危機と希望
「龍王様!ご報告申し上げます!南の森にて、人喰い獅子・『マンティコア』が現れました!」
アグニムーンの勧めで一晩ディプロ城に泊まった翌日。朝食の席で、マンティコアの出没の知らせを聞いた。
「数は?」
「三体です。」
「む………。」
アグニムーンは黙り込んでしまった。
「………ヴェロキ。」
「何だ?」
「マンティコアってのは、どんな怪物だ?」
シロントに続いてクロノとティタノも、顔をヴェロキに向けた。
「マンティコアは、人の顔に獅子の胴体、蠍の尾と毒針を持つ怪物。大きさは獅子とほぼ同じ。尾の毒針を飛ばす攻撃をして、足は速い。人肉を好む事から『人喰い獅子』と言われているが、基本何でも襲って捕食する。群れれば、ワイバーンをも倒せるらしい。」
「………流石、参謀のヴェロキさんじゃな。博識じゃ。」
長机の対角に座っていた、ブラフムーンが賞賛する。
「ありがとうございます。」
礼を言うヴェロキは、顔色を変えずにミロクェルーンに向き直った。
「確か南の森は、ミロクの弟のタイシャクナークが統治してたよな。」
「ええ、そうよ。」
「マンティコアは群れだ。援軍はいると思うが?」
「………それもそうね。父上、私が出向いてもよろしいでしょうか?」
「お前一人でか?」
「う………。」
ミロクェルーンが黙り込む。マンティコアを侮っていない証拠だ。一体でも油断ならない怪物が三体。最強の種族である龍族と言えど、向こう見ずに行動すれば命を落とす可能性がある。すると、
「そこの『ファントム・ナイト』を連れて行けば、良いのではないのかの?」
ブラフムーンの助言で、ミロクェルーンとアグニムーンが四人を見た。
「しかし、マンティコアは油断なりません。私が行きましょうか?」
そう言ったのは、アグニムーンの隣に座るサラスレム。しかし、
「これ、サラス。『破壊龍』のお前さんが行ったら、南の森が更地になるじゃろうが。加減が出来るのかの?」
「そ、それは………。」
『破壊龍・サラスレム』。『災害龍・ブラフムーン』の義理の娘にあたり、ミロクェルーンの母。今でこそ優しい雰囲気であるが、六百年程前にはかなり暴れ回り、破壊した都市の数は三桁になる事から『破壊龍』と言う二つ名が付けられた。
「人型でも加減が出来ぬじゃろうに。適任はこの四人じゃと思うがの。お前さん達はどうかの?」
ブラフムーンが言い切る前に、四人はスッと立ち上がった。
「私達は、ミロクの友人です。微力ながら、お手伝いさせて頂きます。」
代表してクロノが答えた。
「そうか………。客人に頼むのは気が進まないが、やむを得ません。よろしくお願いします。」
同じく立ち上がって、アグニムーンが頭を下げた。
「………何が『微力』じゃか。」
「そうですね………。」
食事が終わり、食堂にはブラフムーンとサラスレムの二人が残った。彼らは、龍族の中でも珍しい『目』を持っている。
「お前さんの目なら、分かっておるじゃろう。………彼等の本当の力を。」
「正確には、『彼』の本当の力ですが………。私の目でも分かります。」
「やはり、この目には狂いが無かった。………ミロクェルーンは、とんでもない友人を手に入れたのぅ。」
「ええ、………彼は本当に、人族でしょうか?」
「種族には間違いない。能力が異常過ぎるのじゃよ。」
紅茶を一口啜る。ほっと一息吐くと、ブラフムーンは衝撃的な事を告げた。
「今の儂じゃ、到底敵いはしないのぅ。………五分と保つまい。」
「それは………。しかし、全盛期のお爺様なら………、」
「いや、変わりゃせんよ。………耐えられる時間が数秒伸びる程度じゃ。あの力の前じゃ、誰じゃろうと塵芥も同然。その能力が、あのパーティーで底上げされておる。」
「………それは、最強どころではありませんね。」
「もはや、『無敵』とも言えるじゃろう………。ミロクェルーン次第で、龍族の命運も関わるじゃろう。」
ガタンッと立ち上がり、前のめりになるサラスレム。その目は、驚愕の色に染まっていた。
「まさか………、『ファントム・ナイト』にミロクを入れるおつもりですか!?」
「一つの手と言うだけじゃ。」
「………確かに彼等は、信用の出来る者達です。しかし、それでも彼等は人族です!」
サラスレムがここまで過剰に反応する理由。それは、彼女の兄が人族に殺害されたからだ。
「サラス。お前さんが人族を嫌うのは分かっておる。兄上の仇と同族ならば、憎む気持ちもあるじゃろう。」
「ならば!」
「ミロクェルーンが彼等を此処に連れて来た理由は、何じゃったかの?」
「っ………。」
「そう。同族と言えど、その考えを憎み、嫌う者もいるのじゃよ。彼等はそんな人族じゃ。じゃが、その様に思うも、実際に行動する者は少数じゃよ。大抵は大きな権力に押し潰されるのじゃ。………彼等は、その逆境に打ち勝ち、異種族の儂等にも優しくしおる。そんな彼等を、兄上の仇の人族と同じにして良いのかの?」
「………そうでしたね、失礼しました。………彼等を人族と思わないで、親しめる様に努めさせて頂きます。」
「無理に気負わなくても良いじゃろう。楽になると良い。儂の様にな?」
「………そうですね。」
サラスレムの顔に、笑顔が浮かんだ。




