ファントム・ナイトの結成
彼等の生まれ故郷・シュラ。東に位置する、小さな町だ。その近くにある高山地帯・エルフェスが、シュラの町に住む、後のファントム・ナイトのメンバー達の訓練場だった。
その一帯は、昔から魔物が異常な程出没する。
近くのギルシャナ王国から派遣された、魔物狩り専門のパーティーや軍隊が、毎年少なからずエルフェスで消息不明になっていた。それほどにまで危険極まりない場所で、彼等は訓練を続けていた。
エルフェスにある荒野。もはや、人が出入りすることが全く無い為に、その荒野には名前が無い。そこにちらほらと立っている岩山の一つが、砂煙を上げて粉砕された。
「うん、………まずまず、といったところかな。」
粉砕された岩山は、原形どころか痕跡すら無くなっていた。少なくとも、五メートルはあった岩山が、僅か十歳のシロントの素手の一撃で。
その横で、
「じゃあシロント、これも粉砕して?」
同じく十歳のティタノが、高さ十五メートルはあるそこそこの大きさの氷山を一瞬で作り出し、
「そ~れっ!」
シロントに投げ付けた。
「えっ!?ちょ、ちょっと待………。」
慌てて尻餅を着くシロントの脇から、
「クロノ、高さ十五メートルの一.三トンの氷山だ。あと六秒で地面に衝突。炎槍で迎撃出来る。」
ヴェロキが冷静に情報を分析・対処法をクロノに伝える。
「分かったわ。」
彼女は右手の五指から小火球を作り、腕を振った。小火球が指から離れた途端、小火球は細長い槍に変形した。氷山に着弾した時、炎槍は爆発を起こして氷山を破壊した。
「やっぱ凄いねぇ。流石我等のリーダー、クロノだよ。」
「氷山投げ付けた本人が言う台詞かよ………。」
「ううん、本当に凄いのは、この指示を的確に出したヴェロキだよ。ありがと。」
「どういたしまして。」
命の危険があった後には、こんな雰囲気が漂っていた。
「でもさ、ティタノがリーダーって言うならサブリーダーは誰だ?」
ヴェロキが問い掛けると、
「それは勿論………。」
三人は一斉に一人を見た。
「「「ヴェロキだよ。」」」
「………え?」
「だって、ここに来るまでの魔物とかの位置を、察知出来るのってヴェロキだけだもん。」
「副官なら、冷静沈着な奴じゃないとな。」
「それに、リーダーってなっている私も頼りたい人が良いし、近くで支えてくれて欲しいもの。」
口々に理由を言う。………しかし、クロノの発言は誤解を招きかねない。
「ええっ、クロノってヴェロキのこと、好きなの!?」
「ああ、確かに似合ってるよな。」
「だよね、だよね!」
………やはりこうなる。
「えっ、ちょっと待ってよ!?何でそうなるのよ!?」
「だって、『頼りたい人が良い』ってことは、つまりそう言うことだよね?」
「ち、違うから!?そう言う意味じゃないの!!」
慌てるクロノの肩を、シロントが手を乗せた。真剣な顔で
「クロノ。」
「な、何?」
「………いちゃつく時は、場所に気を付けろよ?」
「違うって言ってるでしょ!?」
涙目になっていたクロノを落ち着けて、ヴェロキは話を進めた。
「じゃあ、この四人のパーティー名を決めようぜ。」
「そうだな………。俺達だけのパーティーなんだからよ、何かこう、強そうな名前が良いよな!」
「え~、それならあたしは可愛いのが良いな~。クロノもそう思うよね?」
「う~ん、私はそんなに可愛い名前はちょっと………。」
「第一、俺達みたいな男も入ってるパーティーだぞ。可愛い名前は止めて欲しいぜ。」
「だって、あたし達だけだよ?良いじゃん別に~。」
「ヴェロキは何かある?」
シロントが問い掛ける。
「えっと………、これならどうかと思う名はあるが。」
「「「何何何!?」」」
三人が食い付いてくる。
「『ファントム・ナイト』ってのはどうだ?」
三人は目を輝かせた。相当気に入った様だった。
「ちなみに、意味は?」
「町の人達から聞いたんだけど、俺達が今いるこの山、誰も入らない所に俺達だけは入っている事から、俺達は超人みたいに見られてるらしい。それを、何か格好良く言えないかなって思った時、『ファントム』って出てきたんだよ。」
ファントムの本当の意味は、『亡霊』や『怪人』。しかし、この時のヴェロキはただ知らなかった。そして、今後も気付くことはなかった。
「じゃあ、『ナイト』は?」
「二つ意味があるんだ。『夜』と『騎士』。夜の様に、静かでも存在感のあるパーティーってことと、騎士の様に、堂々かつ紳士的ってこと。」
「「おおー!!」」
ティタノとシロントは歓声を挙げ、
「やっぱり凄いよ、ヴェロキって………。」
クロノは目を軽く潤ませていた。
こうしてパーティー名が決まった。一ヶ所、間違った意味が含まれていたが、修正はなかった………。