「ライブスタート!」
「ライブスタート!」
ついに始まるエダたちのライブ!
サクラたちのほうがドキドキ!?
しかも最初の曲は……「与作」!?
***
11日 午後16時55分。
黒酉神社境内の広場に設けられた特設の演芸ステージ前は、すごい人数が集まっていた。
「……すごい人になっているけど大丈夫なの? ユージやエダたちは……」
座席の一番前で陣取っていたサクラは周りを見て緊張する。
いや、本当に緊張するのは今から舞台で演奏するユージやエダや拓や飛鳥たちのほうだろう。
地元民、観光客、合わせて3000人くらいは集まっているのではないだろうか?
「こんな場所でライブできるんですかね?」
と言ったのはセシルである。セシルも皆の事が心配のようだ。まさかこんな大舞台でだなんて思っていないはずだ。
「大丈夫だJO」
JOLJUだけは心配する様子もなく暢気にポン菓子をモシャモシャと食べている。こいつはいつでも食い気優先だ。もっともユージやエダたちとの付き合いはサクラより遥かに長い。
「まぁ……緊張するような繊細な神経じゃないだろうけど」
失敗はしないだろう、とサクラも見守る事にした。
そして、ついに本番の時間になった。
まず、舞台の幕の前に姿を現したのは浴衣姿の晴菜だった。晴菜が現れると、村の皆が一斉に拍手したり声をかけたりする。狭い町で、その名家の娘だから皆もよく知っているのだろう。「がんばれー!」「まっとるで!」「晴菜ちゃんかわいいよー」と声が上がる。
晴菜は、伝統ある大天狗祭りの前座として祭りに関われる事をまず感謝を述べ、そしてこれから行われる音楽ライブが町民慰労のためとわざわざ足を運んでくれた観光客へのサービスである、と宣言し、お礼を言った後舞台の奥にと消えた。
数十秒の沈黙の後……どんっ! と開始を告げる大きな太鼓の音が響いた。
サクラもセシルも、自分のことのように緊張しはじめた。
そして、第一声と共に、ゆっくりと幕が上がっていった。
が……そのスタートはサクラもセシルも全く予想していないフレーズから始まった。
「与作は~木を切る~」
「……え?」
済んだ綺麗な女声……エダの声だ。
だが、その歌がなんと日本の北島三郎の「与作」!?
マジでか!?
「へいへいほー! へいへいほーっ!」と全員の合唱が続いた。
その時、幕は上がった。その瞬間、大きなどよめきが起こり、奥にいた観客の何人かが思わず立ち上がった。
全員、浴衣姿のバンドだ。しかも後ろにいる三人はお面を被っている。しかも一番奥で和太鼓の前に陣取る飛鳥のお面は、大天狗祭り祭具の一つである大天狗面である。
「歌うのは!! 私、晴菜とバンド友達!! そしてメイン・ボーカルは、このすっごい美少女のファーロングさんですっ!! どうだ皆! 驚いた!? じゃあ始めるよ!」
とノリノリで晴菜が叫ぶ。
だがほとんど全員の目線は、舞台のセンターにいるエダに向けられていた。白い桜模様の入った浴衣を着て、髪を東欧風に結い上げたエダは、誰もが圧倒する爆弾級の破壊力をもつ美しさである。こんな完璧な白人金髪美少女が、浴衣姿で現れるというギャップは半端なインパクトではない。それが、事もあろうか北島三郎の「与作」を歌っているのだ。
しかもただのカラオケではない。段々曲のテンポはヒットアップしていき、気づけばロック・テンポにアレンジされていく。ユージのギターと、晴菜のベースがさらにテンポを速めていく。それにあわせ、エダは楽しそうに「与作」を歌い上げていく。
あっという間に「与作」一曲が歌い終わると、エダが晴菜と共に舞台の真ん中に進み出て、全くクセのない流暢な日本語で挨拶した後、観光客に向かって、英語で大天狗祭りに来てくれたことに対して感謝を述べた。観光客たちもそれで一斉に盛り上がる。
こうして、音楽ライブは最高に観客たちの心を掴み、そのままテンポを上げ続いていく。
