【私メリーさん、今回っているの】
『くるくるなの』
「いや、ルンバの上に座って何やってるんですかメリーさん」
『目の前にゆっくり滑ってきたからなんか座ってみたくなったの』
「あと、目の前なのにわざわざ携帯で電話してきた理由は。今は普通に会話してるのに」
『最初に【私メリーさん】とつけるセリフは必ず携帯を通す主義なの。メリーさんとしての矜持なの』
「よく分かりませんが怪異のこだわりというやつですか」
『うゅ、また回っているの……これがホントのメリーゴーr……』
「あ、ルンバが隣の部屋に行ってしまった」
【私メリーさん、今部屋の隅と向き合っているの】
「ああ、隅はゴミが溜まりやすいからねえ…」
【私メリーさん、今無視されているの】
「僕の飼い猫相手になにムキになっているんですか」
『だって私怪異なの。しゃべる人形なの。そんなのが目の前にいるのにこんなにぐっすり眠られたらプライドが傷つくの』
「まあうちの猫はかなりマイペースだからねえ」
『猫ってこういうものに反応するものじゃないの?よく虚空を見つめていたりとか…。眼中にないってことなの?むかつくの。ちょっとは起きて反応するの』
「ああこらこら、気持ちよく寝てるんだから、そんなに揺らしたら…」
ぽむっ…
『ふにゃあ……ぷにってしたの。退治されてしまったの……(ぱたん)』
「おおう伝家の宝刀顔面肉球パンチ。退魔属性も備えていたか」
【私メリーさん、今アイデンティティに悩んでいるの】
「え?いやいや、電話しながら相手に近づいて行って、相手の背後に出現する、インパクト十分な立派な怪異ですよね?」
『そっちじゃなくて、人形としてのアイデンティティなの』
「はあ…一応僕人形師なのですが、そんな僕の目から見ても実に立派でかわいらしい人形にしか見えませんが」
『(か、かわいらしい…///)…こほん、だって私の驚かし方は人形である必要がないの。実際この間一緒に見た昔のホラー映画で、私スイカのお化けになってたの。正直これに関してもいろいろ言いたいけど、でも要は私の怪異スタイルは人形じゃなくても成立しちゃうってことなの』
「(ああ、学校の怪〇ね。やっぱり気にしてたんだあのシーン。)まあ確かに人形じゃない設定のメリーさんの話もちらほら見る気がしますね」
『そうなの!!由々しき事態なの!!なので手始めとして、人形でできるホラー要素といえば…』
「おお、首反転!エクソシ〇ト!!」
『…なんかあまり怖がってるように見えないの』
「いや、さっきも言ったように僕人形師ですし、結構見慣れてますからそういうの」
『むう、相手が悪すぎるの。じゃあこれもやっぱり効かないの?』かぽっ
「ああ…頭を外して持ち上げて…見慣れてるのもあるとはいえ、なんか『んちゃ!』とか言いそうなかんじで…」
『んちゃ?…何かの怪異の鳴き声なの?』
「まさか怪異相手にジェネレーションギャップを感じる時が来るとは思いませんでした」
「しかし…どうみてもメリーさんはとてもかわいらしい人形ですし、いくら背後ワープを使ったところで、怖がらない人もいるのでは?」
『(ま、またかわいらしいって…///)…むふん、実をいうと、相手を怖がらせるための顔を怪異パワーで作ることができたりするの。ホラーフェイスというやつなの』
「へえ、僕は一度もみたことありませんが。というか今やれば…」
『だ、だって…これはシャレにならないくらい怖いの。鏡で見て自分で失神しかけたくらいなの。そんな表情お仕事中以外でしたくないの』
「へへえ、そう言われるとますます気になりますねえ。人形作りの参考にもなりそうですし」
『うう…絶対見せないの。見せられないの』
【私メリーさん、今お友達と一緒にいるの】
《はいどーもっ!メリーちゃんのお友達、下半身消失系少女、テケテケちゃんでーすっ》テケッ☆
「あのちょっと、怪異の印象大崩壊レベルなのが来ましたよ!」
《いや、ホラーモードの時はちゃんと怪異っぽいよっ。でも四六時中あんな状態でいられるわけないじゃん。プライベートはこんなもんだってえ》
『そもそもテケちゃんは、ホラーモードのときは下からいろいろと出ているからプライベートの時じゃないと会いたくないの』
