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移住記録 ~異世界に移住した僕の開拓と捜索と成り行きの日々~  作者: 於田縫紀
第8章 旧雨今雨

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第3話 3進数は反則?

「ところで美愛さん達は此処で今、何をしていたんですか? そのバケツ、エビが入っているようですけけど」


「釣りをしていたんです。今日は特に急ぎのお仕事もないですから」


「いいなあ。最近うち、釣りと言うより漁業ですから。網をしかけたり船で出たりで。

 本当は釣りとか手持ちの網でガサガサくらいが一番楽しいですよね、魚捕りは」


 やはり漁業をしていたか。

 予想通りだ。

 趣味というか嗜好が変わらない事も確認できた。


「船も持っているんですか。凄いですね」


「安いのを地球で買ってきただけです。こっちではエンジン無しでも魔法で動かせますから。

 やっている事はこっちの方が凄いですよ。あの漬物も味噌なんかも売れていましたし。特に醤油、残り僅かでしたね。早く作って持って行った方がいいですよ。私は買えましたけれど」


 後半の台詞は僕宛のようだ。

 ならば明日には作る事にしよう。

 醤油麹を作るところから始めるから1日がかりだけれど。


「ちひの方の干物やさつまあげも売り切れていたよな」


「今日補充しました。多めに入れておいたから今度は1月持つかなと思っています」


 そっちも順調なようだ。


「ところでメールで送った暗号、やっぱり届きませんでした? 場所まで送った筈ですけれど。こっちに来たなら連絡あるかなと思っていたんですけれど」


 そうだ、それを聞くのを忘れていた。


「絶句と律詩なのに9句しかなかった。伝わったのは『異世界移住』という言葉とサイトのアドレスだけだ」


 ちひはうんうんと頷く。


「やっぱり消されていたんですか。具体的な場所情報は駄目だったのですかね」


「やはり場所情報があった訳か。消されていたのは何故だろう」


 予想通りだが、何故そうなったのかはわからない。


「地名とか、惑星オースに関する具体的な情報は検閲が入るんですかね。メール送った時の先輩はまだこっちに関係がない人ですから」


 なるほど、確かにそれは考えられる。


「でも此処に来れたという事は、もう一つの暗号は残っていたんですよね」


 だからこそ此処に移住して来た訳だ。

 しかしその辺は少し文句もある。


「ヒラリア、ヘラス西ってのはな。でもあんなの気づかないだろ普通は。単なる模様にしか見えない」


 僕でも最初はわからなかった位だ。

 署名欄の最後、絵文字的な部分に違いがあるなんて難しすぎるだろう。


「気づかれないのが暗号ですよね。それに先輩ならわかると思いました。現に解読しましたよね」


 まあそうだけれど。


「その辺はお互い様だろ。ここまで来たって事は」


「確かにこの暗号もあんまりですよ。普通に見れば単なる草ですよね」


「今日、イロン村に行ってそのまま来られたんですか」


 これは美愛だ。


「敬語はつかわなくていいよ。普通に話して。私も以後そうするから。

 公設市場で何かないかなと思って見ていたら、今までに無かったタクワンとか味噌とか醤油が出ていたのを見つけて。貰ったチラシを見てみたら何か暗号っぽいのがあるなと。


 それで解いてみたらこの場所で、書いたのもこれは坂入先輩だなと分かった訳。なら帰り道の途中だしついでに寄ろうかなと思って。家に戻るとまた来るのは面倒だしね」


「その暗号ですけれど、何処が暗号なんでしょうか。チラシを見てもわかりませんでした。私の知識が足りないせいでしょうか」


 そう言えばその辺を美愛に解説していなかった。

 美愛の調子がおかしい事に意識が行っていたせいもあるけれど。

 

「あれに気づく方がむしろ少数派だよ。安心して」


 ちひはそう言って、チラシの下にあるイラストの、更に最下部にある草を指す。


「この部分、草が3本ずつ並んでいるよね。これをよく見ると長さが3種類だけ。何か規則性があるようなないような妙な感じに見えないかな?


