第3話 体力の格差
さて、役所での手続きは済んだ。
次は2人が僕の拠点で生活する為に必要な物の調達だ。
寝場所は取り敢えず僕のベッドを使って貰おう。
2人で寝てもそこまで狭くはない筈だ。
一応布団はもう1セットある。
ベッドの布団とそれを入れ替え、僕は床に布団を敷けばいい。
食器や日常生活道具は一通り揃っている。
予備も含めて買い揃えてあるので当面はそれを使えばいい。
だから基本的に今すぐ買わなければならない物はない筈だ。
でも一応聞いておこう。
「何か買っていった方がいい物はあるか? 遠慮しないで言って」
少しだけ間が空いた後。
美愛は申し訳なさそうな何か言いにくそうな表情で僕を見る。
「すみません。家が開拓地という事は、当分は買い物に行けない状態が続くと思っていいんですよね」
確かにその通りなので僕は頷く。
「ああ。1日潰せば買い物で往復は出来る。それに1月に1回くらいは此処へ来るつもりだ。しかし何かあると困るから、ある程度ここに来なくても大丈夫なようにしておいた方がいい」
「わかりました。本当は私1人で買いに行くべきものなのですけれど、お金も持っていないし言葉も通じません。ですから一緒に行って頂いていいでしょうか」
「わかった」
何かはわからないが、わからないなりに了解だ。
様子から見て間違いなく必要なもののようだから。
「あと、何処に売っているかが分からないんです。ひょっとしたら形もこの世界では違うのかもしれません」
それはいったい何だろう。
あと微妙に言いにくそうなのも何故だ。
「多分大丈夫だと思う。知識魔法で調べられるから」
美愛は少しだけ躊躇った後、覚悟を決めたような表情で口を開いた。
「ならお願いします。生理用のナプキンです」
うっ。
言いにくそうにしていた理由が一発で理解できた。
確かに本来なら彼女1人で買いに行くべきものだっただろう。
言葉が通じて何処で売っているかがわかれば。
そして確かに買い物に気軽に行けないなら買っておくべきだ。
故に僕が一緒に買いにいくしかない訳だ。
ただ僕が買いに行かなければならないのかと思うと何と言うか、表現しにくい感情がある訳で。
仕方ない。
僕も覚悟を決めよう。
知識魔法で何処で売っているか、どのようなものかを調べる……
◇◇◇
問題は無かったとは言わない。
しかしとりあえず買い物も何とか無事に完了。
あとは帰るだけだ。
本当はこの集落に長期滞在した方が早くちひに会えるだろう。
公設市場にちひのものと思われる商品がある。
ならちひはいずれ売り上げを確認しに、そして商品の補充をしに再訪する筈だ。
しかしそれが何時になるかはわからない。
そしてこの集落に滞在するなら宿代や食事代が必要だ。
僕はこの世界で今後も生活していかなければならない。
しかも養うべき存在が2人増えてしまった。
収入源を確立するまでは所持金を節約するべきだろう。
だから今日は拠点へ帰るのが正しい解だ。
しかし僕の拠点までは30km以上ある。
途中、標高200m程度の峠までのぼる必要もある。
夕暮れまでおよそ4時間程度。
2人は大丈夫だろうか。
結愛1人なら何とか背負って歩けるだろう。
身体強化魔法を使えば問題ない。
ただ2人を背負うというのは無理だ。
だから美愛に聞いてみる。
「これから家に帰るけれど、距離が30km以上あるし、途中標高200m位までのぼったりもする。一応身体強化魔法をかけていくけれど大丈夫かな」
「大丈夫だと思います。高さ的には多峯主山までのハイキングコースより低いですから。30km歩いた経験は無いですけれど」
「結愛も大丈夫」
とうのす山とはどこの山だろう。わからないが大丈夫そうだ。
「それじゃ行くか。村を出た処で身体強化魔法をかけるけれど、疲れたら言ってくれ」
「わかりました」
「わかった」
「それじゃ行こうか」
港とは反対側へ歩いて門を出る。
やはりこっちを見ただけでフリーパス。
JKと幼稚園児を連れ去る変質者という見方はされずに済んだ模様だ。
