イジメ
「ねぇ、亜莉亜ちゃんって最近調子に乗ってるよね。」
下校時間と呼ばれるこの時間帯に、誰かが『伊崎亜莉亜』のことを話している。
「ねー! なんか阿季君と夕汰君を独り占めしてさ。二人は皆のモノなのに。」
三人いるうちの一人の少女がムスッとした表情で言っている。
「ねぇ……少し懲らしめない?」
ニヤニヤして言う前髪の長い少女。その子の一言に頷く二人の少女。三人は『伊崎亜莉亜』を懲らしめる為に作戦を立てていたのだった………。
◇◇◇◇◇
ジリリ……リリ……
「う……ん……」
目覚ましが鳴っている音がする。重い瞼を抉じ開けて、急いで目覚まし時計を止める。私は朝食を取るため、一階へと降りていく。
「亜莉亜、おはよう」
「ふぁぁぁ……お兄ちゃん、おはよう」
兄に挨拶をして、私は自分の席へ座る。どうやらお父さんは仕事に行ったらしい。
「亜莉亜、おはよう。朝食が出来たわよ。はい、どうぞ」
「お母さん、おはよう。ありがと……いただきます。」
ニュースを見ながら私は朝食を取る。……そう言えば、リグラーはどうしたのだろうか。
「亜莉亜様、おはようございます。」
「リグラー、おは……」
後ろから声を掛けられて、私は挨拶をしようとしたが、リグラーの姿を見て驚いてしまった。何故なら、リグラーはスーツを着ていたから。驚いてしまって、思わず言葉が止まってしまった。
「え……どうしたの、それ?」
「実は、就職しようかと思いまして。」
少し微笑みながら頬を掻くリグラーはきっと色んな女性にモテるだろう。ただでさえ、ヨーロッパ風の顔立ちで人目を引くと言うのに。……まぁ、リグラーももう二十三歳だ。二十三歳だと日本ならそろそろ働く人も多いだろう。
リグラーも私の側を離れてしまう……。少し寂しいけれど、応援しなければ。
「……そっか。応援してるよ。頑張って!!」
「亜莉亜様……ありがとうございます。」
リグラーはそう言って私の横にひざまづいた。そして、私の手の甲にキスを落とす。
「リグラー……」
「亜莉亜様……私は例え仕事を始めても貴女の側にいますから。」
リグラーの顔は真剣そのものだった。だから私は元侯爵令嬢らしく微笑んで言ったんだ。
「ありがとう、リグラー」
と。すると、リグラーも微笑み返してくれた。
◇◇◇◇◇
「皆、おはよう」
教室の中へ入り、挨拶をするが、なんか変な雰囲気だ。私が挨拶をすると、皆一斉にこちらを向いたが、誰も挨拶を返そうとはしなかった。私は思わず、夕汰と顔を合わせながら首を傾げる。
少し気になるが、私はいつも通り席に着いた。
「ねぇ……あれでしょ。亜莉亜ちゃんって…………」
何かがおかしい。皆影で私のことをぼそぼそと言っている。一体何があったのだろうか。
「亜莉亜っ!! お前一体何をしたんだ!?」
「阿季君、おはよう。……何のことかしら?」
取り敢えず、挨拶をする。そして、質問すると阿季君はコイツアホだろ、というような顔をした。だから何の話よ。
「何って……お前いじめられてるだろ。」
「……それ、どういうこと?」
夕汰が阿季君を真っ直ぐ見つめて言う。……というか、怒ってる?
「お前ら、見てないのか……?」
私達は顔を見合わせる。
「掲示板に亜莉亜の悪口が書かれていたぞ」




