父と母と私と私の生きる道
昨晩ホコリ除けに掛けた白い布を丁寧に取り払っていく。雑に扱うと…ガラス瓶入りのポーション同士が当たって割れたり欠けたりする可能性があると今さっき怒られた所だ。悲しい。辞めたい。
何でも、ポーションの瓶は繰り返し使うリターナブル瓶らしく、洗浄魔法キュキュキュットと除菌魔法メッキンアルコルを使って再びポーションを作って瓶詰めする業者に納品されるらしい。
この世には万能な能力である魔法が存在している事は違いないのだが、根本的に破壊をすることを目的とした魔法が多く、ガラスを作る点では高火力の炎を生み出し、冷却用の水を生み出したり、鞴で風を送るなどざっくりとした事には使えるが、ガラスの瓶を形成したり、整えたりは難しい。
一部の魔法使いはそれら形成や調整を可能としてはいるが、細かい作業を必要とする魔法は、大雑把に力を放つ魔法と違い相当な神経をすり減らす(二人羽織で一日中生活するような感じ)ので大量生産の物には向いておらず、高級な調度品などの一品物においてはその真価を発揮する。
そもそも魔法使い自体が中々貴重な人材であり、世界の人口の全員魔法の才能が有れど、魔法の基本中の基本、火炎魔法の初級であるチャッカーマンを体得するだけでそこからごっそり半分に減る。一部は属性の相性によって火炎魔法以外なら行けるという人間もいる事にはいるが、まあそれでもごっそり半分に減る。
そこからレベルアップした応用魔法や属性を混ぜた複合魔法なんてのもあるが、それもまた一握り。そこから枝分かれした神の身業でもある回復魔法なんて実用レベルに至っている人間なんて両手の指いるかいないか。…事実魔法使いはそれだけ希少なのである。
そもそも私はスタートラインにすら立ててないんですけどね。はーつら。
けれども、戦闘にブイブイ言わせていた魔法使いも、引退したり別の道を歩もうとしても、上記の様な精密な制御ができなければ居住区に被害を与えかねないと魔法を禁じられる事がある。魔法一筋で魔法しか能がない人間が魔法を禁じられた時ダメ人間の烙印を押されウィニート(wise+neet)と呼ばれてある意味で忌み嫌われている。希少でありながら時として厄介なのが魔法なのである。
それでも魔法使いは花形である。強い。すごい。かっこいい。の三拍子が揃った誰もが憧れるのである。
だから世界で唯一魔法を教える公立機関、王立魔法学院の競争倍率は毎年毎年エグい倍率を叩き出しており、一部では高額で裏口入学している貴族もいるとかいないとか。
最近では、民間ではみ出た志願者を受け入れる魔法養成所なるものも乱立している。金という対価を払えば、私みたく魔力抵抗が壊れていない限りは、誰でもそれなりの魔法使いになれるというものだが、実際には質の悪い魔法使いを乱雑製造しており少し問題にもなってはいる。が、お上はだんまりだ。
毎日どこからか大量に湧き出ては悪さをする魔物を倒すには、魔法の力は不可欠で不定形で痛覚を持たず、物理攻撃の衝撃を全て吸収するスライムの真核を砕くには何らかの魔法でゼリー状の肉体を崩壊させなければならない等、魔法使いが居ないと討伐なんて話にもならない現状が魔法養成所をのさばらしている原因でもある。
今頃本当だったら…炎を自在に使う魔女。通名を『フレアウィッチ』とでもなっている筈の私は、世にも珍しい魔力を取り込めても魔力を体の中で自在に動かせない体質のせいで、所詮フレアウィッチプロジェクト止まりとなっている。ぐだぐだと管を巻いて、一切の希望を持たせない世界を恨んでいた。両親も体質に関しては閉口していて、夢を諦めさせる代わりに私をトコトン甘やかした。悪夢を忘れる為には楽しい事で悪夢を塗り潰してしまえという両親なりの優しさが私をもっと駄目な人間に仕立て上げていた。悪夢を忘れる代わりに(真)人間性を失い悪魔へと堕ちた。
両親の優しさが辛かった。でも、どうすればいいか分からなかった。両親も私も。一家三人表層上は平然としていたが、三人とも一条の光も無い闇の中で溺れ藻掻き苦しんでいた。まだチャレンジ出来て失敗出来てたならば諦めがついていた…かどうかは分からないが、少なくともここまで落ちぶれる事は無かったのかもしれない。
だから、今回の両親の大決断には私は感謝している。
一生あのまま甘やかし続けて、両親が死ぬまで好きな事をしている自分を演じていれば良かったのだろう。両親が死んでしまったら、甘やかす存在がいなくなって自ら命を絶つのだろう。やっぱり両親が悪かったんじゃあないかって、呪いながら。絶望しながら。
両親は一切悪くない。こんなポンコツな身体を持ちながら魔法を使うことを切望した私が悪いのだ。責任転嫁を自ら進んで受け入れてくれた両親を一部のお偉方は悪と論じる事もあるのだろう。でも、両親には感謝しかない。雁字搦めで動き出せなかった愚娘に再び動き出す原動力を与えてくれたのだから!
「オイ!聞いてんのか穀潰し!」
「はひ…しゅびばせん…」
涙があふれてくる。
「三個駄目になったじゃねえか!よりにもよって一番高いロイヤルポーション割りやがって!」
ゴメン、やっぱ無理。お父さん、お母さん助けて。