ステータスなんかクソくらえ!~図書室の地味子は俺にとっては宇宙一かわいい~
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朝。県内一の進学校である、高校の二年二組のドアを開けると、クラスメイト達からの嫌悪に満ちた視線を一斉に浴びた。
教室全体が見えない粘性のバリアが張られているような、居心地の悪い拒絶を感じながら、相川菊一は最前列の自分の席に向かった。
菊一は、厄介者の不良と見なされている。
実は菊一は、趣味は勉強と読書という、中身は極めて真面目な男ではあるが、短く立てた髪を金色に染め、両耳に派手なピアスを付けている。
校則はかなり緩めのため、規則違反とはならないものの、学校中から異端児扱いされている。
菊一がこのような風貌をしているのは、簡単に言ってしまえば、いじめから身を守るための威嚇だ。
中学校では、身に覚えの無いことを根拠に、散々な目に合った。
小学校までは仲の良かったはずの、幼稚園からの幼馴染の冬野瀬里奈。
『菊ちゃん大好き!』
『おおきくなったら、菊ちゃんのお嫁さんになるの!』
菊一は瀬里奈が大好きだった。
中学に上がっても、積極的に瀬里奈に話しかけに行った。
少しでも瀬里奈と一緒にいたかった。
少しでも瀬里奈と話していたかった。
一体何が悪かったのだろうか。
瀬里奈からはストーカー扱いされ、瀬里奈を含んだスクールカースト上位の男女からは、毎日罵詈雑言の嵐。
「ねえ、菊ちゃん……。その、言いにくいんだけど、もう近寄らないで貰えるかな……。わかってくれるよね?」
引きつった笑いしか出なかった。
高校からは、髪を染めピアスをし、体も鍛えた。
そのおかげか、同じ中学校からもそこそこの人数が同じ高校に上がったのだが、直接的な悪口を言うものはいなくなり、その代わりに距離を置かれ無視されるようになった。
もうクラスメイトなんかには興味が無かったから、無視をされるのは、むしろありがたかった。
こちらも誰かに話しかけるつもりなど無い。
何の因果か、幼馴染の冬野瀬里奈も、高校になってまでも同じクラスだった。
俺はどれだけ神様に嫌われているのか。無神論者である菊一も、その時だけは神様に向け文句を呟いた。
冬野瀬里奈は、ステータスだけを見ると完璧な少女だった。
黒く艶やかな長い髪。均整の取れた美しい顔。スタイル抜群。スポーツ万能、頭もいい。
ファッション雑誌のモデルもやっている。
常にクラスの中心にいる人気者。いわゆるメアリー・スーというやつだ。
今も、教室の真ん中で、美男美女の軍団に囲まれている。
菊一は確かに、小学校のころまでは瀬里奈に淡い恋心のようなものを抱いていた。
その醜悪な本性を見抜けずに。
「ねえ、菊ちゃん。私のこと好きなの?」
中学一年のころ。まだ瀬里奈と一緒に登下校していたころ。突如、瀬里奈の口からそれは放たれた。
「付き合ってあげてもいいよ?」
その言葉に無邪気に喜んだ菊一は、諸手を上げて飛びついた。
「菊ちゃん。あの靴が欲しいの」
少ない小遣いを必死に貯めて、瀬里奈に靴を贈った。
「宿題やるの忘れてきちゃった。答案用紙、私に頂戴?」
瀬里奈は菊一より頭がいいはずだが、よく宿題を忘れてきた。
その都度、瀬里奈に宿題を渡し、菊一は先生から怒られた。
「明日、私の誕生日だけど、他の友達と一緒に遊ぶから、菊ちゃんは来ないでね。プレゼントは貰ってあげるから……」
菊一は、瀬里奈の言うことなら、できるだけ何でも聞いた。
しかし、キスはおろか手を繋ぐことさえも、瀬里奈が嫌がるためできなかった。
瀬里奈の微妙な態度には違和感を覚えたが、気にしなかった。
