言葉使い
亜莉亜、五歳です。
夕汰と出会ってから三年の歳月が立った。私と夕汰は五歳になり、現役幼稚園児の真っ最中だった。
「夕汰?幼稚園の支度は出来たかしら?」
「うん……大丈夫だよ。」
私の質問に答える夕汰はなぜか私を優しい眼差しで見つめていた。
「それじゃあ、一緒に行きましょう。」
私は夕汰と手を繋いで歩く。しばらく歩いていると同じクラスの阿季君が声をかけてきた。
「あら、阿季君。ごきげんよう。」
「お前さぁ、何でいつもそんな丁寧な言葉なんだよ。変だぞ。」
阿季君が私を見つめて言う。私はとりあえずニッコリと笑い、手を顎に添え首をかしげた。
「あら、そうかしら。私、普通のつもりなのだけれど。」
「変じゃないよ。これは亜莉亜ちゃんの個性だと思うし、丁寧なのはすごくいいことだと思う。」
……まさか夕汰に庇われるとは思わなかったわ。
すると阿季君は顔を真っ赤にして声をあらげた。
「なっ…お、お前に何が分かるんだよ! 友達ならもう少しくだけた言い方しろよっ!」
……くだけたね。シュン様とリグラーのときみたいな?
私が心を許してくだけた口調で話すのはシュン様とリグラーしかいなかった。特に他の貴族と話すときは「私」じゃなくて「わたくし」と言うように気をつけていた。
……シュン様とリグラーに会いたいな。
私は言葉使いにも奮闘しなきゃいけないのか……と思い、ため息をついた。
その日、私は夢を見た。アルアティアにいる夢だ。朝起こったことについて考えているとリグラーがやってきた。
「アスカ様、どうかしたのですか。」
「リグラー……あのね、今日こんなことがあったの……」
私が話し始めるとシュン様もやってきた。私は今日の朝起こったことを全部話した。話し出すと止まらなかった。
「そっか。アスカは今までの癖で話したんだな」
「丁寧に話すことの何がいけないのですか?」
リグラーが首を傾げる。私は阿季くんに言われたことを説明した。だが、リグラーはいまいち分かっていない様子だ。そりゃそうだろう。日本とアルカティアは違うのだから……。
……だけど、どちらにしろ私から歩み寄らないといけないのよね。
目が覚めた。気がつくと涙が溢れてきた。わかってる。わかってるのに……。夢だとわかってるのに私はまた二人に頼ってしまうんだ。二人にはもう逢えないのに……。
「どうかしたの。」
後ろを振り向くと夕汰が立っていた。
……そうだわ。今日、夕汰が泊まりに来てたんだわ。
「よくわからないけど亜莉亜ちゃんが悲しいとき、僕傍にいるよ。」
また涙が溢れてきた。
「……夕汰ありがとね。」
私の中で何かが溶けた気がした。張りつめた糸が緩んだように……そして心の中の氷が春の日差しを感じて溶けていくように。
……もう元の世界には戻れない。私はきっと、どこか心の片隅で元の世界に戻れると思っていたのだろう。
夕汰がいてくれて良かった。
大分頑張りました。