歌のセレクトは、最初だけが演歌の「与作」で、それからは有名なポップスにと変わった。どの曲も有名な曲ばかり弾いている。ただカラオケというわけではなく、英語パートはエダの独奏アレンジが入っていたり、ユージがデュエットで入ったりと、かなりアレンジが入っていて聞いていて飽きる事がない。拓と飛鳥は歌う事はないが、飛鳥は時々わざと激しく太鼓叩いたり、わざと茶々を入れたりして笑いをとっていて、抜群にノリがいい。
「驚いた。ぶったまげた。すごく巧い」
「本当です。感動ですよ」
最初抱いていた不安や緊張はどこかに消え、サクラもセシルも嬉しそうに音楽ライブを楽しんでいる。
エダの歌が上手いのは分かる。エダが歌えば盛り上がるのもよーく分かる。しかしこの演出力は完全に予想外でインパクトも強烈だった。
「本当、すごいです。ここまで盛り上がる音楽祭は中々ないですよ!」と無数に舞台を経験しているセシルも感動している。
まずエダを前面に出してまず観客の度肝と関心を奪った。テレビでも見ないような美少女だ。
そしてそれが落ち着いた頃を見計らうかのように、今度はエダとユージが前に出てデュエットを始めた。男ボーカルメインの曲はユージがメインで歌う。そして今度はエダ、晴菜、ユージでそれぞれ入り混じり展開していく。若い女性客は、仮面を被った訳ありげのユージに黄色い声援を上げている。
ユージも拓も黒の浴衣に仮面といった出で立ちだが、二人共本来は戦士で格闘技にも長け、均整の取れた美しい肉体美を持っている。浴衣だと鍛え上げられた筋肉がチラリチラリと見え、それが女性客にはたまらず魅力的だ。ユージはメイン・ギターでボーカルもやるので動きも激しい分、観客へのアピールも大きいし、ユージは長身で長髪だし声は低音の美声で歌も巧く、誰が見ても一流ロッカーに見える。
「どうせなら入場料とればいいのに」
飛鳥の言いそうな事を呟くサクラ。それくらい素晴らしい出来上がりだ。
しかし……これだけ目立てば、この後皆は祭りを一般人として楽しむことが出来るのか? と、その事がチラリと思ったが、すぐにユージたちのスケジュールを思い出し合点が行った。
……ああ、だからユージたちは逃げるように京都市内観光に行くワケだな……。
そこまでちゃんと計画している。さすがはユージだ。
音楽ライブの最後は、幕が下りた後、晴菜とエダが皆に姿を現した。歓声が割れんばかりに上がる。
「私たちの前座は以上です! この後、大天狗祭りの本番中の本番、<大天狗神楽舞>が18時から本殿にて行われます!! 20年に一度の神聖かつ中々見られない貴重な神事! 黒天狗村の皆はもちろん、観光客の皆様も是非この機会を逃さずに!!」
晴菜が言うと、すぐにエダが英語で同じ内容を宣言した。
そして彼女たちは割れんばかりの拍手と歓声を受け、舞台を去っていった。
音楽ライブは大成功に終わり、町民や観光客を大いに満足させた。
「ライブスタート!」でした!
ライブ大成功!
サクラもびっくり!
が……JOLJUは元々ユージが音楽好きなのを知っています。
そしてライブ自体エダとユージは初めてではなくて、「AL」の第一部最終章でライブモドキ、第二部学園編で何度かやったことがあります。エダは芸能人になる気は全くないですが歌は好きなのです。そしてユージも実は音楽の才能ありのキャラです。ただ医者や戦闘、捜査官といった仕事のほうがもっと向いていただけなのと、こいつも芸能界に興味がないのでやっていないだけですが。飛鳥は賑やかし焼くオプションですが。
ということでライブも終わりました!
ぶっちゃ、このライブが目的というより、このライブがあったから集まったフルメンバー。舞台装置のような役割でした。
ということで本来の事件担当はこれからです。
これからちょっとずつ謎が。ようやくですが。
これからが本番!
これからも「黒天狗村」を宜しくお願いします。