いや、気にしないようにしていた。
菊一に向ける瀬里奈の目は、決して恋人のそれではなかったのは、心のどこかで分かっていた。
中学二年。
それは、ただの偶然のはずだった。
一緒に下校しようと瀬里奈に伝えたが、ここ最近同様、やんわりと断られたため、一人で下校するため下駄箱で靴を履き替えた。
すると雨が降り始めた。
菊一は空を見上げると、折り畳み傘を教室の机にしまってあることを思い出した。
教室まで戻り、ドアに手を掛けたところで、中に誰かいることに気づいた。
そっとドアを少しだけ開け、中を覗く。
同じクラスのイケメンと、瀬里奈がキスしていた。
突然の衝撃に襲われた菊一は、ドアを思わず開けた。
「せ、瀬里奈…。なんで、何をして…」
驚く表情の二人。しかし、すぐに落ち着いた雰囲気に戻ると、瀬里奈は菊一に告げた。
「その、菊ちゃん。こういうことだから。ね?だから……」
菊一は、もうそれ以上その場に居られなかった。折り畳み傘の事なんでどうでもよかった。
雨に濡れるのも気にせずに、走って家まで逃げて行った。
家に帰ると、何度も吐いた。悔しくて涙が止まらなかった。
その翌日から、なぜか菊一は瀬里奈のストーカーということになっていた。
イケメンか瀬里奈が言い出したのだろうか。
瀬里奈は一応、菊一と付き合っていたはずだが、きっとそれを無かった事にしたかったのだろう。
菊一と付き合っていた瀬里奈が、浮気をしたという事実。
プライドの高い瀬里奈は、自分が悪役になるのが嫌だったのだ。
瀬里奈の体裁を保つためだけに、菊一は犠牲になることを強いられたのだった。
菊一の言葉を聞いてくれる者は、誰一人として居なかった。
高校二年。
短い髪を金に染め、ピアスを付けた菊一は、すっかり腫物扱いになっていた。
基本的に真面目な性格であり、勉強が得意な菊一は、県内一の進学校に進んでいた。
そのため、周囲の人間のファッションも比較的おとなしめであったことも関係し、派手に目立った菊一は、悪い意味で学校の有名人になっていた。
根も葉もない噂ばかり立った。
-女子をストーキングし、襲い掛かる外道-
それを聞いた菊一は、乾いた笑いしか出なかった。
放課後、図書室に通うことが菊一の日課になっていた。
進学校のため、放課後は塾に通うことが一般的であったため、図書室にはほとんど人が居なかった。
菊一は、この静かな図書室でのみ、安らぎを得ることができた。
今日も菊一は、お気に入りの作家の小説を手に取る。
誰もいない図書室の角。いつもの定位置。
誰もいない、はずだった。
菊一が読書に夢中になっていると、ふと目の前に少女が立っていた。
分厚い眼鏡に、黒髪で三つ編みおさげの地味な少女。
「あの、その作家さん、好きなんですか?」
最初、菊一は自分に話しかけられているとは思っていなかった。
この学校で、菊一と話そうとする人間は皆無のはずだから。
菊一が反応しないため、少女は首を、こてん、と傾げる。
「あれ、私、なんか変なこと言っちゃいました?」
そこで菊一は、話しかけられているのが自分であると気づいた。
「あ、ああ。好きだよ。この人の本はよく読んでる」
「やっぱり!この前も読んでましたよね!そうだと思ったんです」
以前から自分を見られていたという事に、少し恥ずかしい思いをしながらも、菊一の脳裏には、自分に関する噂が勝手に思い浮かんできてしまう。
「話しかけてきてくれた事は嬉しいんだけど、俺には関わらない方がいいよ」
「あー、あの噂の事ですよね?私、信じてませんよ」
「え?」
信じてない?
「だって、毎日図書室に来て、閉まるまで居るじゃないですか。
誰かをストーキングとか、する時間も無いですよね?
