「エダは可愛い!」
「エダは可愛い!」
ライブが終わった。
サクラたちはみんなに会いに行く。
これからはみんなもまつりを楽しむ番だ!
それぞれ夏祭りらしい服に着替えていた。
***
17時45分。
サクラとセシルとJOLJUは演奏後の皆に会うため舞台裏を訪れた。
舞台裏では、町内会のボランティアと綾宮天狗荘のスタッフでごった返していたが、サクラたちはその中を上手に掻い潜り、皆を見つけた。
「楽しかった!」
高揚しながら水を飲んでいるエダ。
「エダさん凄いよ!! 私も感動しちゃったよ!! もうこのままプロでもいけるんじゃない?」
晴菜も吹き出る汗をタオルで拭いながら楽しそうに笑っている。その後ろでは、飛鳥もタオルで汗を拭いながら、グビグビとコーラを一気飲みしていた。
「どうや? ウチの演出力! 上手くいったやろ? いやー♪ さすがはウチや! あははははっ♪」
少女三人で盛り上がっているのをサクラは目ざとく見つけた。やはり今回の音楽ライブを演出したのは飛鳥のようだ。
それを知ったサクラはセシルの袖を引っ張る。
「あいつと今会うと自慢話になるから止めよう」と言い、方向転換した三人。そして、別の人気のない場所でユージと拓を見つけた。
「早っ! もう着替えたのかユージは!!」
サクラの第一声はそれだった。
ユージは浴衣を脱ぎ、諸肌に黒の甚平を羽織っていた。拓は濃紺の浴衣のままだ。お面は二人共外し、顔をタオルで拭い、水を口に運んでいた。
当たり前だが元日本人で、こういう服は普段着ないがよく似合っている。
まぁ……この祭りの中で、いつものダークスーツを着ているほうが目立つから選択は正しい。
エダや晴菜、飛鳥と違い、大人の二人は特に感動するわけでなく、いたって普通だった。
「早着替えは俺の職業なら基本スキルだ」と言いながら、ユージは甚平の前を止める。約40分、ずっとハードに演奏していたのに全然疲労していないのはさすがというべきだろうか。ちなみに早着替えはFBI捜査官のスキルではなく、副業の救命外科医のスキルだ。素早く何度も手術着に着替える事が多いから慣れたものだ。バンドメンバーの中でも、一番ハードだったのはユージだ。この夏の盛りの野外での演奏は相当暑く、体力はともかく体は汗まみれだったので、終わるとすぐに物陰に入り浴衣を脱ぎ、全身水を浴びてからすぐに今の甚平に着替えた、ということのようだ。
「エダちゃんや晴菜さんは着替えるから、あの二人は少し遅れるよ。飛鳥は知らない」
女の浴衣のほうが着替えるのは大変だ。ということは、エダたちは後20分くらいかかるだろう。
「なんだ、拓ちんは着替えないのかい」
「俺、そんなに汗かいてないもの」
拓はそのまま浴衣でこの後の祭りに行くらしい。確かに拓は歌う事もなければ、そこまで大変ではないキーボード担当で、曲によっては参加していなかったから、エダたちやユージよりは汗をかいていない。
「蒸し暑い日本の夏だぞ? どうせこの後夜祭り見ているうちに汗はかくし、旅館に戻ったら温泉入って着替えるんだったら、手間が増えるじゃないか。面倒くさい」
「は……はぁ……」
苦笑いするセシル。
「そんなんだから、女の子にモテないんだな、拓ちんは」
と、セシルが一瞬思い浮かべた言葉をあえて口にするサクラ。その一言に面白くなさそうな顔で黙る拓。そこに、まるで空気を読めないJOLJUが、「まぁまぁ」といった顔で前に出てきて二人に「塩分とカロリー補給にどうぞだJO♪」と自分が釣って焼いたニジマスの塩焼きの串を差し出した。