《もうメリーちゃんキッツいなあ…でも正直私もあんまりホラーモードにはなりたくないけどね。自分の内容物なんて自分でも見たくないし…難儀な怪異になっちゃったなあホント》
「なんかあまり聞いてはいけない業界の裏話聞かされている気分になってきました」
《しっかしメリーちゃん、最近妙に綺麗になってるなあと思ったら、この人の手によって綺麗にしてもらってたんだね。隅に置けないのお、うりうり》
『うう、やめるの。つつかないの。あと隅ならルンバと一緒に置かれたの』
「まあ人形師ですしね。メリーさんのような可憐な人形の綺麗さを保たせるのは当然です」
『///』
《おうおう、なんかいい感じやのー。下半身とともに青春もなくしたテケテケさんにはまぶしいぜぃ》
「そういえば…人形師の修行の一環として、義手や義足も作ったことがあるのですが、倉庫に下半身部分を補えそうな義肢があったような…」
《え、え、嘘…あるの?》
「ただ本業ではないのでさすがに実用にはむかない代物だとは思いますが」
《「人間」に対してはでしょ?怪異な私に対しては使える可能性あるじゃん!ねえ、見せて見せて!!》
「はいはい、分かりましたよ」
ドタドタバタバタテケテケ・・・
『むうぅ……なの』
《お…おおおぉぉ…久々の…久々の二本足で歩いている感覚……》
「いやはや、うまくいくものですね。正直着けたところでどうやって動かすのかとか悩んでたんですが」
《そこは、怪異パワーで!!》テケッ!
『むむむぅ……なの』
「いや、キリッ、みたいなかんじでその謎効果音使われても。しかしやはり動きがぎこちない感じですね。本業じゃないにしても、やはりまだ修行不足ということですか…」
《私としてはこれでも十分すぎるくらいだようう…もう、真面目キャラなんだからあ…ありがとう…》
『ぷくぅ~~なの』
《…あー、メリーちゃんすっかり膨れちゃってる。メリーケン粉みたいに、なんちゃって》
「いや、もうギャグはいいですって。足がなくとも地に足はつけてくださいよ」
《おう、君もやるねえ…ってあ、メリーちゃんすっかりいじけちゃった。やきもち焼きなのは変わらないねえ》
「ああ、隅で寝ていた僕の飼い猫いじくりだしちゃって…あ、また肉球パンチもらって倒れてる…」
《…ねえ、この状況下でも普通に寝てる君の猫さすがにおかしくない?あれも何かの怪異なんじゃ?化け猫とか》
「え?いやいやまさ…(あれ、そういえば開けたふすま閉めていったことがあったような…)」
……にゃおおん……
【私メリーさん、今メリメリしてるの】
「!?、メリーさん!??」
『首回転&分離系少女、メリーさんなの』メリッ☆
《あーもう、悪かったからメリーちゃん。あとその謎効果音はどうかと思うよ》
『むう、私の名前は効果音に使えないの。でもなにか専用音ほしくなってきたの。ぽぽぽ…とか』
《ああ、あの人のは耳に残るよね。実はあれも名前にちなんで、尺八を逆から吹いた音だとかなんとか》
「へぇ」(あ、やっぱあの怪異とも知り合いなのか)
『……メェ~』
《おおう、メリーさん違い》
「正確にはそのメリーさんは飼い主のほうですけどね。ちなみにあの歌は実際の出来事をモチーフにしており、またエジソンがはじめて蓄音機に録音した曲らしいですね」
『めぇ』《てけぇ》
「……さて、今日の仕事はこれくらいで終わり、と。あの二人は仲直りして今は別室で一緒にホラー映画見てるらしいけど……ん?ホラー映画ってまさか…」
《えええええ~これが私ぃぃぃぃ~!?なんで猿のような謎生物になってるのよう!!》
『やっぱり納得いかないの。なんでスイカなの。電話要素と全く結びつかないの』
「やっぱり」
………
【私、メリーさん………拾って…来ちゃった、の…】
「!、これは…人形…」
『ご、ゴミ捨て場で見つけたの。ど、どうしても見捨てられなかった、の…』
(これは…ただ捨てられただけじゃない。明らかに故意に傷つけた箇所がある。しかも多数…たとえ持ち主に何か事情があったにしても、これはさすがに…)
『「念」を感じたから多分このままだと私のような存在になるかもなの。仲間が増えるチャンスかもしれないけど、でもこのままだと明らかに暴走するタイプの怪異になるの。だから…』
「分かりました。僕の全力をもってこの子を修復します。人形師としても、これを見て見ぬふりはできない…!」
『…ぁ、ありがとう、なの…』