噂ばっかりで、実際の被害者も出てなければ、アリバイもしっかりありますし」
毎日見られていたのかと思うと、菊一は少し恥ずかしさを感じる。
しかし、ここ数年間いなかった、菊一に普通に接してくれる人間。
言葉に棘も無く、不審な目で見られることもない。
菊一にはそれが嬉しかった。
「その、俺こんな見た目だし、怖くないの?」
「え?全然怖くないですよ。話せば分かっちゃいますよ。だって…」
だって、私をいじめてきた人達と全然違いますもん。
それから、菊一は少女と話すようになった。
少女は、同じ学年の二年一組、杉村蛍。
端的に言うと、杉村も菊一と同じような、いじめの対象らしい。
悪口と無視。
暴力とかは振るわれてないだけ、まだよかったと思う。
まあ、仮にも進学校だしな。
その日から杉村とは、本当に、本当に色んな事を語り合った。
菊一の過去。幼馴染と付き合えたと思ったら、本命のイケメンが居た。
身に覚えのないストーカー扱いされ、味方は誰ひとり居なかったこと。
杉村へのいじめも、ある日突然始まったらしい。
女子によくある、マウントを取りたいためだけの他者への悪口。
憂さ晴らし用のサンドバッグ。
巻き込まれては堪らないと、友人と呼べる者は次々と離れて行って、最後に残ったのは自分だけ。
相川菊一と杉村蛍。
ふたりは似たもの同士で。
日に日に奇妙な連帯感で結ばれていった。
一緒に水族館に行った。杉村はクラゲが好きらしい。ふわふわ漂っているのを見ると癒されるそうだ。
町の図書館にも行った。学校の図書室よりもはるかに多くの本に囲まれ、杉村の目はキラキラしていた。
下校途中に喫茶店にもよく寄った。ふたりとも甘いものが好きで、お互いのケーキを分け合った。
杉村は、分厚い眼鏡をかけているため素顔がよく見えないが、本当は結構かわいい顔をしているのを菊一は知っていた。
世間一般的には、冬野瀬里奈やカースト上位の女子達の方が美人と呼ばれるのだろうが、菊一はそんなことは知ったことではなかった。
帰宅途中の道端で、ふと杉村と手が触れ合った。そのまま手を握ると、杉村は握り返してきた。
横目で見ると、うつむく杉村の顔は真っ赤になっていた。きっと自分も似たようなものだろう。
いつの間にか、菊一は杉村を『蛍』と呼ぶようになっていた。杉村蛍も『菊一君』と呼んでいた。
金髪の派手な男子と、黒髪眼鏡の地味な女子。なんてアンバランスなのか。
それでも、隣で笑う蛍を見ると、これでいいと思えた。
ときおり校内で、冬野瀬里奈が彼氏と言い合いをしているのを見かけた。
どうやら彼氏が浮気をしたとかどうとか。
既に興味は無かった。
一学期が終わり、夏休みに入ると、蛍は菊一の家で勉強をするようになっていた。
「ねえ、菊一君はさぁ、なんで小説とか好きなのに、国語苦手なの?」
「漢字がね。読めるけど、書けないんだよ。
普段見慣れてる字のはずなのに、いざ書けって言われると、あれ?どんなんだっけ?ってなっちゃう」
「あはは、それちょっと分かるかもー」
「蛍は、理数系がんばんないと、人の事言えなくなるぞ」
「いやー、数字とか出てきちゃうとね。頭の回転が停まるんだよー」
へらへらと笑う蛍は、見た目通りの文学少女だった。
理系の菊一と、文系の蛍。お互い苦手な分野を教え合った。
一緒にいる時だけは、嫌なことを忘れられる。蛍も同じことを言っていた。
ある日、いつも通り菊一の家でふたりで勉強をした後、最寄り駅まで蛍を送っていた途中。
