悪夢【nightmare】
風が冷たい、苦しい…
息ができない
気がつくと真っ白な景色だった
綺麗だ。
突然、
風が僕を襲う…冷たく尖った空気を揺らして
その風圧で思い出される僕の使命
『僕は…』
そうだ…走らないといけないんだ
息が死んでも走り続けなきゃいけない
それしか思い出せない
“風”は目の前に聳え立って行く手を阻む
けれど構ってられない
僕は勢いよく走り出した
“彼”とは真反対の方向へ
そして必死になって何かを探す
それが何なのかわからないけれど、死に物狂いで探すんだ…風が冷たい、苦しい…
息ができない
こわい…怖いんだ
僕は走らないといけない…息が死んでも走り続けなきゃいけない
たった1人で
大きな雑音を耳にしながら
何が何でも走って探さなければならない
しばらくすると、綺麗な本屋に辿り着く
あまり長居をすると
“奴” が僕を探しにきて建物を壊す
ーーー早めに出ないといけない
結局何も見つからず、小さなため息を付き、
綺麗な淡い青色の本を見納めた
外は苦しい。苦しくて仕方がない
風が喉を刺すような痛みと、視界が真っ白な砂嵐
嫌だ嫌だ…1人なんて
このセカイには誰もいない
誰一人として居ない
“僕と彼”以外は。
『…Mc"nhxkej#G?…』
…気がつくと、建物の中にいて
喘ぐようにわらう声が、すぐ真横で聞こえた
『きれいでしょう?』
僕の“知らない知っている人”がニタァと嗤う
その笑顔はとても甘美で、
惚けてしまうほど魅力的だった
そして僕の足元に広がる、
目の前の
血、…ち
?????血?
…あぁ、血が一面に溢れている…ハハ…
君が殺したのか
誰が殺されたのか
そんなことがわからないまま、事が進む…
僕の横に立っていた“青年”が
ニッコリと笑う
首に手をかけられたが、何もしてこない
発情したかのような、とろんとした瞳で僕を見つめてくるだけだ
ゾクゾクと、ゾクゾクと、なんとも言えない背徳感が僕を犯していく
脳内が、激しく、艶めかしく…
快楽に溺れていく
あれ?…僕は何を探してたんだっけ
目の前の“モノ”に目を離せなくなった僕は
青年に微笑み返した
『そんなのどうでもいいや』
彼はまたニッコリと笑うと
唇を重ねてきた
呼吸なんてできないほど…深く…
ーーーー砂嵐のような世界で
1人なのが人恋しかったからか…
はたまた、魔性の笑みに魅せられて僕が
堕ちてしまったからか…
彼と口づけを交わす事に違和感は感じなかった
むしろ、安心を感じたほどだ
『ははっ…もうどうだっていい』
僕は考えを放棄して、味わうことに決めた
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朝起きると、ベットで寝ていた
ごく普通の朝だった。
よく寝たなぁ、なんて思いながら少し違和感を感じる
“何か思い出せない”
大事なことを忘れているような気がする…
僕は昨夜の夢を思い出そうとしてベットを降りようとした。
『…』
体が命令するより先に動きを止めた。
何か…手に生暖かい感触がして、ゾッとする
シーツごと剥いだ。だが僕は“ソレ”を見て安心する。
『なァんだ…いたのか。』
そこには命の宿っていない“肉塊”が、哀れみの瞳で僕を見ていた。綺麗な瞳…青く美しい瞳…宝石のようだ
僕は宝石だけを取り出すと、薬液が満ちたガラス瓶にゴロンと入れた。
『ピロロロン♪』
おっ、もうすぐゴミ収集車の来る時間だ。
今日は早起きもできたし、朝一番に僕の“恋人”にお目にかかれた。なんてステキな朝だ。
『さっさと“ゴミ”でも出して散歩でもするかな』