「旅館前の出来事」
「旅館前の出来事」
件の旅館についたサクラたち。
そこは考えているよりもずっとすごい旅館!
本当にこんなすごいところにタダで泊まれるのか!?
と驚く三人のところに今回の依頼人登場!
*** 旅館前の出来事
8月11日 昼前。
「ぬわぁ~!」
「へぇ~……」
「JO~……」
旅館の前で、立ち尽くすサクラ、飛鳥、JOLJUの三人。
250台以上停められる広い駐車場。そして純和風の4階建ての大きな建物が二棟。さらに散歩が楽しめるよう広大な日本庭園がある。どこからどう見ても、立派で豪華な純和風の豪華な大旅館……というより、豪華なホテルが目の前であった。
「温泉旅館……とか言ってなかったか!? 飛鳥! なんだこの田舎に不釣合いな豪華なホテルはっ! 本格的な高級リゾートホテルじゃん! これでさらに温泉まで付いてンの!?」
「ホンマやな……ここは草津か箱根か! ってカンジやな。どっちも行ったことないケド。あ、熱海はあるケド」
「ええっと……大浴場が三つ、大露天風呂が一つ。露天風呂がついてる個室もあるみたいだJO」
パンフレットを見ながら答えるJOLJU。
「道の駅を兼ねたショップも併設してて、居酒屋やカラオケルームもあるみたい。全120室らしいJO」
そう言ってJOLJUはパンフレットをサクラに手渡した。サクラはそれをじっと見つめ、豪華さに思わず溜息をついた。予想していなかった展開だ。
「こんなところで一週間遊べるなんて……イイ事があるもんやなぁ~。これもウチの功徳って奴やな」
「本当にこんなところタダで泊まれるの? 実はココじゃなくて、あっちの物置小屋が本当の宿泊所だった……ってオチじゃなくて?」
「イヤイヤ。嘘みたいな話やけど、ここで間違いないみたいや。温泉宿綾宮天狗荘……」
スマホで情報を確認しながら飛鳥は答えた。間違いないらしい。
「成程。エダやセシルが来る気になった理由の一つはこれだな。いいバカンスじゃん」
こういう純和風の大型旅館で日常の喧騒を忘れのんびり過ごす……日本人も勿論喜ぶが、日本文化が大好きな欧米人であるエダやセシルのほうが嬉しいだろう。ついでにいえばユージはああ見えて風呂好きで、豪華な温泉に浸ってのんびりすることが嫌いなはずがない。
ちなみにユージたちはここにはいない。自分たちの荷物を持ってさっさとロビーに行ってしまっている。サクラたちがここで待っているのは、依頼主と会うためだ。
待つ事15分。その依頼主はロビーから飛び出てきて、すぐに飛鳥を見つけて手を振った。
服装は飛鳥と同じ都立高校の制服を着ている。ショートカットの可愛らしい顔をした活発そうな少女だった。
「よく来たわね、真壁さん! 来てくれて有難う、助かるわ!」
「来たでー。ああ、こいつがいうてたAS探偵団のオマケのガキ共や! サクラよ、彼女は今回の依頼主、ウチの高校で軽音部の綾宮 晴菜さん。いっこ上の先輩やけど、気軽に晴菜さんって呼んでええで。あ、ウチの事も飛鳥ちゃんって下で気軽に呼んで~」
「了解、飛鳥ちゃん。じゃあ中に入って。色々打ち合わせしないとね。ああ、荷物はロビーで預けておいて、部屋に運ばせておくから。あ、そっちのお嬢ちゃんが相棒?」
「AS探偵団の相棒、サクラや。性格に難があるけど色々有能なアシスタントで、今回来てもらったバンドもこのサクラの家族や友達たちや」
「誰がアシスタントじゃい」と突っこむサクラ。ちなみにAS探偵団は飛鳥がやっているネット探偵の名称で、ASというのは勿論飛鳥、サクラのイニシャルだが、サクラは正式なメンバーとして了承した事は一度もなく飛鳥が勝手に名乗っているだけだ。サクラの立場でいえば、ただ単に毎回巻き込まれて、しょうがなく事件解決に手を貸しているに過ぎない。
「すっごい美人な子だね……。ま、いっか。じゃあ来て、飛鳥ちゃん。うちのお父ちゃんに紹介するからね。後、祭りの事を説明したいから」
そういうと晴菜は先導し歩き出す。