 これが暗号。草の長さはそれぞれ3進数の数字。短い草が0で中くらいが1、長いのが2という感じで。3本あるのは3桁という意味。


 そしてヒラリアのアルファベットは11個、数字が10個、記号が5個です。合計で26個で空白を入れて27個。だから3進数3桁で表現可能だよね。


 アー()を1、イー()を2という感じで当てはめていって、次は数字、最後に記号、0は空白と仮定して。


 そうやって解くと、開発特区(KATIOPU)イー()3843区画(MAKU)と読める。つまりここの場所。

 流石に開発特区の区画番号まで全部おぼえていなかったから役所まで確認に行ったけれどね」


 ちひの説明通りだ。

 2進数でなく3進数を使ったのはその方が一般的ではなく気づかれにくいから。

 あとはちひの言う通り、記号の数まで含めてちょうど3桁で収まるというのもある。


「よくわかりますね。やっぱり和樹さんの事をよくご存じなんですね」


「確かに3進数というのは意地悪だよね。普通は2進数や8進数、16進数だから」


 いやちひ、そういう問題じゃない。

 案の定、美愛が何か言いたそうな顔をした。

 ここは言っておくべきだろう。


「いや、元々ちひが暗号を使ったメールを出したのが発端だからさ。お互い暗号を使うだろうという暗黙の了解があった訳だ。

 だからその辺を知らない美愛がわからないのも無理はないと思う」


「そうそう。だから美愛さんが気づかないのも当然かな。

 ところであの家、いかにも南国の民家って感じだけれど先輩が建てたんですか? プレハブとかユニットハウスとか持ち込まないで」


 確かに今は1軒の大きな家に見える。

 拠点と作業場、味噌小屋の全てを覆う壁をつけ、屋根がけしているから。


「元々はトラックの荷台に載せるアルミのコンテナ。その後作業場を増設したり全体に屋根をかけたりした結果、ああいう形になった」


「コンテナって内鍵かけられないし外からロックされそうだしで不便じゃないですか? 窓も無いですし」


 まさにその通りだ。


「初期費用の問題でそうなった。ただ窓が無い分外から何が出ても安心だな。魔法も使えるし壁も屋根も作ったからそこまで快適性が酷い訳でもないし」


「そう言えば先輩、実家から搾取されているって言っていましたよね」


 大学時代、奨学金すら搾取された事があるくらいだ。

 仕送りを貰って無いのに。

 その事案についてはちひもリアルタイムで知っている。

 

「ちひは家はどうしているんだ?」


「ユニットハウスですよ、移住計画事務局で斡旋していた奴です」


 そんな話をしながら拠点へ。

 とりあえずちひを作業場のテーブルへと案内する。


「何か南国様式っぽくていいですよね。全部作ったんですか」


「来て早々アルパクスに襲われてさ。とりあえず土壁を作ってぐるっと囲った。窓が無いのが欠点だな」


「窓が無くても魔法で明るく出来ますからね。でもアルパクス、確か海側には出ないんじゃ? 海水とか嫌うようですし」


「そうなのか、知らなかった」


 美愛がお茶とお菓子を出してくれた。

 今回のお菓子はクッキーだ。

 

「これ、美愛さんが作ったの?」


「材料も揃っていますし、それほど難しくも無いですから」


「この辺が女子力だよな。ちひと違って」


「否定できないのが辛い」


 ちひにはそう言う方面の女子力は無い。

 その辺は大学時代と変わらないようだ。


 それにしてもちひ相手だとだと何と言うか会話が楽だ。

 何も考えなくとも言葉を飛ばせる。

 この感覚は久しぶりだ。


 大学以来、あるいは数年前に後輩の結婚式で会った時くらいだろうか。

 実家でも職場でもそんな相手はいなかったから。


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