~少年期 暴力基盤part1~
俺が18歳の後半。
僅か数ヶ月の結婚生活にピリオドを打ち、またいい加減な生活に戻った頃、鮮明な記憶に残る事件がおきた。
何気にその時一緒にいた一つ上のノリが転がす13クラウンの横に俺は乗ってた。土浦駅付近。
ノリが普通に「矢内くんのアパート行く?暇だし」
俺は深く考えず頷いた。
これがいけなかった。
阿見町の矢内のアパートにクラウンを走らせるノリ。
アパートの駐車場には派手なVIPカー。
ナンパスポット『Excel』の常連 梶谷の10セルシオ。
嫌な予感がしたが、アパートに入る。
と。其処には
矢内 梶谷 神野の3人が鋭い目線を投げ掛けてきた。
油断した!
ノリを含めた4人は、ハナから俺を呼び出す簡単な絵図を書きやがった。
俺は勿論丸腰だ。
軽い気持ちで、反目のバカの巣にノコノコきてしまった。
あとは場面で何とかするしかない。
矢内が口火を切る。
「テメェ、俺らん事ゴタゴタ言ってるらしいな」
言ってる!おもいっきりこの4バカの悪口!
敵意剥き出しの矢内に梶谷が続く。
「生きて帰れねぇかんな」
その瞬間、俺の中の癇癪玉が爆発する!
「あ?4人居っと思って調子乗んな!コルァ」
すかさず梶谷の顔面を蹴り飛ばした!
「上等だぁ!このクソガキャー」
あっという間に転がされ、ボコボコの血だるまにされた。
その後、ノリのクラウンのトランクに積まれ、土浦市内のTSUTAYAにボロゾーキンのように捨てられた。
・・・・・・・・。
自分を呪う。
普段から用心深くしてた。
明らかに俺の痛恨ミス。
半チク野郎共に半チクな罠に嵌められた。
すぐケジメを取らなければノイローゼになる。
TSUTAYAの前のセブンイレブンから、同級生のミヤに電話する。
「ヤられた。道具持ってTSUTAYA前のセブンまで」
要点だけ話してミヤを呼び出す。
40分後ミヤ到着。
直ぐ矢内のアパートに。
ヤツらも間抜けだ。
それとも俺がナメられてんのか?
梶谷の自慢のセルシオとノリのクラウンが何事もなかったかのように駐車場にある。
興奮状態でアドレナリンが出ていて幸い痛みは感じない。
俺は梶谷の自慢のセルシオの屋根に登り、子供用の赤バットでフロントガラスを叩き割る!つもりが1発では割れず2発3発!やっとヒビが入る!
さすがにセルシオは丈夫だ!
次はボディをベコベコにしてく!
やっぱセルシオは丈夫!
通常の大衆車の3倍は頑丈だ!
フルスイングで子供用バットを叩きつける!
ミヤはアパートのインターフォンを鬼連打!
俺は容赦なく梶谷セルシオをぶち壊してく。
セルシオを半壊させた頃、ようやく4バカが出て来て夢でも見てるようなマヌケヅラしてる。ミヤが
「梅やん、コイツらアンパンこいてら」
シンナーを吸ってやがった!
「死ね!コルァ」
躊躇わず殴り掛かる。
この前に俺はボコボコにされているが、人間とは不思議なモンで、極度の興奮状態になると、頭の中で勝手に脳内麻薬を精製する。
人体の謎だな。
俺のこの異常な暴力性。
基盤がある。
本編に話を戻す。
あれから、土浦市真鍋2丁目から新治郡出島村に新居を建て引っ越してきた梅屋家。
回りには何もなく、只のクソ田舎。
街灯もない。
家の前の道路は、車がやっと通れる位の狭い道。
勿論店もない。
しかし、俺も姉ちゃんも初めての新築一軒家だ。
スゴく嬉しく二段ベッドの上と下で今後について会議をした。
新しい学校に新しい友達。
俺が姉ちゃんに提案する。
「明日ちょっと学校見に行ったり、この辺探検してみようよ。その後 ばあちゃん家行ってさ」
能天気な事を言う俺に対し、姉ちゃんは
「お前もノンキだな。気づかないか?」
「え?何が?」
「この家は新築でいいが辺りの住民が変だ。不気味な目線を送ってくる」
姉ちゃんが呟く。
確かに。
原住民が移民を見るような視線。
敵意剥き出しの子供達の目。
「いいか?卓美。姉弟でしっかり守り合っていかなければ辛い目に会う。何があっても母上には言うな」
「うん」
一抹の不安を感じながら俺は眠りについた。
翌朝。
俺と姉ちゃんは2台のチャリに分乗し、学校まで行ってみた。
これが・・・・・・
物凄く遠い。
勿論小学生だからチャリ通学はできない。これから6年間この距離を歩かなきゃいけないのだ。
ウンザリし息も絶え絶えの俺に姉ちゃんは
「卓美、大丈夫か?すぐジュース買ってきてやる」
と、姉ちゃんはファンタのグレープを買ってくれた。
何故か民家の前に販売機があった事が幸いした。
そして母方のばあちゃん家に向かう。
これまた果てしなく遠く、道中、同じ小学生と出くわした。
怪奇な目線を俺達に飛ばし、罵声を浴びせてきた。
元来、気が小さい俺は震え上がった。
しかし姉ちゃんは
「卓美!しっかりしろ!相手にするな」
と、情けない俺に檄を飛ばし、果てしない田園地帯を走り抜けてった。
またまた情けない事に、ばあちゃん家に着いた時俺は満身創痍だった。
ばあちゃんに汗を拭いてもらい、飯を食べさせてもらって昼寝して起きた頃は辺りは薄暗かった。
ばあちゃんは子供二人で、街灯もない道を帰らせるのは危険と思ったのだろう。
大声で叔父さん(母の弟)を呼ぶ。
「年男ぉー!年男ぉー!ちっと来ぉー」
すると、子供目線からも分かるヤクザな風体のトシおじちゃんがのっそり現れた。
「おう!美穂(姉の名)卓美ぃ、オメェら来てたのか」
怖い顔に優しい笑顔を浮かべたトシおじちゃん登場である!
