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あなたの街のあいてむやさん  作者: LuckGun
6/8

持つ者持たざる者

レオンスは釣り銭用の小銭を揃えたり、在庫の帳簿と私の動きに目を配りながら発注伝票に色々書き込んでいる。

そんな監視の目の元、時折教えを請いながら商品の補充作業は続く。難しさは無いのだが、取り扱い商品数の多さに驚かざるを得ない。

毒を中和する解毒剤、痛覚を遮断する鎮痛薬、アイテム服用時に内臓を荒らさない用にする胃腸薬などちょっとした薬屋でもある。あくまでも薬の素人が取り扱える範囲の物ばかりだ。

劇薬指定されている薬は、正規の薬屋でないと取り扱えない。それこそ胃腸薬と劇薬の魔化学反応で腹が爆発したり、穴という穴から汚物を垂れ流したりとその道にはその道のプロでしか扱えないものがあるのだ。

小型のナイフ、弓矢の矢、カンテラ用オイル、調合用火薬、獣除けの匂い袋などの消耗品や、アミュレットやタリスマンなど、一部の魔獣に効果てき面な装飾品類、小麦やら雑穀やらを得体の知れない栄養価の高い何かと混ぜた一口で腹を満たせる携帯食料などもあるし、日持ちのする硬い青りんごや朝食でも見かけた堅焼きパンなどの食料もある。収穫物を入れる布袋や小瓶、カゴなんてものもある。

ちょっとしたピクニック気分で冒険する冒険者は居ないだろうが、最低限の装備を揃えるならここで足りると思われる。

あれやこれやとてんやわんやしている内に、扉の向こうから人の話し声が聞こえてきた。いよいよ初仕事だ。私は、初仕事に気合を入れる為太ももの横を掌でパンパンと力強く叩くと、私と時を見計らってか遠くの方で鐘の音がゴォォンゴォォンゴォォンと三回、耳に残響を与えながらけたたましく鳴り響く。


「ん。大鐘楼が鳴ったら商売開始だ」


時を告げる大鐘楼。お役人が特殊な計器を使い太陽のある一定の角度を指し示した時その鐘は鳴る。これは一部の商売に不公平さが出ない様に定められた法である。朝の鐘が鳴り、夕方の鐘までの間は自由に商売ができるという。そういえば昨日はその夕方の鐘を聞いていない。何故かとふと思い返した瞬間、忘れようとしていたはずの衝撃しかないオネエの顔を思い出してしまい私はげんなりした。どうやらあの店は夜間の営業(ショウタイム)が主であり周囲の影響を考えて防音がしっかりと施されていたのだ。オネエは悪い人ではないのだが、朝からあの中身が脂しかない揚げ物の様な濃厚さは胃もたれする。

勝手に思い出し憂鬱している私を他所にレオンスは前を横切ってのそのそと入口の扉を開錠する。


「…っしゃい…」

「レオンスさん、相変わらず奥さんと違って接客ダメっすねぇ。挨拶は重要っすよ?」


いきなりレオンス駄目出ししながら入ってきた外ハネした髪型の軽装の女冒険者は、商品を物色する前に「あっれー?何この()!かわいーっ!」と無駄に有り余る元気と共に私を物色し始めた。うぜえ。

内心、ちょっとイラつきながらも薄ら笑顔を作りながら「しゃーせー」と語尾だけ挨拶で店員らしからぬお出迎えをする。冒険者ってのはみんなこんなもの(バカっぽい)なのだろうか。


「…っしゃい…」

「レオンスさん、相変わらず奥さんと違って接客ダメっすねぇ。挨拶は重要っすよ?」


いきなりレオンス駄目出ししながら入ってきた外ハネした髪型の軽装の女冒険者は、商品を物色する前に「あっれー?何この()!かわいーっ!」と無駄に有り余る元気と共に私を物色し始めた。うぜえ。

内心、ちょっとイラつきながらも薄ら笑顔を作りながら「しゃーせー」と語尾だけ挨拶で店員らしからぬお出迎えをする。冒険者ってのはみんなこんなもの(バカっぽい)なのだろうか………あれ?

私の目の前に似た様な軽装の女冒険者が右と左に存在している。何だこれは!?


「えっ、はぁ!?おんなじ顔が二つ?!!はぁっ!?」

「「あたふたしてる姿もかわいーっす!!」」


右と左から元気の有り余る同じ声がダブって聞こえる。右目と左目に全く同じ姿形の人間が映り込み、私は混乱した。これが巷で聞く有名な過労死一歩手前なのだろう。意気込んで飛び込んだ新世界だったが、やっぱり社会復帰は時期尚早だったのだ。やはり日陰の道を歩む者には、毎日水平線から陽が徐々に登り沈む様にきちんとした段階を踏まえて社会復帰すべきだったのだ。


「ん?キミ、双子見た事無いっすか?」


右が不思議そうにこちらを見ている。


「まあ、双子って割と珍しいっすもんねー」


左がうんうんと頷いてこちらを見ている。


「そういうアタシ達も双子って出会った事無いっすねー」「無いねー」


右が驚いた表情を見せ、左が小さく微笑んだ。


「「で、キミは?名前何て言うんっすか?」」


右左から期待の眼差しをぶつけられる。何だこの生まれたての赤ん坊の様な無垢で純粋なキラ☆キラ感は…失って久しい感情に私は、知識にはあるにはあったが生まれて初めて見た双子にもう既に辟易としていた。それよりも私と同等の背格好なのに、なんでこんなに豊かなる双丘があるのか…常軌を逸している。生と死が同居する冒険者にとってその大荷物は邪魔で仕方なかろうて、双子で四つあるならば、すっぱりと削ぎ落として私に二つシェアリングしてくれよ。辟易通り越して無性に腹立たしく、無性に泣きたくなってきた。


