汎用型魔法と特化型魔法
ブラフムーンが説明していた通り、本来の魔法は過程を定義させている。その方が、臨機応変に形状や性質を変える事が出来るからだ。
例えば、クロノの炎槍は、生成した炎を凝縮させて、槍の形に変形させる『過程』がある。この過程の定義が曖昧だと、槍の形状を着弾まで保たせる事が出来ずに霧散してしまう。風の魔法でブーストさせる際には、余計に定義を明確にしなければならない。風と炎が必要以上に干渉し合い、発射と同時に火の粉を辺りに撒き散らす羽目になる。
ティタノの氷槍も、クロノ程では無いにしろ定義を意識している。『氷』と言う、元から形を持つ物は変形にはそれ程意識させる必要はないが、その強度や大きさ等には定義をより意識している。
シロントの『怪力』も、一種の『過程』を意識した魔法である。怪力は、あらゆる身体能力を一部、又は全て引き上げる能力であり、『強化型』では珍しい、全特性の能力である。この能力も、力加減や強化部位指定等、『過程』を明確に定義している。
この様に、有りとあらゆる魔法に『過程』定義は必要とされている。一方、例外的な魔法も存在する。
『ゲイ・ボルグ』は、この例外に分類される珍しい魔法を付与された、所謂魔道具だ。
付与された魔法は『狙いを付けた対象の心臓を穿つ』と言う、『結果』を定義した魔法。言うなれば、『結果のみを定義させ、強引に成果を出させる魔法』である。
魔道具である『ゲイ・ボルグ』は、『対象の心臓を穿つまで追い続ける』、『不規則な軌道を描かせながら心臓を穿つ』と言う、過程が曖昧である故の特徴を強みにしている。。『ゲイ・ボルグ』に関して言えば、過程を定義させない方が強力になるのである。
その他にも『人払いの結界』や、ブラフムーンがヴェロキ達に放った『不可視斬撃』も、結果を定義させた魔法である。
『不可視斬撃』は、過程において斬撃を生成して飛ばす『汎用型』の『透明斬撃』と似て非なる魔法である。この魔法は、『斬撃を対象に当てる』と言う結果を定義させている。つまり、対象を視認しなくても斬撃を当てる事が可能になる。要は、斬撃を作り出して飛ばすのか、対象物に斬撃を直接当てるかの違いである。
ここで、「何故、結果を定義させた魔法なのに、クロノの『熱風剛盾』で防ぐ事が出来たのか」と言う疑問が出るだろう。
種を明かせば、単純な話である。ブラフムーンは、正確には四人の三十センチメートル手前の空間に斬撃を当てたからだ。それでも斬撃は斬撃。斬り付けられた空間は、その斬撃を今度は空気に伝わって、『空気斬撃』に変化する。クロノはこの『空気斬撃』を防いだのである。
「そう言う事だったのか………。」
「全ての魔法が、『過程』を定義させているものだって思ってたけど、必ずしもそうとは限らないんだ………。」
「それを知っていたなんて………流石『災害龍』ね。」
「あの伝説上の竜が実在しているとはね………。」
『災害龍・ブラフムーン』。この世界で人族が文明を持ち、国を形成している頃、度々現れては国を一夜にして更地にしてきたと言う伝説上の竜。勇者『ガイザル』が討伐して、世界に平和をもたらしたと言う結末が語り継がれているが、実際にはそんな勇者は存在しなかった。その頃に現ディプロ城城主のアグニムーンが生まれたから、父親として暴れ回らなくなっただけらしい。
「………仮にブラフムーンさんが暴れ出して、俺達勝てるか?」
「正直、怪しい。………恐らく五分五分になるな。」
「ヴェロキがいるなら、勝てるんじゃ無いの?」
「そう言う単純な話じゃない。ブラフムーンさんが仮に襲い掛かるとしたら、まず俺を狙う筈だし。」
「『ラプラス』があるから、て事ね?」
「ああ、向こうは名称はともかく、実際の内容も理解しているだろうし。」
「『ゲイ・ボルグ』を、俺が使えば良いんじゃ無ぇのか?」
「それこそ難しい。………実際に持って貰った方が良いだろうな。」
そう言ってヴェロキは、時空間収納から『ゲイ・ボルグ』を片手で出して、シロントに手渡した。
直後、
「なっ!?」
片手で受け取ったシロントは、その重量に耐えられず、慌てて両手で持ち直した。それでも持ち上げられず、『ゲイ・ボルグ』は地面に張り付いた様に動かなかった。
「ど、どう言う事だよ………。能力使っても持ち上がらねぇ………。」
「それは、シロントは『ゲイ・ボルグ』の所有者じゃないからだ。」
「あ、そうか。この槍は魔道具だからね?」
「流石ティタノ。そう、この槍に所有者と認められて無いものが持とうとすると、あり得ない程に重くなるんだ。」
納得顔のティタノとクロノ。シロントは………、
「そ………それは分かった。………だから、早く退かしてくれ。………指が潰れそう。」
「あっ、すまん!」
『ゲイ・ボルグ』に指を潰され掛けていた。




