「祭りについて聞いてみた」
「祭りについて聞いてみた」
この田舎の祭りにどんな秘密があるのか。
サクラは手っ取り早く元京都人の拓に尋ねてみることに。
すると思っていたより色々な伝承があることを知る。
この祭り、本当に何か秘密があるのかも?
*** 祭りについて聞いてみた
サクラの目的は、拓であった。
喫煙所で煙草を吸っていた拓を強引に呼び出したサクラ。聞きたいことは色々ある。とりあえずロビー内にあった喫茶店に入った。
拓はコーヒーを頼み、サクラは宇治金時カキ氷を頼んだ。支払いはむろん拓。
サクラは、飛鳥とJOLJUは依頼主である晴菜と打ち合わせにいった事を説明し、今度はユージたちの所在について尋ねた。
「ユージとエダちゃん、セシルちゃんの三人は一風呂入りに行ったよ。人が多くなる前にゆっくり満喫したいってさ」
「拓ちんは風呂にいかなかったんダイ?」
「万が一窃盗にあったら困るだろ?」
そういうと拓は鞄を取り出しサクラに見せた。それだけでそこに何が入っているか分かった。ユージとセシルの銃が入っているのだろう。こればかりは旅館の貴重品預けということでスタッフに渡すわけにも行かない。
「それはそうと、拓ちんは知ってるでしょ? この町の祭りの事」
「大天狗祭りだろ? そりゃあ知っているよ。俺、京都人なんだから」
京都人というだけではない。拓は日本の歴史や文化にも精通している。
「この町の北に黒酉神社ってあるんだけど、大昔、天狗が舞い降りたって伝説があってさ。守り神となった天狗に感謝し繁栄を祈願した祭りが元々なんだけど……そうだな、20年くらい前から観光客を呼び込むようになったんじゃなかったかな? 花火大会や縁日が出て賑やかにやるようになったのはここ10年くらいだったと思うけど。俺もこんな大きな旅館が出来ているなんて全然知らなかったけど、祭り自体は知ってるし来た事もあるよ」
「拓ちんは京都市内出身なのにこんなに遠くまで来たの? 祭りなんて京都だったら色々あるんじゃないの?」
「市内の祭りは花火がないからな。亀岡とか福知山には花火大会があるけど。電車の便もあるし、車があるなら高速道路に乗れば一時間ちょっとで来られる。ここからだと舞鶴や天橋立もそう遠くはないから、今は観光ルートになっているんじゃないか? 温泉たって、このあたりは昔からの温泉地じゃないから、ここを経営している綾宮家が費用かけて掘ったンだろう。その投資に見合うように祭りの規模を大きくして町おこしに結び付けているんじゃないかと思うんだが」
日本はその全域が火山帯で、お金さえかければどこでも温泉は出る。事実、昔は京都市内には温泉はなかったが、今では何箇所か温泉施設が出来ている。これは東京でも同じだ。
「ふむ……そういうレールが出来上がっているんなら確かに観光地になりえるとは思うけど。他人事だけど随分冒険したもんだね、この経営者も。こんなド田舎で交通の便も悪いのに、こんな大きな温泉旅館と施設作っちゃうなんて」
「まぁ採算は取れる計算はあったかもしれないけどな。この町には、終末医療で有名な黒川病院があるから。ホラ、駅から東の山のほうに大きな病院があったろ? あそこが黒川病院だよ。内科専門だけど、主に老人やガン患者を対象にした専門医療が有名で、デカい入院病棟もあるし、でかい老人介護施設もあったはずだ」
終末医療専門というのは珍しい。しかしだとすれば大きい金も動いているのだろう。患者は関西一円に広がる。そういえば米国にもそういう町があった気がする。
「その老人たちや、その家族が普段は保養と宿泊でこの綾宮天狗荘を使ってお金を落としている……って事なワケだな」
成程、そういう関係もあるのか。
しかし随分と上手く経済が嚙み合っている。まるで理想的な町の成功例のモデルケースのような成り立ちだ。その内大型複合モールなんかできれば、この北丹後雅町の知名度はもっと上がるかもしれない。
「でも、そういえば……昔はこの町もあまり良くは言われていなかったな。『姥捨て村』
とか、『夜帰りの黒天狗村』とか」
「『姥捨て村』は病院のことだって分かるけど、『夜帰りの黒天狗村』ってどういう意味?」
その問いに、拓は一度口を閉ざし周りを確認してから、一口コーヒーを啜った。
