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6話 側近の悩み

 

  「ブラッディ様」

  「どうしたの?リアちゃん?」

  「こんなこと言うのもあれですが……暇です」

  「本当に何言ってるの?!」


  現在、夜の11時。ここはブラッディの自室。修行を終え、暇にしてるところを魔王に見つかり事務の仕事をさせられている。ヴァンパイアは夜行性なのだ。

  内容は魔王軍の構成員の希望者リストの確認だ。魔王軍になるには魔王城に張られてある結界近くのポストに履歴書を投函し、面接を受けなければならない。ブラッディは数十枚ある履歴書の確認を任された。

  と言ってもほとんどの確率で採用されるのをブラッディは知っているので、流し見程度で済ましていた。


  「も、もしかして、魔王様の口癖が移っちゃったの?」

  「いや、普通に考えて幹部の側近ってやる事ないじゃないですか?ブラッディ様の側に居たっていざとなったら守るというシチュエーションもなければ、今もこうして仕事を一人で行っていますし」

  「た、たしかに……」

  「それに他の幹部の側近も同じこと考えてると思います。ていうか考えてます。3人で集まって食事する時に必ず『……仕事暇じゃない?』って話になりますもん」

  「そんなはっきり言っちゃう?!」


  このご時世、勇者が魔王城に攻めてこないので幹部の側近など居ても居ないようなものなのだ。今の幹部はとても優秀なため、仕事もスムーズにこなしてしまい側近の立場がないのだ。


  「じゃ、じゃあ!この履歴書半分見てくれない?!そしたら私ちょー助かるなぁ!」

  「は、はぁ……」


  リアは履歴書を手にし、手と黒目だけを動かし内容を確認していた。


  幹部に側近をつけたのは現魔王のご意向だ。

  もしもの事を想定してのことらしい。そして側近は幹部と同じ種族じゃなければならない。つまり、リアはヴァンパイアなのだ。理由として、『同じ種族の方がやりやすいでしょ?』とのこと。楽観的に見えるが合理的である。

  もし側近が違う種族、昼行性の種族ならば、今の時刻に昼行性の側近であれば集中して仕事に取り組めないからだ。


  (ま、そんなこと言ったってこんな簡単な仕事しかやんないけどねぇ……)


  リアは長い紅髪を後ろに結び、気を入れ替えて改めて仕事に取り組む。

  簡単な仕事であってもミスをしてしまっては意味がない、そう思ったからだ。


  「そういえば、リアって面接受けてここに来たの?」

  「は、はい、まぁ」

 

  唐突に話しかけられ、少し戸惑いながらも答えるリア。


  「どんな感じだった?緊張した?」

  「緊張したっていうよりは……ビックリしましたね」

  「え、ビックリ?」

  「はい、急に自宅に来ましたからね」

  「あ、あのお方ならやりかねないね……」


  魔王城に入るには結界を破壊するか、魔王に刻印をもらうかしてもらわない限り、魔王城には決して入れない。結界を無視し入ろうとすれば結界を超えた次の瞬間、結界の能力で焼き焦がされてしまう。もし、それから逃れられたとしても魔王の張った結界のため、魔王に感知させられる。

  そのため魔王が直々に出向くしかないのだ。他にもその人の家に訪ねることにより、生活風景が見ることができ、魔王城のどの仕事が適任か考えることができる1つの要素になるからだ。


  「ブラッディ様は違うんですか?」

  「うん、私は拾われたからね」

  「拾われた……?」

  「うん、そう拾われたの」


  ブラッディは俯きながらそう言う。

  (やば、今のは禁句(タブー)か?!)

  昔何があったのか側近であるリアには分からない。だからデリカシーの無い発言は注意しなければならない。


  「すみません、余計なこと聞いてしまい」

  「いいの!いいの!大したことじゃないから!」

  (だったら俯いて言わないでくださいよぉ!)

  「側近のリアには言っといた方が良いのかもしれないね」

  「え?」

  「私、元々人間なんだ」

  「……え?」

  「まだ14歳の頃だったかな、その時に住んでた村にヴァンパイアが襲って来てね、血吸われたら私もヴァンパイアになっちゃったの」

  (なんかぶっ飛んだ話が始まったんですけどぉ!!)

 

  リアは急な展開に驚きながらもおかしなことに気づく。


  「ヴァンパイアは人間の血を吸ってもその人間はヴァンパイアにならないですよね?」

  「本来は、ね。先代の魔王が何体かのヴァンパイアを実験体として、増殖型ヴァンパイアに改造したの」

  「それがブラッディ様の村に送り込まれた、ということですか?」

  「うん……」


  (うわ、凄い重いなぁ)


  ブラッディは過去を振り返りながら話を続ける。


  「ヴァンパイアになった私は当然村の人達に拒絶された、『出て行けこの悪魔』とか言われてね。まぁ、家族は私の事守ろうとしたんだけどね。今もたまにお忍びで会いに行ってるよ」

  「……」


  言葉を失ってしまうリア。人間がどういう種族なのかは知らない。が、これだけ聞くと自分達とは違うものは排除しようとする酷な種族のようにしか聞こえない。


  「行き場を失ってしまった。そう思った時に会ったの、魔王様と」

  「魔王様とですか?」

  「うん。『俺と一緒に来ないか?』って笑顔で言われたらついていくしかなかったよ」

  「そのような過去があったんですね」

 

  ブラッディの過去は惨憺たるもののはずがブラッディは微笑みながらこう言った。


  「確かに大変だった。けどこっちに来てから、魔王様に声をかけてもらったあの日から毎日が楽しくて仕方ないんだ!」

  「……!」


  今が楽しい、その気持ちがリアに届いた瞬間だった。


  「さて、とっとと終わらせよ!」

  「……はい」


  確かに幹部の側近は暇だ。あまりやり甲斐を感じられない仕事かもしれない。それでもこの方の側に居たい、そう思うリアであった。


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