機装展鎧の伝説
むかしむかし。
天地定まらず、神性により世界の輪郭が生まれつつあった頃。
神格を備えた存在達は、お互いに争い、世界を作り変えては再生を繰り返していました。
その中で、約束を司るようになった神格がいました。
その名を鋼の種族。鋼鉄の身体と、自らの体より生まれた剣を携えた、戦士の種族です。
彼らとの約束により、長い長い大戦争は終わり、ついには世界の形が定まり始めました。
神格を備えた多くは、空より高い世界へ旅立ったり、自らの領域を作りそちらへ移ったりしました。
鋼の種族は、そのまま世界の礎となる為、自ら大地の奥底へ入り、眠りにつきました。
彼らのおかげで、この世界には魔力と神性が僅かばかり留まり、神秘が失われることはありませんでした。
そして、神々の子や、新たな世界から生み出された子により、英雄の時代が始まりました。
神代の終わったあとに生まれた種族の中には、もっとも多くの子を産むことになる人族もいました。
神代より血を繋ぎ、世界の移り変わりによって神性や神秘を失った種族も多くいました。
ドワーフ、エルフ、魔族。
そうやって神代の神秘と引き換えに、天地は定まり、時間は定速を得ました。
空と大地は分かたれ、海が生まれて界というものが形を成しました。
過去と、現在と、未来が生まれました。
そうやって、世界は安定を得て、時代と、歴史が、はっきりとした形で進み始めました。
この、時代の定まった頃から、現代までは、少なくとも1万2000年以上前と記録されています。
かつての時代は時間も、世界も、定まっていなかったので、その時代を生きた者達でさえ、記憶と事実が食い違っていることさえありました。
死んだものが生きていて。
生きていたものが死んでいる。
そういったことを繰り返し、定まった世界は生まれました。
そうやって時代が定まった頃、残っていた神性は、とあることを心配します。
神代の大戦争の頃、遠き星辰の彼方から至った、悪い神がいたのです。
名を封じられ、語られることも禁じられた存在はただ、悪神という呼び名だけ遺されました。
かつて鋼の種族などにより、四度の撃滅を経てやっと滅ぼされた異なる法則を備えた神です。
かの神のせいで、この世界には魔物や、魔獣と呼ばれる存在、そして悪神の使途が残されました。
理性を対価に、金色の瞳と強い力を備えた悪心の使途は、今もこの世界に戦いを齎します。
魔物や魔獣もまた、只人には勝てぬほどの力を備え、人々を蹂躙するものが多くいます。
神代の時代ですら滅ぼすのに難儀した悪神と、その影響。
再び同様の神格が遠き遠き場所より来訪すれば、この界は再び、安定を失うのではないかと。
そう懸念した一柱の神格、機械神デウスエクスマキナは、この世界より旅立つ際に、己の身体を遺骸として遺しました。
雄々しく、巨大なる遺骸は、残っていたドワーフの真祖達により大鎧とされました。
神代の侵略者の再訪にすら勝てるように誂えられた巨大鎧。
これを、機装展鎧の名を与え、山脈の一つとして隠しました。
いつかまた、大いなる神格が悪意をもって現れることがないよう、祈りと、願いと共に残して。
とおきとおき、遙か昔の物語です。
それを継ぐものを、我々はまだ知りません。