「昔からヘンな言い伝えというか噂があってさ。ああ、京都市内での噂だけど、『大天狗祭りは必ず日帰りじゃないと呪いに遭う』って」
「呪い?」
「『余所者が祭りの期間に村に泊まると天狗に喰われる』って噂さ」
「……随分……なんていうか、古典的っていうか、どこにでもある話ではあるけど」
「市内じゃ結構有名な話なんだよ。だからあんまり市内の人間……特に伝統に煩い京都人はこの祭りには来たがらないし、事実来てなかったよ? ウチの親や親戚もこの祭りに来た事ある人間いないんだよ。ああ、俺ら世代は若い頃度胸試しに行ったけど」
はぁ……と溜息をつくサクラ。
まぁ、伝統に煩い京都らしいというか、むしろ古臭い事をいつまでも気しているなと呆れていいやら。
「ま、この旅館の盛況ぶりから考えると噂は所詮噂だったって事だね」
言いながら宇治金時のすくって口に運ぶ。しかしそういう事情があるから、これだけの規模があるにも関わらず知名度が低いのか……と納得するやら、馬鹿馬鹿しいと笑っていいやら。どっちにしても噂話ではないか。
だが、拓は笑わなかった。
ゆっくりと一口コーヒーを飲むと、少しだけ顔をサクラに近づけ、小さい声で言った。
「実は昔、祭りの日に殺人事件が起きている」
「まぢで!?」
思わずサクラも宇治金時を食べる手が止まった。米国ならともかく、この治安のいい日本で、そんなダイレクトでタイムリーな事件が起きればマスコミが騒がないはずがない。
「本当だよ。40年くらい前だけど」
「なんだヨ。拓ちんも生まれる前の話じゃないかい。それだけ人が集まれば事件だって起きるだろう」
「米国と違って日本だぞ? 殺人事件はホイホイ起きない」
そう言って、拓はコーヒーを一口飲む。
「詳しくは知らんけどバラバラ殺人事件だったんじゃなかったかな? まだ未解決事件だったはずだ。今となっては真相は闇の中、とはいえネットでは時々話題になっているみたいだよ。少なくとも飛鳥は知っていた」
「あいつは……こういう未解決事件好きだしなぁ~」
溜息をつくサクラ。飛鳥がどうして自分を誘ったのか分かった気がした。多分、自分やJOLJUを呼んだのは、その謎解きに付き合わせる為と万が一の万が一の時のボディーガードにするためだろう。
成程、サクラとJOLJUが居れば呪いが本当であっても怖くないし、もし未解決事件の犯人がいたとしても、サクラがいればいい護衛になる。黙っておけばサクラは飛鳥に感謝する。万が一事件を解決できればAS探偵団の名前に箔が付く。飛鳥らしい小賢しい一挙両得の手段だ。
「まさかユージや拓ちんが銃持って武装しているのも、その呪いが怖いからじゃないだろーな?」
「まさか。そんな呪いや噂信じていたら、体がいくつあっても足りないだろ?」
「そりゃそーだ。今更呪いもへったくれもないわな」
そもそもリアリストのユージたちがそんな話を信じるワケがない……聞くだけ無用だ。
「ま……お前や飛鳥は退屈しないだろ? こういう噂話があったほうが」
そういうと、拓はようやく微笑みを浮かべ残ったコーヒーを一気に喉に流し込む。
サクラも溜息をついて残った宇治金時を掻きこむ。
まぁこういう話がないと飛鳥は張り切らんわな……と納得した。
ただ、何か後味の悪い、歯の間にモノが挟まったような違和感を覚えていたが、その不安感は「気のせいだろ」と片付けた。今回の件はJOLJUも関わっている。本当に危険があるなら、ユージや拓はともかくエダやセシルを祭りに呼んだりはしない。ああ見えても、あれは現在ニートではあるが一応元神様である。
「祭りについて聞いてみた」でした。
今回はサクラと拓ちんだけの話。
あまり語られないですが拓は京都出身。まぁ今回のシリーズではそのことはよく出てきますが。唯一土地勘がある人間ですし。ユージは札幌、エダは東京育ちなので京都のことはちんぷんかんぷんです。
ということで色々伝承があることが分かった今回。
まぁ日本の田舎の祭りには何かしらこういう伝承とか伝説とか妖怪話とかはツキモノなので拓にとっては珍しくないですね。
しかし興味深いのは実際に未解決殺人事件が起きていること!
米国ではざらですが日本では中々ないこと!
ということでサクラの興味も段々芽生えてきます。
さぁまだ事件は起きていませんが、これからです!
これからも「黒天狗村」をよろしくお願いします。




