第4話 契約成立
お巡りさんこちらです(違うか)
仕方ない。
聞いてしまった以上何とかしよう。
ここで見捨てては後味が悪すぎる。
しかし僕が引き取るというのは最後の手段だ。
僕はまだこの世界での生活設計が立っていない。
何を生産してどうやってお金を得るか。
せめてそれが確立しないと責任もって養えるとは言えないから。
「わかった。取り敢えず何とかする」
本当はこんな事今の時点で言わない方がいい。
それはわかっている。
しかし2人、特に姉の方が不安そうで見ていられない。
だからついそう言ってしまった。
「雇ってくれるんですか?」
「その辺含めて今、考える。だから心配しないでいい」
『まったく先輩は甘いんですから』
またちひの声が脳裏で聞こえた。
『まあその甘さも先輩のいいところではあるんですけれどね』
そんな台詞も一緒に。
さて、僕の脳みそは再び動き出す。
まずはヒラリア共和国の福祉制度で何とか出来るか調べてみよう。
勿論僕はその辺に詳しくはない。
しかし惑星オースには魔法という便利なものがある。
知識魔法、起動だ。
『この2人に適用できる福祉制度は無いか?』
返答はない。
質問の仕方が悪かったようだ。
知識魔法はあくまで知識だけを提供するもの。
判断や考察等が必要な回答は得られない。
「そう言えば名前を聞いていなかったね。僕の名前は坂入和樹、現在29歳だ。2人の名前と年齢を聞いていいか?」
「皆川美愛。16歳です」
「皆川結愛、6歳」
「わかった。ありがとう」
16歳という事は高校生だったのか。
小柄だから中学生くらいに見えるのだけれども。
そんな事を思いつつ再度知識魔法を起動。
この国に存在する生計維持が困難な者に適用される制度を、年齢条件や適用除外条件を確認しながら知識魔法で引き出して確認。
いくつかの情報を閲覧して理解した。
駄目だ。
この2人に適用できる制度は無い。
この国にもそれなりの福祉制度は存在している。
生活保護にあたる制度も当然ある。
しかし対象になるのは国民になって5年以上の者。
考えてみれば当たり前だ。
移民がその辺の福祉制度を使用可能ならフリーライドされてしまう。
それでは税金を払っている国民が納得しない。
どうやら僕がこの2人を引き取るしかないようだ。
逃げる以外の方法があるとすれば。
なら手続きはどうすればいいのか。
誘拐扱いになったら洒落にならないのでその辺も調べる。
姉の美愛に対しては心配はいらないようだ。
この国の成人年齢は20歳。
かつての日本と同じように見えるが惑星オースの1年は日本の3分の2の長さ。
つまり美愛は惑星オースの年齢では24歳になる。
何をするにも親の許可等は一切必要ない。
でもそうなると成人年齢の20歳は地球で言うところの13歳4ヶ月。
驚くべき若さだと思ったが待てよと思い直す。
大学時代の授業、児童画でも教育心理でも14歳前後から思考は大人と変わらないと学んだ。
日本の法律でも13歳と14歳で犯罪の手続きに関して線が引かれていた。
そういう意味では合理的なのかもしれない。
一方妹の結愛の方は少し面倒だ。
20歳未満は親の監護権、及び親の子に対する監護義務がある。
結愛は6歳、つまり惑星オース年齢では9歳だ。
日本の戸籍制度にも似た制度があり、子供は戸籍内の親の明示的な許可がないと戸籍離脱は出来ない。
ただ今回の場合は何とかなる。
姉の美愛がオース年齢24歳だからだ。
美愛の許可を元に、父親の戸籍から出せばいい。
美愛は大人扱いだから自分で戸籍を出す判断が出来る。
この辺の手続きは役所に行けば可能だ。
移民に対する相談所もあるからそこで相談しながら対処しよう。
しかしその前に本人達に確認だ。
「僕は開拓者として移民してきたばかりだ。
住んでいるのはここから30km以上離れた海沿いの何もない場所。家もトラックのアルミコンテナをそのまま使っていて、トイレもまだ作っていない状態。
それでも良ければ役所へ行って手続きするけれど」
「雇ってくれるんですか」
美愛が少しだけだが身を乗り出した。
よほど心配だったらしい。
「給料はまだ出る状態じゃない。住んでいるのも今言った程度の場所だ。食事もそんなにいい物じゃないと思う。それでもいいなら、だけれども」
自分で言っていてブラック案件だなと思う。
僕は相手の弱みに付け込んで悪条件を2人に強要しているような状況。
もちろん見方を変えればだけれども。
「勿論です」
本当にいいのかそれで。
相手は性奴隷を取り込もうとしているロリコンだぞ。
いや勿論違うけれど。
しかしエロマンガだとありそうなシチュエーションだ。
性奴隷の女子高生と幼稚園児で姉妹丼。
ああ鬼畜な想像をしてしまった。
童貞だから仕方ない。
なお僕がアラサーにして未だ童貞である理由は簡単。
大学時代はそんな相手はいなかった。
ちひはあくまで気が合う後輩だ。
それに僕は実家という爆弾を抱えている。
だから下手に付き合うなんて事をしないようにしていた。
そして実家に戻ってからは恋人どころか気が合う友人すら近所にいない。
結婚系は地雷案件ばかり。
かと言って風俗はお金がもったいない。
そんな結果がアラサー童貞という訳だ。
30歳まで童貞だと魔法使いになれるという都市伝説? があるが、実際は移住のおかげで数ヶ月早く魔法使いになってしまった。
めでたしめでたし?
さて余談はともかく念の為に再確認だ。
「お昼をおごって貰ったから働かなければならないという事は無いからさ。本当にいい」
「勿論です。このままでは間違いなく餓死ですから」
餓死とは少し大げさなとは思う。
いくらなんでもそこまで行く前には誰かが助けの手を伸ばすだろう。
ただしそうなる保証がある訳では無い。
そういう意味での危機感としては表現として正しいのかもしれないなと思い直す。
妹もいる事だし。
いずれにせよ何とかするしかない。
僕の出来る範囲でだけれども。
ちょうど食事が運ばれてきた。
「さて、ならこれを食べて役所に行こう。手続きしたら必要なものを買って、それから荷物を持って家に帰るから」
「わかりました」




