リヴァイアサン討伐 3
「ヴェロキ、………あの爆発って何?」
隣のクロノが問い掛ける。指示を出したヴェロキは、この現象の原因をよく理解している。
「あれは水蒸気爆発だ。」
「すいじょうきばくはつ?」
反対側のティタノは、理解出来ていない様だった。クロノも、よく分からない様だ。
これは別に、珍しい事ではない。
この世界は、魔法や能力が発達した代わりに、科学や物理が発展しなかったからだ。
液体の水は、熱を加える事で蒸発し、気体の水蒸気となる。その際、体積も増大するが、その体積は液体の約千七百倍。
蒸発する際の体積の差が瞬間的に現れる為、気化する時には爆発現象が出る。
それが、水蒸気爆発である。
しかし、これを一から説明している時間は無い。だからヴェロキは、
「ティタノの水を、クロノの炎槍で爆発させたんだよ。」
と、毎回簡単に説明する。
「シロント!リヴァイアサンの首を持ち帰るぞ!!」
「………お、おう!」
遠くのシロントが、少し歯切れ悪く答えた。
「リヴァイアサン、討伐を完了しました。」
クロノが事務的に、任務完了の報告をした。
普通なら誰もがその報告を、嘘だと言うだろう。しかし、後ろにいるシロントが背負っている、獰猛なリヴァイアサンの頭を見てしまえば、嘘だとは誰も言えなくなってしまう。
「う、うむ。………ご苦労だった。」
ドロース国王は、何とか労いの言葉を言った。
「では、報酬の金貨五十枚をお願いします。」
「なっ!?」
報酬は金貨五十枚と、確かにドロース国王は言った。今更、報酬をすっぽかすつもりなのだろうか。
この世界の通貨は金貨・銀貨・銅貨・鉄貨・石貨の五種類。
石貨一枚は約十円、鉄貨は約百円、銅貨は約千円、銀貨は約一万円、そして金貨は約十万円の取引がされる。
科学同様、数学もそこまで普及していない為、一円単位は最初から計算されず、最少額は十円からとなっている。
つまり、金貨五十枚は日本円で約五百万円である。
決して、安い報酬ではない。
「そ、そんな報酬は払えぬわ!!」
やはりドロース国王は、報酬の件を誤魔化す様だ。
「そうは言いましても、確かに報酬は金貨五十………」
「第一!そんな金額の報酬を出すと言った覚えも無いわ!!」
するとクロノは、後ろにいたヴェロキに目配せをした。ヴェロキは心得たかの様に、ドロース国王の前に出た。
「いえ、確かに報酬は金貨五十枚を払うと申して下りました。」
「言う訳が無かろう!そこまで言うなら、証拠があるのだろうな!?」
その時ヴェロキは、懐から鉄製の箱を取り出した。地球での知識がある者ならば、それは録音機だと気付くだろう。
ヴェロキは勿論知っている。それ所か、この録音機の製作者はヴェロキ本人なのだ。
その録音機の再生ボタンを押す。
『お前達が冒険者か?』
『はい、冒険者パーティーのファントム・ナイトです。』
『フン、成人したばかりの者まで冒険者と言うのか。ならば、このドロース王国に面する海に住まう、リヴァイアサンを討伐せよ。報酬は金貨五十枚を払ってやろう。』
カチッと、停止ボタンを押すヴェロキ。
「これは、クロノが他ならぬ、貴方に謁見した際の会話です。」
ドロース国王の顔は、青冷めていた。
「これでもまだ、報酬の件を誤魔化すつもりですか?」
「うっ………。」
最早、言い逃れは出来ない。すると、
「わ、私を侮辱したな!?お前達、この愚かな罪人をこの場で処刑せよ!!」
途端に、周りの兵が槍を付き出した。
「皆、戦闘よ。」
クロノが冷静に言い放つと、ファントム・ナイトのメンバー全員の目の色が変わった。
「ヴェロキは私の後ろにいて。」
「すまない、頼む。」
「私達に刃を向けたのよ。………加減無しで、暴れましょう。」
「おう!!」
「うん!!」
何故か王城で、戦闘が始まった。