最高の一時
側仕えが私を起こしに来る。寝惚け眼擦って体を起こす。顔や体を拭いて昨日考えた服に着替える。お化粧も大人っぽく、シュン様に釣り合うような格好で。着替え終わった私は自室を出た。先に起きていたシュン様は窓際でお茶をしており、本を読んでいた。シュン様の服装は紺色の服にシュン様のお家の紋章がついてるマントに、綺麗なブローチ。いつ見てもかっこいい。
「シュン様、おはよう」
「アリア、おはよう」
顔をあげたいシュン様・軽く驚いた顔をしていた。何かあったのかしら? 少し不安になりながらも私はシュン様の元へと行く。
「アリア、綺麗だね」
優しく微笑みながら私に綺麗と言ってくれる。ちゃんと考えて良かったなぁ。ニコニコする私。シュン様もかっこいいわ、そう言って私は隣に座る。軽く朝食を2人でとることにした。
今日の朝食はサンドイッチにサラダ、ヨーグルトと紅茶だ。やっぱりアルカティアのご飯はいつ食べても美味しい。
日本での生活に慣れたと思ったが、やはりアルカティアでの生活はでかい。日本で、生活してる方が長いというのに私はまだアルカティアに執着していたのだとやっと気づいた。だが、それもそう。大切な人との生活、結婚を約束された未来。平和だった世界。そうもいかなかったが。
朝食を食べ終わった私たちはバルコニーに出る。シュン様が私に手を差し出す。私はその手を受け取る。
「アリア、行こうか。」
「えぇ、今日すごい楽しみにしてたの。」
私が微笑んで言うとシュン様は小さく魔法を紡ぐ。空を飛ぶ魔法だ。この魔法はひと握りのものしか使えない。シュン様はいつの間にこの魔法を覚えたのだろうか。いつも私が空に、連れ出す役目だったのに。
「綺麗ね、私たちの街は。」
「あぁ、本当に。」
「空から見てみる景色は本当に綺麗で心を救われるようだわ」
風が私の髪を攫う。薄茶色の私の髪。昔はこの髪が好きじゃなかった。貴族なのに、パッとしない色。遺伝とか関係なく、とにかく嫌いだった。でも、シュン様が誉めてくれた。絹糸のようなサラサラの髪、キラキラと輝いているようだ。その一言で救われた。私はその一言で私の髪が大好きになったのだ。
「ねぇ、シュン様。私あそこ行きたいわ。私たちの思い出の場所」
「懐かしいね……久しぶりに行こう」
またシュン様が小さく魔法を紡ぐ。瞬間移動の魔法だ。魔法が私たちの思い出の場所へ運ぶ。懐かしい地へ。大好きなシュン様と私の思い出の場所。
そこは少し街から離れた丘の上にある。丘の上には、花畑があるのだ。よく子供の頃抜け出して2人できたものだ。帰った後によくリグラーに怒られたなぁ。それもまたいい思い出。
私たち花畑の中へ入り、座る。プチプチ、とお花を摘み私はある物を作る。花かんむりだ。シュン様はそんな私の様子をニコニコとみている。懐かしい。
「できたわ……」
そういう私はそっとシュン様の頭の上に乗せる。
「アリア……大事な、話があるんだ。」
シュン様が真面目な顔をして私の手を握る。少し怖い。私、なにかしたのかしら……。怖いけれど、私は頷く。大好きなシュン様が大事な話と言ってるのだから。
「俺は、あの頃より老けているし、青春という青春も終わってて、アリアとは年齢もかなり離れている。それでもアリアを愛しているのも事実だ。こんな俺だけれど、アリアが学園を卒業したら、俺と、結婚してください。」
「………うぅっ」
涙が流れる。シュン様が、私をこんなに大事に思って、将来のことを考えてくれてたなんて。今は住む世界も、年齢も、全てが違う。本当に、本当に、私の好きな人がこの人でよかった。
「私も、貴方がいい。シュン様がいるからこそ、私の存在意義があるの。年齢なんて関係ない。シュン様だからこそ愛してるの。」
涙を流しながら笑顔がこぼれる。嬉しくて仕方ないのだ。そんな私を見たシュン様が1粒の涙を流す。そしてそっと私の指に何かをはめた。手を見ると、指輪だった。これは多分、一生の思い出になるだろう。