既に、自然と手を繋ぐ習慣が染みついていた二人の後ろから、聞き慣れた、しかし聞きたくない声が菊一の鼓膜に侵入する。
「菊ちゃん」
その声は、菊一と蛍の背後から発せられていた。
だが、振り向きたくない。
「菊ちゃん。誰、その女」
菊一は、ちらりと肩口から後ろを覗いた。
そこには、思っていた通りの人物。
冬野瀬里奈。
菊一を裏切り、いじめの発端となったスクールカースト上位の女子。
「菊ちゃん。なんで私がいるのに、そんな変な女と手を繋いでるの?離れて」
こいつは何を言っているのだろうか。
中学時代、付き合ってると言いながら、髪の毛一本触れさせてくれず、別の男と浮気をし、さらには菊一が全面的に悪いことにし、孤立させた女。
そいつがなぜか、あたかも正妻面をして、蛍を『変な女』扱い。
一瞬はあっけに取られたものの、すぐさま菊一の頭の中に、血液が沸騰したような怒りが湧いてくる。
「……お前には関係ないだろ」
菊一は、蛍を手を握り、先を急ごうとするが、またもや声がかかる。
「待って、菊ちゃん。話を聞いて。私、やっと気づいたの。
私には菊ちゃんしか居ないって。だから、やり直そ?その、変なすれ違いはあったけど……。
その女のことは水に流してあげるから、ね?」
瀬里奈の言っていることがあまりも意味不明過ぎて、足を止めてしまった。
「え?お前、彼氏がいるだろ?」
「もう別れた!あんな浮気男!
私、菊ちゃんの事がずっと好きだったの。ちょっと他の人に余所見しちゃったけど……。
でもそれでようやく分かったの。やっぱり菊ちゃんが好き。だから、私と付き合ってください!お願い!」
何をどうすればいいのか、見当もつかず、頭が混乱している。
-俺が好き?-
菊一の心の奥底には、まだ子供の頃の、瀬里奈と仲が良かった時の思い出が燻っていた。
『菊ちゃん大好き!』
『おおきくなったら、菊ちゃんのお嫁さんになるの!』
瀬里奈の事はもう割り切ったはず。だけど……。
裏切られた。ひどい目にも合わされた。
でも、幸せな時期も確かに有ったのだ。
楽しかった日々の思い出が、強く脳裏をよぎる。
菊一には、もはや何が正しいのかわからなくなっていた。
それほどまでに菊一にとっては、瀬里奈という娘は、様々な意味で特別だった。
その時、蛍が菊一の手を強く握った。
菊一は、ふと我に返り蛍を見る。
「菊一君。その子、たぶん言ってること全部、嘘だよ」
蛍の眼鏡に街頭の光が反射して、表情が読めない。
だけど、繋いだ手から感じられる暖かい熱が、菊一を現実に引き戻した。
瀬里奈に裏切られ、中学からずっとひとりだった。
悔しかった。辛かった。
自分を差し置いて幸せになる瀬里奈を許せなかった。
でも、蛍と会って、手を繋いで、一緒に笑った。
ふたりで水族館に行った。ふたりで図書館に行った。
ふたりでケーキを分け合った。
いつもふたりで、道を歩いていた。
この数か月間、菊一は確かに、蛍との思い出を積み上げていったのだ。
ふたりで。
蛍と瀬里奈、どちらを選ぶのか。そんなことはもう迷わなかった。
「瀬里奈。お前と付き合う気は一切無い。
行こう、蛍」
もうここに居ても仕方がない。菊一は蛍と一緒に歩き出した。
背後から罵声が聞こえる。
「なんで!なんでよ!そんな地味な女のどこがいいの!私モテるんだよ?
雑誌のモデルにもなったし!運動だって勉強だってトップだよ?
私の彼氏ってだけで、気分いいでしょ!?