……私は……メリーさん……
【私メリーさん、今あの持ち主のハウスの前にいるの】
「そして僕もいます。すいませんねえメリーさん、仕事についていきたいとか頼んじゃって」
『あの子の件でなにかお礼したいと言ったら、こんなことお願いされるとは思わなかったの』
「いや人形師としてもあの子の件は憤懣遣る方無いものがありましてね。持ち主の顛末を直接知りたくなりまして…ただの人間が関わるのはまずいですかねやっぱり」
『前代未聞ではあるかもだけど、特に問題はないの…さて、そろそろなの。とびきりの恐怖体験をプレゼントするの』
「それでは…」
『お仕事開始なの』
【私メリーさん、今〇〇駅にいるの】
(今持ち主が受け取っているであろう連絡が、僕のスマホにも届いてるな…メリーさんの恐怖ポイントは「近づいてくる」って所もあるから、ある程度遠くから始めなくては駄目ってか)
【私メリーさん、今▲▲のコンビニの前にいるの】
(ちなみになぜわざわざ一度持ち主の家の前まで来たかというと、下準備として周辺地理を調査していたからだったり。連絡ポイントとして適切な場所はどこか、どういう順番にすれば近づいているのが分かりやすいか、とか…。)
【私メリーさん、今□□公園の前にいるの】
(ちなみに僕は、途中で持ち主が逃走を図り始めたらメリーさんに連絡を入れる役を承っている。あの子の残した『念』のおかげで持ち主の居場所は分かるらしいが、逃げられたら連絡ポイントもその都度変えなきゃいけないから、と…逃走経路の予想やそれに応じた連絡ポイントまで決めてたり、何というか…都市伝説の舞台裏では怪異も色々やっているんだなあ…いいのかなこんなこと知っちゃって)
【私メリーさん、今あなたの家の前にいるの】
(お、メリーさんが目の前にワープしてきた…なんかこっちちらちら見てるし、外見は怖さの欠片も無いんだけどなあ。まあ背後ワープと、例のホラーフェイスとやらを使うんだろうけど)
【私メリーさん、今あなたの部屋の前にいるの】
(あ、次でラスト…なんかどったんばったんしてる音は聞こえたけど、逃走はできなかったか…持ち主さんよ、あなたがなぜ人形にあんなことをしたのか、もしかしたら同情できる理由があるかもしれないけど…今はメリーさんの裁きを受けるんだな)
【私メリーさん………】
(おっ)
【今、あなたの『上』にいるの】
(上!!?)
ぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ……………………
『お仕事完了、なの』
「お疲れ様ですメリーさん。しかし上って」
『あいつ背後を取られないようにと、部屋の隅に引っ込んでやがったの。あのルンバみたいに。向きは逆だけど』
「ああ、メリーさん対策取られたわけですか」
『都市伝説が有名になると対策も考案されちゃうから、こちらもまた色々とアプローチを変える必要があるの。いたちごっこなの』
(世知辛い…)
『そしてあいつの上でさかさまになってのぞき込んで、上を見上げたところでホラーフェイスぶちかましたの。とびきりのトラウマになったとおもうの。』
「おお、そりゃたしかに怖そう」
『ふふん、いい手ができたの。あの位置なら肉球パンチもとんでこないだろうし…』
「いやちょっと、うちの猫にもする気ですか」
『あと、ホラーフェイスに首一回転も加えたの』
「おお、人形要素追加ですね」
『「メェ~」も言ってみたの』
「あ、それは余計でしたね」
『「んちゃ」のほうがよかったの?』
「それはもっと駄目です」
「あ、メリーさん。膝の部分に擦り傷がありますよ!」
『ほえ?…あ、ほんとなの。逆さま体勢とった時に壁に擦っちゃたかもなの。でもこれくらい…』
「駄目ですよ。いくら恐怖を与えるための怪異だからといって普段汚い恰好をしている必要はないんでしょう?たとえ怪異といっても、人形は大切にされるべきなんですから…帰ったらちゃんと直しますよ」
『………はい、なの』
……私は……メリーさん……
本来は私もあの子がなるはずだったように、人間への念で怪異化した人形。私の原点は、元々は『負』の感情だった。
……そんな存在が、こんな感情を抱いてしまうのはおかしいのかもしれない。だけど、だけど…………
『…私、メリーさん……今、幸せなの』