軽音というより運動部に属していそうな元気が溢れる気さくで明るい人だな……と、サクラは観察していた。人を外見で判断するのは良くない事だと、数10分前身内で思い知ったばかりのサクラは黙っている。
こうして彼女たちはまずはロビーに入った。ここも純和風で、小さな竹が植えられていて涼を感じさせる休憩コーナーや、お土産やちょっとしたおやつや飲み物などを取り扱っている売店があったり、ゲームセンターまである。左手奥は喫茶店兼バーがあるようだ。思った以上に広く大規模だ。
「ふむ……」
サクラは一瞬足を止め、周りを見渡した。ロビーは、予想したより多くの客で賑わっていた。半分くらいはどうやら外国人のようだ。英語、中国語、韓国語、ロシア語を確認した。もちろん日本人だっている。……凄く賑わっているなー……と、少し感心した。
「商売繁盛やなー」
飛鳥も周りを見渡し零す。
「あははっ! この町唯一の掻き入れ時だからね、夏の大天狗祭りの時は。今じゃあ外国人観光客のほうが多いくらいだよ」
「大天狗祭り?」
「今夜から16日まで行われる町のお祭りが大天狗祭りや。ウチらの出番は前祭りである今夜と、本祭りである16日の夜の二回や」
「どこが田舎町のちょっとした祭りなのよ。祭り目当てに観光客が来るっていうなら、結構大勢の人が集まるんじゃないの?」
「昔はホント村の中だけの祭りだったんだけどね」と晴菜も足を止め説明を始めた。「後は老人の慰安っていうカンジだったけど、15年前くらいからかな? ウチのお父ちゃんが張り切り始めて、今じゃあちょっとした大きな祭りだよ。花火もやるんだから」
「誰だ、ちょっとした田舎の祭りでジジババに聞かせる程度のものだって言ったのは。全然規模が違うじゃん」
「知らんがな。ウチは関東の祭りには詳しくても関西の祭りは全然知らんもん」と無責任に答える飛鳥。そう、なんちゃって関西弁を喋る飛鳥は完璧な東京人で関西の事はそんなに知らない。
「はははっ! 今年は盛り上がるよ。なんてったって今年が丁度400年の節目のお祭だ。20年に一度の神楽舞奉納も行われる予定だしね!」
「そりゃあまた……色々と」
サクラは少し引き気味に呟いた。歴史も伝統もあり、さらに今年は節目でイベントも重なる……そんな大イベントの重要なところを飛鳥に任せていいのか? と他人事ながら心配になった。しかし、当の飛鳥はそんなプレッシャーは全く感じていないらしく、「いい祭りになるとええなー」と全くもって平常運転だ。
……まぁ、そんな伝統は知らないからユージもエダもセシルも気軽に引き受けたんだろうな……とサクラは思った。でなければ素人でこんな大きな祭りの一翼を担うなんて出来ないだろう。そんな事を考えていた時、サクラはロビーの喫煙所で拓の姿を見つけた。
……あの喫煙中毒者め……と呆れるサクラ。
だがすぐに思う事があり、飛鳥の袖を引っ張った。
「あたしはバンドにノータッチだから、打ち合わせや挨拶は飛鳥がやっといて。あたしはちょっとヤボ用~」
「ん? ワガママな奴やな。まぁええけど。じゃあまたロビーで合流や。こっちの打ち合わせが終わったら電話するから近くにおれよ? 長風呂とかいくんやないぞ!」
「サクラちゃんはそんなに温泉好きじゃない。まぁ電話待ってるわ」
そういうと、サクラは一人ロビーへ引き返す。飛鳥も深くは考えず、JOLJUと一緒に晴菜の後に付いていった。
「旅館前の出来事」でした。
さて、今回のメイン舞台になる綾宮大旅館です。
かなり大きな大旅館……ホテル施設+飲食店+道の駅といったカンジの場所です。
京都でこの規模! とはいっても北部の田舎ですのでほぼ地方ですからこういうのもあるわけです。しかしこれで今回の祭りが思っていたよりかなりの規模が予想されます。このあたりよく調べていそうで全然調べず突撃するのが飛鳥です。
まだ事件は始まっていません。
事件はこれからです。
これからも「黒天狗村」をよろしくお願いします。




