英語の授業
お待たせ致しました。物凄く眠い。
「ねぇ、亜莉亜ちゃん。一時間目って英語だよね?」
肩をトントン、と叩かれて振り返ると、夕汰が聞いてきた。私は咄嗟に頭の中に時間割りを浮かべる。
「……えぇ、そうね」
「英語ってあのリグラー先生が教えるんだろ?」
いつの間にか側にいた阿季君がニカッと笑って言う。それにしてもリグラーが英語を教えるってどういうこと?
確かにリグラーは英語を話せる。私が小4の頃、リグラーと私は一緒に英語の勉強をした。今後、何があっても対応出来るように、と。だから、ある程度は話せる。
だが、美術部の顧問と言っていたから、美術の先生かと思っていた。
気が付くと、時間はあっという間に過ぎ、もう少しで一時間目のチャイムが鳴ろうとしていた。
その時、リグラーがやって来た。今日の朝、出掛けて行った時と同じスーツ姿だった。
やはり、元伯爵だけであってスーツ姿はさまになっている。
キンコーンカーンコーン
「授業を始めます。号令をお願いします」
チャイムの音と共にリグラーが声を掛ける。私は号令をしながらどんな授業になるんだろう、と楽しみにしていた。
「今日この時間は私への質問コーナーとします。何か質問はありますか?」
この時間は質問? 私は英語の授業を出来ないことに少し残念に思っていたが、それと同時に少しワクワクしてきた。
……だけどリグラーとはアスカ時代も合わせて合計二十二年くらいいるからある程度分かるのよね……。
すると、一人の男子が手を挙げた。リグラーはその子を指名する。
「リグラー先生は彼女いますか~?」
リグラーの顔が少しひきつったのは気のせいだろうか。あっ、と思った時にはもう元伯爵らしく微笑んでいた。
「……残念ですが、私には愛する女性はいません」
瞬間、女子達が黄色い歓声を上げた。ただ一人、私だけを除いて。
私は頬杖を突いて、窓の方を見る。だがやはり、リグラーは顔が良いので女子生徒にモテるらしい。まぁ、私にはそんなことどうでも良いけど。
「亜莉亜さ……ん。窓ばっかり見ていて楽しいですか?」
すぐ隣でリグラーの声がした。ハッとして横を見ると、リグラーがニコニコと微笑んでいた。だが目は笑っていない。
うわぁ……不味い状況になった。
私は冷や汗をかく。さて、どう答えたものか。きっと、今の私はひきつった笑みを浮かべているだろう。
というか物凄く今更だけどさっき『亜莉亜様』って言いかけたよね。
「罰として授業後、私の手伝いをして頂きます」
「……分かりました」
私が返事をすると、リグラーはうんと頷いて教卓の方へ戻った。
よって、リグラーの質問コーナーは再開された。身長何㎝だの何人だの体重幾つだのどうでも良いわよ。全部知ってるわ。身長179.8㎝で体重65㎏だよ、リグラーは。何人ってシンドローム人に決まってるわよ。
私がこうやって質問に突込みをしているうちに授業は終わってしまった。
リグラーが授業の終わりを告げると、私は急いでリグラーの元へ行く。
「それでは行きましょうか」
……行くって何処に?
そんな疑問を持ちながら、リグラーの後を着いていく。こうして見ると、リグラーはかなり身長が高い。私は151㎝なのに……。身長差が凄い私に2㎝分けてほしいわ。
ふと、リグラーが止まった。背中越しに見るとそこは美術準備室だった。私達は準備室へ入る。
ガチャリ
後ろから鍵を掛ける音がしてまさか、と思いながら振り向くと、リグラーが後ろ手に鍵を掛けていた。
「えっと……なんで鍵を掛けたの?」
「え? だって人が来たら大変ですよ?」
あ、自覚ありなのね……。ええと、ごほん。でも次の英語って何をやるのかしら。だって今日の英語凄く楽しみにしていたのに、リグラーへの質問コーナーだったんだもの。
「それより亜莉亜様!!シュン様から手紙が来ましたよ!」
「えぇ!? それ本当!?」
私が勢いで聞くと、リグラーはポケットから手紙を出した。そして、それを私に渡してくれる。私は急いで手紙を開けて読み始めた。
『亜莉亜へ
亜莉亜、元気にしているか? 俺は現公爵として頑張っている。だからまだ迎えに行けそうに無い。本当に申し訳無いと思っている。本当にごめんな。
ところで亜莉亜は今中学一年だよな? 遅くなったけど入学おめでとう。入学祝いに手紙と一緒にネックレスを同封する。中学校生活、頑張れよ。
亜莉亜、これからもずっと愛している。
シュン・アラルド・ハーザンド・リカイル』
私は無言で手紙と一緒に同封されていたネックレスをつける。
シュン様、ありがとう。私も愛しているよ。これからもずっと。私はずっと待っているよ。シュン様が迎えに来るまで。
「リグラー……ありがとね」
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