どう考えても私を選ぶでしょ!」
ああ、そうか。
ようやくわかった。
瀬里奈は、恋愛をステータスでしか考えられないのだ。
だから、ステータスがクラスでトップな瀬里奈は、選ばれて当然。浮気しても、よりを戻して当然。
自分の方が上だから、浮気するのは許されるけど、浮気されるのは許せない。
子供の頃から一緒だった瀬里奈。
いつの間にこんなに歪な子になってしまったのだろう。
気づかなかっただけで、最初からそうだったのだろうか。
いや、よくよく考えれば、ステータスで恋愛をするなんていうのは、割とよく聞く話だ。
むしろ、自分たちの方が異端なのかもしれない。
「瀬里奈。結局お前は、自分のことをちやほやしてくれて、何でも言う事を聞く、都合のいい奴隷が欲しいだけなんだろ?」
そうでなければ、菊一と復縁しようとは思わないはずだ。
彼氏にするならば、カースト上位の男子が他にもいるわけで。
でも、菊一は、奴隷としては有能であると、実績があるから。
「ちがう!なんでそんなひどいこと言うの!菊ちゃんの事、本気で好きなのに!
うわああぁぁん!」
道端だというのに、へたり込んで泣き叫ぶ瀬里奈。
きれいな目から、ぼたぼたと涙が溢れている。
「菊一君。あれたぶん、嘘泣きだからね」
「ああ、わかってる」
恋というフィルターを外して見れば、瀬里奈の全てがうさんくさく思えた。
微かに残っていた瀬里奈への熱も、急激に冷めていく。
過去の自分も、なぜあんなに瀬里奈に執着し、言う事を聞いていたのか。
「そんなダサい女ぁ!私の方が何もかも上なのにぃ!絶対、私を選ぶはずなのにぃ!」
もう十数年も続いていた、幼馴染という関係性。
今、ここで決別する時が来たのだ。
「瀬里奈。俺の彼女を悪く言う事は許さない。
ステータスなんてクソくらえだ。
俺はお前を選ばない」
勢いあまって蛍を『彼女』と呼んでしまったが、そこに後悔は無い。
蛍への気持ちは、もう抑えられなくなっていた。
隣で赤い顔をしている蛍の手を掴んだまま、その場から去っていく。
去り際の瞬間、瀬里奈を見たが、既にその顔に涙は欠片も無く、ただ憎々しげに菊一と蛍を睨んでいた。
無言で歩くふたり。
もうすぐ駅に着こうとする頃、蛍が重たげに口を開いた。
「あのぅ……。菊一君、そのね、さっき私のこと『彼女』って言ってた気がするんだけど……」
「……うん。言ったね。……その、嫌だった?」
蛍は歩みを止め、それにつられ菊一も止まる。
蛍は目を合わせてくれない。
「……そういうの、よくないと思いますー。
勘違いしちゃうよ」
「勘違いじゃないよ」
菊一の心臓は破裂しそうなほど大きく脈打っていた。
ここが菊一と蛍の関係を決める、正念場であることは理解していた。
「勘違いじゃないよ。俺、蛍に彼女になってもらいたい。
ダメかな?」
蛍は、まだ目を合わせてくれない。
「……ダメ、じゃないと、思いますー。
っていうか、私みたいな地味子なんかでいいの?」
蛍は目を合わせないまま、真っ赤な顔をしてうつむいていた。
「蛍がいい。蛍じゃないと嫌だ。
他の奴が何て言おうが、俺にとっては蛍が宇宙一かわいい」
「恥ずかしいよ、もう。……でも、うれしいかな。へへ」
繋ぐ手を握る力が、少し強くなる。
菊一は、蛍の頬にそっとキスをした。
「ひゃっ!ちょっと!いきなりすぎだよぉ……」
びっくりした顔の蛍は、ようやく菊一の方を向いた。
眼鏡の奥の瞳が、とてもきれいだった。
「ごめん、がまんできなかった。嫌だった?」
「ん~!嫌じゃないけど!恥ずかしい!」
またもやそっぽを向く蛍の横顔。
この光景は、きっと生涯忘れることはないだろう。
ふたりで手を繋いで歩くのだ。
これからも。ずっと。
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