南の森へ急行
「タイシャクナークは、人族の時はどんな能力を持っているんだ?」
南の森に走っている最中、ヴェロキはミロクェルーンに問い掛けた。
「あの子は、三叉矛を武器にしているの。それに伴う能力は『風』。矛の斬撃や矛から造り出した竜巻とかで、敵を翻弄したり、殲滅させたりする事が得意なの。」
「そうか。クロノ、同種の能力で相殺には気を付けてくれ。」
「うん、分かった。」
能力同士の相殺は、最も気を付けなければならない現象の一つだ。
同種の能力では、威力の差が無ければ互いの魔法が衝突後に霧散する。また、火と水の様に、優位性のある能力は基本、その法則に乗っ取られる。単純に、火が水の数倍の威力を持っていない限り、この法則は如何なる局面でも適応される。
「タイシャー!何処ー!!」
ミロクが必死に叫ぶも、返事は聞こえない。すると、
「止まれ!」
ヴェロキが引き止めた。
「何!?急がなきゃいけないのに!!」
「違う、聞こえなかったのか?」
「何を!?」
「金属の音………剣戟だ。」
「「「「!?」」」」
慌てて四人が耳を澄ます。すると、僅かながら確かに金属が何かにぶつかる音と風音、そして大型の獣の様な咆哮が聞こえた。
「………ここから南西へニキロ地点だ。行こう、ミロ………。」
「タイシャーーー!!!」
言い終わる前には、ミロクは既に南西へ走って行った。
近づくにつれて、金属音が大きくなった。感覚をフルに活動させて、ヴェロキが状況を確認する。
「前方に人型一つ、これがタイシャクナークか。その周りにマンティコアが三体。他の魔物の影は無し。」
「了解よ。」
その瞬間、爆発音が響いて地面が蜘蛛の巣状にひび割れ、ミロクが数十メートル先に移動した。それを連続させて、とうとうミロクの姿が見えなくなった。
「これは、『強加速』。それを連続起動って、流石だな。」
強化型の上位能力、『強加速』。通常の『加速』よりも強度を高めたものではあるが、使いこなせる者は少ない。
何故なら、加速よりも繊細な操作が必要となるからだ。
通常の『加速』ならば、脚力を増強させて前に方向を指定させればいい。しかし『強加速』だと、話が変わってくる。
『強加速』は脚力増強と方向指定ともう一つ、体重増加をしなければならない。通常の体重で『強加速』を使うと、自身の脚力によって上に跳んでしまうからだ。
『加速』で体重増加をする必要がない理由は、重力で補う事が出来るから。しかし『加速』でさえも、ギリギリ重量と脚力が均衡を保つ事がやっとであり、その上位能力である『強加速』を使えば、この均衡が崩れてしまう。だからこそ、重力に体重を上乗せさせて、上向きに跳ばない様にしている。
それはつまり、自身の体重を正確に知った上で使う能力であると言う事。
大胆でありながら、繊細な操作が問われる能力、それが『強加速』である。それを連続起動させているのだ。その技術に、同じ強化型を使う者としてシロントが感嘆するのも、納得が出来る。
「………て、ミロク。あいつは………。」
「あ、あはは………、いなくなっちゃった。」
慌てて四人は、ミロクの後を追った。