「「あっ、名前を尋ねる時は自分からっすよね!」」


またハモった。たぶん本心なのだろう。あれ、社会のルールもマナーもちょっと理解できてるっぽいから案外良いヤツなのかもしれない。いや、あの邪魔な物体ぶら下げている余裕は明らかに私を乳下している。


「ビッツ=フロップス「と」シャノン=フロップスっす!」

「はぁ。ビッツ=フロップスさんとシャノン=()()()()()()()さんね。はいどうも。ミリアですっす」

「あ、や…ち、違うっす!フロップスっす!…あっ、フロップス…っ!………です」


おお、なんたることや!すーすー姉妹のどっちかの勢いが落ちたっす。やはり持つ者と持たざる者で生じる(劣等感)は圧倒的なもので、そう易々と許されるものではない。生まれながらにして罪を負った者にはそれ相応の罰があるのだ。私の(無い)胸のつっかえがすぅっと取れた気がした。

レオンスは、私の(勝手な)心の葛藤を他所に割り込む様に複数の商品をまとめられた包みを二つ分用意して双子に差し出した。空気という物を読む力がないのか、それとも妙な窮地に立たされたシャノンへ助け舟を渡したのか。


「フロ姉妹、いつものでいいのか?用意は出来てるぞ」

「あ、はいっす!シャノン、シャノンお会計っす」

「は、はいッs…はい…です…」


私の手によって口癖を封印されて絶賛混乱中なのが、右の口元にホクロのあるシャノン。対して若干のお姉さん|的言動をしている左目の泣きボクロがあるのがビッツの様だ。レオンスの言う所の()()()()があるという事は中々の常連客なのだろう。これからここで働いていく先、この客(デカチチ)と何度も出会う事になる。その度に(自分で勝手に生成した)無意味な憤怒と絶望に打ちひしがれるのであろう。その度にシャノンをストレス解消の為にいじってやろう。そうだ、そうしよう。

シャノンは、わたわたと慌てながら腰元のバッグから財布を取り出してレオンスの提示した額をカウンターの上に差し出した。レオンスはカウンター上に散らばった貨幣を整理して数え始めた。金貨と銀貨を振り分け一枚ずつ人差し指で数えていく。

会計をじっと眺めるビッツに対してシャノンは、誰が見ても解る位に頬を赤く染めて俯いている。どうやら人に「~っす」とかいう語尾を指摘された事が無いのだろうか。うーむ…ちょっと悪い事をした。反省。だが、その丸い緩衝材は要らないだろう。さっさと切り捨ててこちらに寄越すが良い。

レオンスは支払われた額を確認すると、釣り銭箱から差額分の青銅貨をシャノンに返し、ひとまとめにされた二つの包み(いつもの)をビッツに手渡した。金貨を使用したという事はそれなりに高いものが複数店含まれているであろう。何せ私はこのヤオヨロズヤの商品とその金額、正しい使用法や詳細な効能効果を把握していないからだ。聞きかじりと書籍で知り得た知識で叩き出したあくまでも暫定的な答え。


「「じゃあ、また来るっすね!」」

「ああ…らっしゃい」


双子は、ほぼ同じ動作で今購入したばかりの商品を腰元の鞄に仕舞い込みながら元気よく店から飛び出して行った。シャノンだけが私に向けて後ろめたそうな目をしていたのが少々気になるが。

何にせよ双子の嵐が通り過ぎたかと思えば、知らぬ間に黒いローブに身に纏ったひょろ長い人物が立ちすくんで品定めしている。レオンスが双子に返事した後に何故出迎えの挨拶をしたのかが理解できた。

が、あまりにも突然すぎる事に思わず音にならない悲鳴を上げた私に、ひょろ長いのがこっちを振り向く。黒いローブの中は上から下まで黒いぴったりとした服装、鼻から口元まで黒い布で覆われている。髪はぼさぼさだが不思議と整っているように思える。肌は青白くとても健康的とは思えず、切れ長で瞳孔が蛇のような瞳をもっており、総合的に病人が医者の目を掻い潜って色々間違って徘徊した先にこの店までやって来た様な印象を受ける。双子のフロップス姉妹が陽の者ならば、この人物は間違いなく陰の者(私側の人間)


「…」

「あっ」


ひょろ長は、こっちをじっと見つめる。蛇が獲物を捕らえる様に集中した視線に背筋に悪寒が走り、気圧された私は身体のバランスを崩し、大きく後ろにのけ反って倒れ始めた。もう姿勢を立て直せないと、自然と全身が受け身を取ろうとしている。


「おねえちゃん。だいじょうぶ?」


おぅ。なんだこれは。腹の奥底が疼くあどけない少年の様な声。後ろに倒れ込んで少なくとも尻餅を搗くはずだった臀部に痛みは無く、体が宙にぶらんとぶら下がる。私の腕は少し体温の低い手の平に掴まれ、私の腰はそのひょろ長い腕を回されている。蛇のような瞳は瞼を閉じて、優しく笑んでいる。


「え…アッハイ」


ひょろ長は私を自身で立てる体勢に戻してくれると、手を離してぺこんと丁寧にお辞儀をした。


「ぼく、ビート。ビート=P=ミニッツ!よろしくね!おねえちゃん!」

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