さすがにもう冷えていてあまり美味しい状態ではなかった。
そしてその後、エダたちが着替え終わるまで、サクラやユージたちはJOLJUのニジマス釣りの自慢話を聞いて時間を潰すことになった。
「なんや、お前ら。来てたンならそういえばいいやん」
10分後……サクラたちのところに飛鳥がやってきた。飛鳥は浴衣姿ではなく、Tシャツにホットパンツの夏服だ。首からは手ぬぐいを下げ、Tシャツには<都人>と大きな文字が入っている。健康優良児!といったカンジで、元気さはビシバシ伝わるが、色っぽさが一ミリもないあたりはさすが飛鳥である。
予想した通り、飛鳥は開口一番今回の音楽ライブの成功を自信満々に口にし、サクラたちを閉口させた。何故だろう、あれほど感動していたし凄いと思うのだが、飛鳥の口からそれが出ると全然凄くは感じず感動はどこかに消えてしまう。
それでも飛鳥は延々5分、自慢し続けた。
それから6分後……別の浴衣に着替えたエダと晴菜が仲良くやってきた。
「おおっ!! さすがエダだ!」
自慢話をする飛鳥を押しやるサクラ。
さっきの舞台と打って変わり、薄い紺色の浴衣に着替えたエダは、さっきの清楚で可憐な印象から、落ち着いた貴婦人のような艶が生まれ、別人のようだ。紺の浴衣がエダの白い肌と白金のような艶やかな金髪を映えさせて、ギリシャの美の女神がそこに生まれたようだ。
「吃驚でしょ!? もう私も感激だよ! こんな綺麗な外人さん、初めて!!」
後ろではしゃぐ晴菜。
彼女も桃色の浴衣に着替え、中々可愛らしいのだが、エダと一緒だと翳んでしまう。
「どうかな? 似合っているといいけど」
楽しそうに微笑むエダ。
「二次元や! 二次元以上や!! すごいーーっ!!」
声を上げる飛鳥。
セシルも「すごいですよエダさん! 凄く似合っています!」と楽しそうに駆け寄る。
が、他の人間はそれほど感激した様子はない。エダが綺麗だと思っていないわけではない。が、他の人間……サクラ、ユージ、拓、JOLJUは、エダが絶世の美少女であることを十分知っているので今更驚かないだけだ。
だが、この場合どうしたらいいか……それは全員が知っていた。
サクラ、JOLJU、拓の三人が、申し合わせたように同時にユージを突いた。
「……綺麗だ。似合っているよ」
少し照れた口調で呟くように言うユージ。その不器用な言葉だけでエダは感激し、嬉しそうにユージの腕に抱きついた。
「好きなだけイチャイチャしたらいいよ~。邪魔しないから~。さ、あたしらは先、行こ」
サクラはそういうと、拓と飛鳥を引っ張り歩き出した。
これも気遣いって奴だな、随分サクラちゃんも親思いなもんだ、と思いながら、少しだけサクラは面白くなかった。絶世の美貌を持っているという点でいえば、サクラも同様である。
……随分あたしと態度が違うもんだ……
と、普段滅多に焼かない嫉妬を、ほんの少しだけ抱くサクラだった。
これは女心というより、ただの子供の嫉妬である。
「エダは可愛い!」でした。
浴衣の金髪碧眼美少女!!
そりゃあ破壊力はすごいでしょう!
もう見慣れてしまったというか目が肥えてしまって麻痺したユージですが。
まぁエダも<非認識化>のブレスレットを使うので回りからは目立たなくなりますけどね。使っていなかったらサクラ、エダ、セシルと三人の白人浴衣美少女のセットが歩くという、とんでもない光景がw
さて、今回はいわば雑談みたいな回。
次回、ようやく今回の事件にかかわることが!
祭りのマインの神楽舞で何かが起きる?
これからも「黒天狗村」をよろしくお願いします。