ゲイ・ボルグの初陣 2
この世界において、魔物は普通に存在する。その特性として『野生動物よりも力が強い』、『人間を捕食する』、『個体によって群れる事が少ない』等とある。しかし一般的には、魔物は遭遇する確率が低いものであり、詳細は完全に判明している訳では無い。
遭遇率が低い魔物の中でも特異な存在として挙げられるものが、『幻獣』と呼ばれる。
地方によってはこの種を、『神獣』とも呼び、恐れられている。特徴は、魔物を遥かに上回る『怪力』と、魔物には殆ど備わっていない『固有スキル』である。
例えば『世界蛇 ヨルムンガンド』、『巨鳥 ロック』、『干害竜 ヴリトラ』。そして『幻狼 フェンリル』。
フェンリルは体長七メートルの巨大な狼であるが、実はこれが最も小さい体長である。その顎は天と地にまで届き、神を食い殺すとされていた。そしてフェンリルの持つ固有スキルは、『急成長』である。
「………ま、さか………。」
「嘘………でしょ………。」
シロントとティタノは、完全に固まっている。その前でフェンリルは白く息を吐くと、毛を逆立てた。そして、ミロクの速度に匹敵する速度で肉薄した。
「くっ!」
フェンリル目掛けてクロノはゲイ・ボルグを構えた。
現実世界では使用経験の無いヴェロキでも、ゲイ・ボルグは問題無く扱える。
使用者としてインプットされた魔道具は、使用者の経験の有無に関わらずプロ並みに扱う事が出来る。
疾駆するフェンリルは、徐々にその体躯を大きくした。
(この『急成長』は、0.5秒に二メートル巨体化している。距離は約三十メートル。この速さから計算するに、到達するまで約二秒程だろう。となれば、十五メートルの巨体となる。)
この間、約0.1秒。
ヴェロキはゲイ・ボルグを構え、狙いを上顎に定めた。そして………。
「ふっ!!」
フェンリルを受け流した。
その瞬間、フェンリルは身体を反転し、砂埃を上げながらヴェロキに向き直った。その時、
「………汝、我に仇なす者か。」
「!?」
「フェンリルの………声!?」
フェンリルがその頭を上げる。
「問いに答えよ、愚かなる人族よ。」
フェンリルの問いに、ヴェロキが口を開いた。
「………そのつもりは無い。お前がこのまま手を引くと言うのなら、これ以上は手を出す気も無い。」
「その口振り、まるで汝の方が実力があるとでも言うかの様だ。」
「ああ、その通りだからな。」
「何?」
ヴェロキはゲイ・ボルグに魔力を回した。
「それを今、証明してやる。そこを動くなよ。」
「その言葉は信用出来んがな。」
「狙いは、お前の後ろのマンティコアだがな。」
「ほう?」
フェンリルが僅かに横目で見た刹那、その眼前を閃光が走った。そして、背後から走って来たマンティコアを口から串刺しにし、後ろの大木に突き刺さった。
「ふん。たかが一匹狩った程度で、実力など知れたもの。この程度で勝てると思うなよ。」
「その目は節穴か?一匹狩って実力を示した訳じゃ無ぇよ。よく見ろ。」
「ほう?………むっ!?」
絶句するのも納得である。何故なら、口から串刺しされたマンティコアの後ろには、更に四匹側面から貫かれていたのだから。
「計五匹、全て心臓を穿っている。これで証明出来ている筈だが?」
「………。」
五匹纏めて貫かれたマンティコアを前に、フェンリルは言葉を探していた。




