「刑事の匂い?」
「刑事の匂い?」
サクラのオシャレ作戦にはちやんと狙いが!
実は刑事がこの村に!?
しかし何が目的か。ユージたちには心当たりは無い。しかもど田舎の夏祭り前に?
なんとも釈然としないサクラ……。
***
と……。
「……4人」と拓が呟く。
「え~!? 3人でしょ?」とサクラも口を尖らせた。
「5人だ」とユージが溜息をつきながら言った。
「5人? 受付ロビーの前に一人、喫茶店に一人、温泉コーナーに一人、でしょ?」
「玄関ホールに女が一人いたよ」と拓が付け加える。
「そして、姿は見せてないが視線だけの奴が一人いた。それで5人だ」
「視線だけー!? そんなん分かるわけないじゃん! てか、どうしてそれで確証できるんだユージはっ!」
「そりゃ経験だ」
「あの~……皆は一体何の話をしてるんや?」
訳が分からず挙手し尋ねる飛鳥。飛鳥だけは皆が何を言っているか分からない。
そうこう言っているうちにユージたちの部屋<山桜の間>に着いた。中に入ると、ユージと拓は無言でリビングに向かう。サクラと飛鳥は玄関で待機だ。
「サクラよサクラ。さっきの会話って何やったんや?」
再び問いかける飛鳥。サクラは周囲を見渡し、溜息をつくとようやく答えた。
「あそこに居た、刑事の数よ」
「は!? えっ!? 刑事!?」
思いもかけない用語が出てきて素っ頓狂な声をあげる飛鳥。ユージと拓も頷いた。
「こんな田舎町の刑事じゃないだろう。動きがプロだ」
ユージは説明しながら、鞄の中からリボルバーを取り出し体に装着していた。拓も同じようにリボルバーを足首のホルスターに付けている。
ちんぷんかんぷんなのは飛鳥だ。何が起きてそうなったのか全く分からない。
サクラは大きく溜息をついた。そしてこの茶番を説明する気になった。
「あたしは囮だった……って事。この超絶絶世の外国人美少女サクラちゃんが浴衣姿で歩いていたら皆注目するでしょ? で、当然そんなイベントが起きると緊張するのは祭りに興味のない、仕事で来ている人間。今回の場合はそれが刑事だったって事サ。余所者で、観光客でもなく、それでいて荷物が少ないのとか、明らかに挙動がおかしいのとか。後はそれっぽい気配か」
「刑事は刑事独特の反応をするからな」と拓。
「少なくとも二人は拳銃を持っていた。ま、素人はまず気付かんだろうがな」とユージ。
二人の目的は銃を取りに戻ることだった。
最初に刑事を見つけたのはユージだった。それでサクラにアイコンタクトをし、こんな茶番を打つ事にしたのだ。親が娘に浴衣を着せる……実際の行動はそれだけだから、周囲はユージたちが逆に周囲を観察していたとはまず気付いていないだろう。
玄関でユージや拓も合流し、腕を組んだ。
「何で刑事が5人もいたんだ?」
「5人いたってことは、他にもまだいる。バックアップの班もいるだろう。何か事件があった……ような雰囲気じゃない。あれは監視だ」
「普通に祭りの警備やないん? そんなん普通にあると思うケド?」
「警備なら制服警官を遣すだろう。何で私服なんだ? しかも随分ピリピリしていた」
拓の言葉にサクラは頷く。
と、言われても飛鳥には分からない。
「多分、府警か警察庁か警視庁だろう。田舎の刑事の動きじゃない」
「ユージのせいじゃないの? ユージ、ここに来る前警察庁に挨拶してるんでしょ? 当然警察庁はユージが何か仕出かさないよう手を回しただけじゃないの? 現に銃だってフル装備で持って来ているンだし」
「何で俺を付けまわすんだ。まだ何もしてないのに」
「何か起きたら、結局事件を揉み消すのは警察庁とFBIだからだろ? 警察幹部が予防線張りたいって考えても不思議じゃない。もしくはお前を殺すっていう馬鹿が日本にいるって情報が入って動き出したのかもしれない」
「その線はあるかもな」
面倒くさそうに溜息をつくユージ。
拓もサクラも頷く。
ユージを殺したい裏社会の人間を上げれば限がない。
その時、飛鳥が申し訳なさそうに挙手した。
