理不尽がつきまとう!
生存報告です。
異世界、そこは俺にとっては幻想であり実在しないものである……と、俺は考えていた。剣や魔法を平気で使ったり、魔物が沢山住んでいる世界になんか恐ろしすぎる。もし本当に、こんな世界に行けるのであれば、俺は異世界に行くか否か?
実は答えはNOよりのYES。こんな恐ろしい場所などで暮らすのはゴメンだが、日帰りだったら行ってみたい。恐ろしい反面、この目で異世界を見てみたいという好奇心もあるからだ。我ながら、わがままな考えだと思う。
「――その幻想が本当にあったとは、たまげたなぁ」
「本当に申し訳ないと思っている。関係の無い人間をこの世界に召喚してしまったことについては、しっかりとお詫びしたい」
目の前に居る王様がお辞儀をすると、周りに居る兵士達も、身体を勢いよく曲げてお辞儀をした。うわっ、一斉にお辞儀をするとなんか迫力も感じられるな。やはり兵士達は団体行動することにしっかりと陳列されているんだ。
「あの……。お辞儀なんてしなくても良いです。元の世界って、ちゃんと帰れるのですか?」
一番重要なことだ。召喚されたら二度と変えられない鬼畜仕様なんてのは……ないよな。すると、王様は恐る恐る顔を上げて俺に衝撃の事実を言い放った。
「すみません……。召喚や送還の儀式は一年に一度しかやることが出来ないのです。ですから、秋月殿には、一年間この世界に居なければなりません」
えっ? 嘘だろ。勝手に召喚しておいて、一年間もここで待てというのか。いやいや最悪のパターンじゃん。元の世界じゃ、完全に俺が死んだことになっているじゃん。
「いきなりこのような事になり、非常に信じがたく、腹立たしい事かと思いますがどうか許してくれませんか。秋月殿の安全は保障いたしますので」
また王様がお辞儀をした。案の定、またもや兵士達も一斉にお辞儀した。
いや、この光景さっき見たから、またやられても反応に困るだけなんだが。
「……そうか。一年間もこの世界で――」
ショックというより、もう投げやりの気分になっていた。とりあえず、冷静になれる場所が欲しい。もう情報が多すぎて、処理しきれないし混乱して疲れてしまった。後でゆっくりと情報を整理して、頭がクリアな状態で今後の方針を考えていきたい。
「では秋月様に、この世界に一年間外の世界で安心して過ごせるように強い能力を与えましょう」
「……は!? 旅立たないといかないっていうの確定なの? ここで一年間保護してくれないの!?」
王様が急に冷たい態度になって、大きなため息を吐いたかと思うと俺を睨んだ。
え……? どうしてアンタが怒っているの。いやいやおかしいだろ。
「私達の王国には資金が心許ないのです。秋月殿を保護できるほどの資金などありません。強い能力を貰えるのですから、感謝をして貰いたいぐらいだ……」
――あんな豪華な玉座に座って幸せ太りしたような体型のくせに、資金が全くないだと?
白々しい嘘を吐くんじゃねぇぞ。
「――感謝しろだと……!? ふざけんなよっ!! 召喚したのがテメェなんだから、安全に送還できるように責任取れよ!! 王様だからって調子乗んなよ……? テメェは毎日食って寝ているだけだから一年間は、あっという間かも知れないけれど――俺には大切な家族や友達、将来のための勉強とかあるんだよッ!! ……そんな貴重な時間を奪われて感謝しろとかテメェは人として終わっているよ!!」
理不尽な対応に腹が立ってしまい、つい思ったことを全部口に出してしまった。
王様は驚愕した様子で固まっていた。兵士達の間で、ザワザワとざわつきが起こる
やがて王様は深呼吸をしたかと思うと、鬼のような形相でこの場で大声で叫んだ。
「……おいっ!! この無礼な者を今すぐ牢屋に連れて行け!! 王の私に向かってこのような態度を取ったことを――牢屋で一生反省しろ!!」
「あのー……。だったら、一年間の保護で牢屋に入れて貰えませんか? もちろん、一年後には満足して帰れるように美味しい食事と寝床を――ってこれは最低限か」
俺は苦笑を交えてそう煽ると、ますます王様の顔が真っ赤になった。兵士達は俺の言葉に驚いていたがすぐに槍を構えて俺の周りを囲んだ。
完全に終わったな、俺。
「今すぐに連れて行け!! 調子に乗りおって……痛い目に合わせてやるッ!! 覚悟し――ゲホッ、ゲホッ!! ゲホゲホッ!!」
頭に血が上りすぎたのか王様は思いっきり咳き込んでしまった。俺は兵士達に牢屋に連れて行かれながら王様に向かって最後の嫌味を言ってやった。
「もう年取ったジジイなんだから身体に気をつけて下さいねぇ」
「おいっ!! 王に向かってさっきからなんて口を!!」
一人の兵士が槍で軽く俺の腹を刺したのを感じた。臓器が抉り出そうな位の強烈な痛みを感じる。身体があまりのも痛みを感じて、拒絶反応を起こしているようだ。一切身体が言うことを聞かなくなってしまった。
俺は刺された方の腹を見る。おいおい、大量の血が流れ出ているじゃないか。王城を俺の血で汚してしまって良いのか? 俺は腹を片手で押さえて呼吸を整える。
俺の腹を刺した兵士はニヤリと笑みを浮かべていた。コイツ……。今の状況をいいことに王様から信頼を得ようとこの行動をしたんだ。この世界はにクズしかいないのか?
――絶対テメェらに復讐してやる。
▼▲▼
「さっさと入れッ!!」
体格がガッツい兵士の一人が無造作に俺を牢屋に放り投げた。殺風景な暗い部屋に藁が敷かれている。俺は藁の上に思いっきり尻餅をついた。奥には古いランタンと壊れかけの机、そしてバケツが用意されていた。
まさか、バケツで用を足せということなのか。ああ、最悪だ。そんな事になるのなら、王様に逆らわなければ良かった。後悔先になんとやら、だな。
「じゃあな、無能」
兵士が牢屋に鍵を掛け、素早い足取りでその場に去って行った。