このトシおじちゃんは母の実弟で、本家の長男、家業の畜産農家や野菜や蓮や米の収穫の他、コカ・コーラにも勤務してて当時は物凄く羽振りがよく、ガレージにはベンツにBMWとちょっとヤバいオヤジだった。
しかも怖い事に、
・・・・・・
シスコンの領域に到達するほど母を慕っていた。
・・・・・・
「どうだ?卓美ぃ、俺の新しいベンツ カッケーだろ」
と、俺の頭をぐちゃぐちゃ撫でながら嬉しそうだ。
そう。
母から言わせれば、今の俺は当時のトシおじちゃんにソックリなんだそうだ。
ばあちゃんは、
「んな事、どーでもいーから。年男、子供達のチャリ軽トラに積んで送ってくれ」
「あいよ」
トシおじちゃんが俺達のチャリを軽トラに積もうとした時、姉ちゃんが
「まだ二人で帰れる。少し明るいし、チャリにライトもついてるから。トシおじちゃんも仕事忙しいだろ?アタシが母上に怒られる」
「そうけぇ?大丈夫かぁ~」
この時に運命が交差した。
そんなおおらかだった昭和の時代。
そしてまた二人でチャリを漕いで家路につく俺と姉ちゃん。
ばあちゃん家から俺ん家までは、坂道が多く、最も険しい坂道は『へいさんぼ』と呼ばれる曰く付きのうねった坂道で、昔は盗賊が出たと言われ、今では住宅地だが、当時は大人でも通るのを恐れた程だ。
帰り際にもばあちゃんに
「『へいさんぼ』は気をつけろ。一気にかけ上がれ」
と言われた。
俺は弱虫だから怖かった。
無言の姉ちゃんのチャリの後をピッタリついてく。
勿論、姉ちゃんだって怖かったんだ。
そして問題の『へいさんぼ』にさしかかった。
先には真っ暗に歪んだ坂道が見える。
「卓美、『へいさんぼ』だ。一気に全力で抜けてくぞ」
姉ちゃんの指令に従い、後に続き『死の坂』に突入する幼い二人。
立ち漕ぎ全開で抜けていく俺と姉ちゃん。
すると、
バサバサバサバサァ
と、後方から草藪を掻き分ける恐怖の音がした!
そこには、草色の作業着姿の1人の男!
手には長い竹竿のような棒を持っている!
その謎の男が大声で怒鳴る!
「クソガキー!待てコラー!殺してやるぅ」
と、喚き散らしながら追いかけてきた!
「卓美!逃げろぉ」
姉ちゃんが叫ぶ!
あまりの恐怖に俺は足がもつれチャリごと転倒した!
慌ててUターンして俺を庇う姉ちゃん!
すると男が手にしている長い棒が姉ちゃんに炸裂した!
鈍い音は今でも忘れない!
吹き飛ぶ姉ちゃんに男は容赦なく棒を振り下ろした!
姉ちゃんを守らなきゃ!
俺は男の左腕に飛び付いた!
甘い腐敗臭が鼻をつく!
そして男の左手の甲に噛みついた!
すると、
「このクソガキ!」
と、男は腰にぶら下げてた鎌で俺の顔面右を切り裂いた!
「ギャアアアア」
急激に右顔面が熱くなった!
おびただしく流れる血液!
すると一台の軽トラが突っ込んできた!
トシおじちゃんである!
二人の帰りが遅いと母から電話があったようだ。
慌てて草藪に逃げる男!
助かった・・・・
「待てコラァ、おい!卓美!美穂!大丈夫か」
俺は安堵と恐怖と痛みで失神した。
この時俺6歳。
深い恐怖がキズと共に心に刻まれた。
今でも俺の右眉にはその時の深いキズが残っている。
母は血塗れの幼い俺を見て絶望したらしい。
襲撃した男の名は『仁公』と呼ばれる覚醒剤中毒の男。
今だったら大ニュースでテレビ局からヘリまで飛んで来るだろうが、こんな残忍な事件が日常的に起こっていたのが昭和だ。勿論警察も動く訳がない。
病院でいい加減な手当てを受けて終了。
だからキズが残ってしまった。
警察は「そんな時間に子供だけで夜道を歩かせたアンタらが悪いんだろう」
で終わり。
母は勿論納得が行かなかった。ばあちゃんも。姉ちゃんも。
親父は警察との同意見。
最も怒りを募らせていたのが・・・・
トシおじちゃんだ!
次回、トシおじちゃんVS仁公!
殺しのトシ坊が火を吹く!