おそらくその辺を確認する魔法なんてのもあるのだろう。
「それじゃ身体強化魔法をかける」
「自分に魔法をかけて貰うのは初めてです。大丈夫ですか」
「楽しそう」
2人の反応が微妙に違うのは苦労の差だのだろうか。
姉と、そして姉がいてくれた妹の。
「特にかかったという感触は感じない。ただ最初の一歩は慎重に。思った以上に身体能力が上がるから」
そう説明すると同時に魔法を起動、僕を含めて身体強化魔法を継続状態で起動させる。
「それじゃ行こうか」
「もうかかっているんですか」
「ああ」
その返答と共にいきなり結愛が大ジャンプ。
僕の身長より高くまで上がる。
とっさの事で反応が間に合わなかったが、無事着地に成功。
ほっと一息。
「凄い凄い! 楽しい!」
今度は走り始めた。
かなり速い。
「待て! この先は恐竜が出るからあまり離れないで」
慌てて僕と美愛が後を追いかける。
おっと、今の台詞で結愛が止まった。
「恐竜、出るの?」
アルパクスやアルケナスはどう見ても恐竜だ。
大型爬虫類というよりこの方がイメージしやすいだろう。
「ああ。ついこの前、これくらいある恐竜に襲われた」
あのアルパクスの大きさを両手をひろげて表現する。
やや誇張が入っているのは勘弁して欲しい。
「凄い、見たい!」
そういう反応が来てしまったか。
「襲われると危ないぞ。下手すれば大怪我する」
「そう。だから一緒に行きましょうね」
「わかった」
元気だが物分かりのいい子のようだ。
そう言えば結愛、最初は全然話さなかったのになと気づく。
ある程度慣れてくれたのだろうか。
さて、結愛が元気なうちにある程度は進んでおこう。
「それじゃ軽く走って行くか。ただ僕からあまり遠く離れるなよ。魔法で安全かどうか周囲を見ているから」
「わかった」
「ありがとうございます」
しかしこの時の僕は気付いていなかったのだ。
僕が2人の体力を甘く見ていた事。
もしくは自分の体力を過大評価していた事を。
元気な幼稚園年長と高校1年生の体力は運動不足のアラサーより遥かに上。
峠を越え下りになったあたりで僕はその事に気づいた。
上りは足の長さ分僕が有利だった。
しかし下りはそうでもない。
結果、2人の速度に僕がついていけなくなった。
「ごめん。警戒が追い付かないからもう少しゆっくり頼む」
「ごめんなさい。わかりました。結愛ももう少しゆっくり」
「わかった」
勿論本当は警戒が追い付かないのではない。
足がその速度で前に出ないだけだ。
我ながら情けない。
そんな感じで休憩なしで飛ばす。
おかげで体感1時間少々、往路の半分程度の時間で拠点に到着。
僕はヘロヘロ。
取り敢えず2人の荷物を出して、作業場にべたっと座り込んでいる状態。
だが2人はまだまだ元気だ。
「いい海岸ですね」
「遊びたい!」
結愛がこんな事を言えるくらいに。
でもまあ確かに見た目はいい感じの砂浜だろう。
しかし2人が遊ぶなら注意点も多い。
「すぐ深くなるからあまり遊ぶのには向いていない。あと水生の爬虫類が出てくる可能性もある」
「それに此処には働きに来たんだから、まずはお仕事をしないと」
「わかった」
いや、それも幼稚園児には可哀そうか。
確かに楽しそうな海があれば遊びたいと思って当然。
聞き分けの良さに余計に不憫さを感じてしまう。
きっと2人とも今日まで苦労したのだろう。
なら少しくらいここで楽しんでもいい。
「今日はもう開拓作業はしないからさ、働いて貰う事は特に無いかな。だから自由時間でいい。
ただ危険だからあまり遠くや海の深い所へは行かないように。100m程度なら僕の魔法で危険がないかわかるから、その半分程度の範囲で」
「わかった!」
「ありがとございます」
美愛は頭を下げた後、周囲を見回して再び口を開く。
「それじゃ水着に着替えます。その小屋を使っていいですか」
「ああ」
小屋とはもちろんコンテナの事だ。
ただ中は暑いだろう。
だから扉をあけ、魔法で中の空気を入れ替える。
熱せられた外板も魔法で冷やしておこう。




