幸せな1週間
私の歩調に合わせてくれるリグラー。彼女は一体誰だったのか。いや、まぁ子爵とは言ってはいたが。あの反応は失礼だろう。でも私が聞くのもなんだしなんだかもやもやする。
「彼女は、僕のフィアンセだったんです。親が決めた人でした」
ぽつりとつぶやくリグラー。フィアンセだったんだ。だが、彼女の馴れ馴れしさから納得出来る。本来あのように馴れ馴れしく話す貴族令嬢はいないもの。まぁ、過去の知識と変わっているかもしれないが。
「けど僕はアリア様の元へ行きたく、正直彼女に関心もなく、相手すらしてあげれなかったです。こんな僕に時間を費やさせるなんて勿体ないなと思って婚約破棄しました」
「そうなんだ……」
私は他になんて言えば良いのか分からなくて反応しかできなかった。
リグラーにフィアンセがいた。なんだか複雑な気分になる。私とリグラーはただの主と護衛騎士。それだけの関係のはずなのに。なぜモヤモヤするのだろうか。
下を向いて歩く私。本来下を向いて歩くなんてご法度。でも顔を見られたくなかった。今の私の顔は絶対に醜い。
「アリア様、着きました」
リグラーの一言ではっと顔を上げる私。そこには懐かしい雰囲気の建物があった。前世の私のお家。華美過ぎず、清潔なお城。面影があって大好きな私のお家。1歩、また1歩と足を運ぶ。私たちは中へはいる。
「おかえり、アリア」
聞こえたのは低く落ち着いた声。自然と涙が溢れてきた。会いたくて会いたくてやまなかった人。世界で1倍最愛の人。年齢とか、顔とか関係ない。一生そばにいて愛し続けると誓い合った人。
「シュン様……た、だいま」
1つ、また1つと、涙が零れ落ちる。思わずシュン様を抱きしめる。シュン様も私を抱きしめる。
「会いたかった……」
「俺もだよ、アリア」
私はシュン様のエスコートで自室へと向かう。今回、シュン様は私達がいる1週間滞在するらしい。そのために執務も1週間分先に終わらせてきたということだ。シュン様の部屋は私の隣だが、私は一生にいたかったので私の部屋に来てもらうことにした。本来結婚もしてない男女が一緒の部屋にいるのはアウトだが、それは割愛ということで……。
お母様とお父様は今パーティに呼ばれて城にはいないらしい。戻ってくるのは明後日ということだ。すぐに会えないのは寂しいが、シュン様とゆっくりできるのは嬉しい。これもお母様たちの配慮なのかもしれない。
とりあえず私は荷物をほどき、身辺整理をし始める。夕方にはご飯の準備が終わるのでそれまでには終わらせるつもりだ。私はゆっくりキャリーケースの中身を出し始めた。




