リヴァイアサン討伐 1
それから八年の歳月が経ち、彼等は成人した。そして、彼等は冒険者パーティー「ファントム・ナイト」としてシュラを旅立った。
この世界の冒険者のパーティーの任務は、基本訪れた国から依頼される。
しかし、彼等が最初に訪れた国・ドロース王国は、非常に意地の悪い国だった。冒険者パーティーに対して絶対的に不可能な任務を、一方的に押し付けるからだ。
彼等四人の最初の任務は、「海洋の魔物 リヴァイアサン」の討伐だった。
この任務は一冒険者パーティーどころか、国の軍隊全てが向かっても不可能な任務の一つだ。大抵のパーティーなら、肩を落としてドロース王国を出ている。しかし、彼等「ファントム・ナイト」は違った。
「何だ、リヴァイアサンの討伐か?」
「そうなの、何でこの程度の任務を私達に依頼するのかな?」
「まぁ、小手調べって事だろ。」
「何かつまんないねぇ~。」
この反応に、国の重鎮は驚いていた。
成人になったばかりの四人が、この絶望的な任務を小手調べと言っているからだ。中には、身の程知らずと思っている者もいた。結果、誰も「ファントム・ナイト」に声を掛けられない中、彼等はスタスタと、リヴァイアサンが出ると言う海へ向かった。彼等にとって周りの雰囲気は、正直どうでもいいと思っていた。
「この辺りだね。」
リーダーのクロノを先頭に、四人は海岸に着く。辺りには、同じ様にリヴァイアサン討伐の依頼をされた冒険者が、五組いた。強敵なリヴァイアサンが中々現れず、途方に暮れている様だった。
「ヴェロキ、リヴァイアサンはどの辺りにいるの?」
「ちょっと待ってろ。」
ヴェロキは、海面の動きをじっと見た。海面の微妙な動き、それによる光の反射具合、風の向きから海中のリヴァイアサンの位置を察知した。
「………分かった。沖へ約三・五キロ、海面から約八キロの地点にいるはずだ。」
「周りに生物はいるの?」
「………いや、いない。ここ等一帯はリヴァイアサンの縄張りなのかな?何もいなかった。」
「ティタノ、出来る?」
「そんな狭い範囲、簡単だよ。」
ティタノは海面に手を触れた。その瞬間、海が凍り付いた。
「「「「「!?」」」」」
他の冒険者達は、口をあんぐり開けて固まった。当然だろう。目の前の海が、一瞬にして南極になってしまう程の大魔法なのだから。すると、
「グルアアアァァッ!!」
獰猛な雄叫びと共に、空が急に暗く曇りだし、嵐になった。そして巨大な氷がひび割れて、リヴァイアサンが現れた。全長三十メートルはあるだろうか。そんな巨体が、海面から飛び出してきた。
「あら?凍り切ってなかった。」
「流石、海洋の魔物だな。ティタノの氷撃に無傷か。」
シロントは白い歯を剥き出して笑った。冒険者達が身震いする程の獰猛な笑み。子供だったら、絶対泣き出して逃げるだろう。
「ヴェロキ、今はどの辺だ?」
リヴァイアサンは一度飛び出した後、再び海に潜ってしまった。ヴェロキは冷静に、リヴァイアサンの現在地とその先の行動を予測した。
「恐らく、南へ八百メートル先にもう一度飛び出すね。」
「了解!」
シロントは凍った海の上を走り出した。走りながら背から抜く武器は『ハルバード』。抜いた途端、ハルバードの刃が鈍色に輝いた。
そして、シロントが向かう先にリヴァイアサンが飛び出した。
「喰らえええっ!!!」
リヴァイアサン以上に飛び上がったシロントは、その巨大な頭に向けて、ハルバードを振り降ろした。
「グアアアアッ!!」
激しい火花を散らして、リヴァイアサンは氷の海に落ちた。爆弾の様な衝撃波が押し寄せ、陸地を揺るがす。
「うーん、駄目か。」
「シロントの一撃でも仕留めきれないの?」
クロノは少し、心配そうな声をする。しかし、
「まぁ、大丈夫だろ。」
「何で?」
「俺達は、ファントム・ナイトだから。」
「くそっ………逃げられたか。」
リヴァイアサンが凍った海の中に逃げ、シロントは舌打ちをした。そのまま氷上に降り立ち、声を上げる。
「ヴェロキ!次はどの辺りだ!」
「………そこから南西の四百五十メートル地点だ!」
「って事は、あそこか!」
シロントは氷上をまた、蹴り付けた。