな板を取り出し、僕も調理を開始する。 


 ◇◇◇


 今日のメニューは刺身、天ぷら、味噌汁、塩辛、漬物、御飯。

 漬物は醤油粕を使って美愛が自宅用に作ったもの。

 売り物と材料は同じだが少しだけ軽い味に仕上げてある。


「うん、やっぱり醤油があると食卓が豊かになりますね」


 ちひが白御飯ならぬアローカ飯をかっ込む。

 並行して会心の出来の即席塩辛が見る間に減っていく。

 僕はともかく美愛や結愛も食べるだろう。

 手を伸ばしてわざとらしく塩辛入りの皿をちひから遠ざけ、そして3人に尋ねる。


「ところで今日、向こうで何をやったんだ」


「網の中の魚を捕った。いっぱいいた」


「潮が引くと取り残された魚が集まるように網が張ってあるんです。そして網の中には大きいのから小さいのまで魚がいっぱいで、獲るのが大変な位でした」


 なるほど。

 何をやったかは想像がつく。

 大学時代、ちひがサバイバル合宿でやろうとして失敗した漁法だ。


簀立(すだ)て漁か」


「そーゆーことです。うちの場所は湾奥の干潟だから潮の干満の差も大きいですしね。まあ最初からそのつもりで場所を選んだんですけれど」


「あとは干物の作り方も教えて貰いました。魔法を使うと簡単に手早く出来るんですね」


「美愛ちゃんおぼえが早くて助かりますよね。やっぱり先輩だけに独占させるの勿体ないですよ。

 他に日によっては刺し網や投網もやったりもしますけれど、今日は簀立(すだ)てと干物作りまで。それでも1人だと干物まで出来ないから助かりますよね。結愛ちゃんも簀立(すだ)てから魚を捕るの頑張ってくれましたし」


「楽しかった! いっぱい捕った!」


 うーむ、少し気になる。


「どれくらい捕れたんだ。あと規模はどれくらいで」


「傘の柄の部分がだいたい80mで、大傘部分が直径20m、小傘部分が直径3m程度ですね。網の目がそこそこ大きいからサイパとか小さいのは抜けますけれど。


 今日は大物が50cmクラスのスコンバ2匹、同じくらいのレジペイドが10匹、ノータス80cm3匹とトリアキス80cm1匹。あとダルサラスの小さめのが2匹ですね。


 シプリンやゴヌールは多すぎて数えてないです。50匹は超えてます。

 1人だと小さいのまで処理に手が回らなくて、収納した後は無視するんです。たまに大物用の餌に使う位で。でも今日は美愛ちゃんいたから干物に仕上げました。シシャモ程度の大きさでおつまみにいい感じですよお」


「あれは美味しいと思います。頭と骨をとっているからシシャモよりも食べやすいですし、魔法でさっと熱を通すだけで食べられますから」


「いずれ朝食に出すつもりですよ。先輩も絶対気に入ると思いますから。あと先輩のおかげで醤油も調達できるから味醂干しバージョンも作る予定です」


 うーむ、完全に水産業従事者化している。

 まあそうだろうなと此処に来る前から予想してはいたけれど。


「あと結愛ちゃんの勉強もすすめておきました、2日分」


 これはありがたい報告だ。


「サンキュ」


 何気にそれは助かる。

 今のペースでは年末までに終わるかぎりぎりだから。


「あと明日、美愛ちゃんも試験受けるそうです」


 えっ、何だって?


「和樹さんやちひさんほど学力は無いですけれど、結愛に教える資格なら私も取って置いた方がいいと思うんです。もちろんそんな上級の資格は取れないと思いますけれど、最初の数年程度教えられるだけでも違うと思いますから」


 ああ、教育代行認定資格の試験か。


「あれ、かなり難しいぞ。日本の教育制度の範囲だと高校3年終了時点までの数学がメインだから心しておいた方がいい。あと全問解くには時間が足りなくなる。自分が確実に解ける範囲で一番難しい問題から解くのがコツだ。問題自体は易しい問題から難しい問題まで一通り揃っているから」


「先輩はどれくらいの時間で解けたんですか」


「見直し含めて40分だな」


「先輩でそれなら全問制覇は狙わない方がいいですね」


 ちひなら狙えるとは思う。

 でもあえてその辺は言わないでおこう。

 あおっているようだから。

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔法使いにはなってしまっているんだよなぁ。
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