「あの……盛り上がっているトコ悪いンやけど……素直に凶悪犯とか逃走者が来たって話やないん?」
「……その線もなくはないケド、それなら検問なり制服警官増やすなりで対応するはずなんだよね」
「深く考えすぎや~。ほらほら、この町、未解決事件もあったんやし、刑事がおっても不思議やないって」
飛鳥はユージがどれだけの人間に命を狙われているか全然知らないから皆の会話もピンとはこない。
「飛鳥がいう事も全く的外れじゃないけどねー」
サクラはそういうと、着替えた自分のズボンから愛用の四次元ポーチを外し、それを浴衣の帯の中に押し込んだ。これでサクラも自分の銃を携帯することになる。
「とりあえず、俺に危険が迫っているんなら刑事は俺に接触してくるだろう。ただの気の回しすぎならほっといたらいい。でも、用心に越した事はないからな」
そういうと、ユージと拓は銃を装備して部屋を出て行った。
仕方がなく、残ったサクラと飛鳥も部屋を出て行く。部屋はオートロックだから鍵の心配はいらない。
……どうも、どの仮説もピンとは来ないんだけど……
サクラは頭の中で計算して思った。
ユージに気を使って警察庁が遣したのなら当人に一言連絡はするだろう。
勿論ユージを殺しに誰かがこの町に潜伏し、その警戒という事でもやはり当人に連絡する。逃走犯がこんな大きなリゾートホテルに宿泊するとは思えない。40年も前の未解決事件を追うのに拳銃を持った私服刑事が大勢でいるというのも不自然な話だ。ユージたちもそのあたり明確に判断できないから、とりあえず銃だけは持っていくことにしたのだろう。二人ともメインの大型オートマチック拳銃ではなくスナブノーズの357リボルバーにしたのは、銃を持っていることを第三者にバレにくい事を優先にしたのと、万が一発砲したとしても誤魔化しやすいからだ。オートマチックなら薬莢が出るがリボルバーなら使用した薬莢はシリンダーに残るから薬莢を拾う手間がない。後はなんとでも言い逃れできる。
……なんか、一つ一つは些細なことだけど、色々釈然としないことが多いなぁ……。
「あ……しまった」
唐突にサクラは呟く。
「なんやねん」
「飛鳥よ。アンタ、浴衣の着付けって分かる?」
「分かるわけないヤン。浴衣なんてリア充アイテム、ウチは知らん」
「これからアンタもリハーサル行くじゃん?」
「うん。そろそろウチも行くけど」
「その間、まったり温泉にはいろうと思っていたのにっ!!」
これからしばらく……サクラだけは特にやる事がない。一人ブラブラしてもしょうがないので、温泉にも入って時間つぶしをしようと思っていたサクラ。しかしそのためには綺麗に着付けてもらった浴衣を脱がないといけないが、着る方法は知らない。
勿論着ないという手もあるが、ユージが自腹でお金を支払ってレンタルした浴衣をすぐ脱いだ、とバレるとユージが怒るだろう。
ユージに怒られることのほうはもっと怖い。
「……どうしよう」
「知らん」
飛鳥はあっさりサクラを見捨て、部屋を出て行った。縁日が出始めるまでまだ一時間はある。
こんな土地勘もなく足もないところで何をして過ごせというのか……今度こそ本当に困り果てるサクラだった。
「刑事の匂い?」でした。
さすがは現職FBI! ユージの嗅覚は伊達ではない!
しかも刑事だけど京都府警ではない!??
だとすればちょっと大事かも?
何せ所轄→府警→関西管区→警察庁という管轄を吹っ飛ばして警察庁もしくは警視庁が出張してきているということです。しかも単独ではなく恐らくチーム……そうなるとただの事件捜査が狙いとは思えない?
ユージ絡みであれば本人に連絡するはずですしね。
警察庁や警視庁でもユージは有名人で知り合いもいますが、そうではないとすれば一体何があるのか?
ちょっと事件らしくなってきました。
しかしまだ事件は起きていません。
そう、事件はこれからです。
これからも「黒い天使長編黒天狗村」をよろしくお願いします。