待っていたぞ! 異世界転移!
ただ書きたかった、物語。
それはとある晴れた日のこと。
何処かで必ず見たことのあるトラック。勿論、居眠り運転且つ法定速度をぶっちぎっている。
対向車も、前を行く車もなく、幸運なことに暴走トラックは道路の白線の内側を真っ直ぐ進んでいる。
しかし、何時までも幸運は続くも訳もなく。
赤信号を眺めながら、ボーッと待っている男がいる。何処か草臥れたような雰囲気を持つその男、しかし一目で分かる、人目を惹く特徴を持つ。
痛いTシャツだ。
見ている方が痛みを訴えるほどに痛々しい、もっえもえな女の子がプリントされている。
キャルルーン、とでも表現するのが適するような振り付けに。現実では有り得ない体躯と顔立ちを持った美少女が愛嬌を振り撒いていた。
紛うことはない、レベルの高いオタク戦士である。付け加えるなら、不治の病として有名な厨二病の現患者である。救いと言えば、清潔な服装、細身であり、むしろ身体は引き締まっている。そしてその言動はいたってまとも。
布教する時以外は、何故かまともな人間に見える、しかし清潔感皆無の男である。
否、男であった。
予想もつくだろう、不幸にも暴走トラックは進路を変えた。どう足が動いたのか、アクセルは踏み込まれ、見事に下り坂。
その先には、交差点。そこには、周りから注意を向けられつつも、視線は逸らされている男がいる。
警察に通報するか、迷っている母娘もいる。酷い世の中だ。
そして、必然のように、不幸にも、トラックは。
吸い込まれるように、男へと突っ込んだ。
それは誰にとっての必然であり、不幸であったのか。
呆気ないほどに、男の肉体は死を迎える。
この事故で、死者は一人。負傷者はなし。トラック事故にしては、珍しい負傷者0だ。運転手すら無傷、破片は誰も傷付けることはなく、とある母娘が警察と救急車を呼ぶも、即死した男が助かるわけもなく、担当医師により死亡宣告がなされた。
遺族は生命保険と慰謝料によりウッハウハ。最期の親孝行となり。
加害者であるトラックの運送業を営む会社は、ブラックな業務内容が世間に公表され、後に倒産することになる。
そして、肉体が死に、解放された魂は。
世界ではない、神域へと運ばれた。
そうして、運ばれた男が見たものは。
この世のものとは思えない、絶世の美人。
見ただけで、感じただけ分かる。
それが女神だと。
そして女神は言う。
────貴方は選ばれました、と。
――――――――――――――――――――――――――
「貴方は選ばれました。貴方はこれより、私より祝福を受け、異世界にて勇者となりその世界を救ってください。貴方が元いた世界では、既に肉体が滅んでいるため戻ることは出来ません。異世界は貴方の世界のゲームのような、ステータス、スキル、魔物や亜人の存在する世界です。その世界において世界喰らいが発生し、勇者召喚が行われました。貴方は元の世界において、最も魂力が高いため、召喚の対象となり、死亡と共に異世界へと転移し、勇者となってもらいます。祝福と、異世界転移によるボーナスにより貴方はチートと呼ばれる力を得ることが出来ます。
さて、何か質問はありますか?」
まるで、定められたセリフを、息継ぎなく、抑揚もなく吐き出し終わり、女神は男へと質問を投げ掛けた。
男は、死ぬまでもそうであったように、今もボーッとしていた。
「驚くのも無理はありません。しかしこれは現実です。貴方は選ばれ、異世界転移し、勇者となる権利を得たのです。貴方ならば、成し遂げることが出来るでしょう。奴を倒すと言う偉業を成したとき、貴方には更なる祝福を授けましょう」
ようやく、男は起動する。
女神に、目を向ける。
「ここは神域。貴方のステータスを見ることが出来ます。ステータスは、念じることで、当人の最も見やすい、把握しやすい形で理解することが出来ます。ステータスについての質問も、召喚までの待ち時間である今、受け付けますよ」
そして、男は。
ここに来て初めての言葉を発する。
──────ああ、待っていた。この時を。
そして、行動を起こす。
神域にて構成された、魂を包み込む霊体を型となす躯。
男は、無造作に。
しかし、激烈に。
女神へと、右ストレートを撃ち抜いた!
女神の顔面にヒット! めがみはとまどっている!
「な、なにを!」
「よーく、俺のステータスを見るといい。今度は隠蔽無しでやってやる」
そして女神は権能を駆使し、男の情報を検索する。
そこには。
ステータス
藤巻 光=ヒカル フジマキ
レベル:over
HP:∞
MP:∞
攻撃力:over
防御力:over
機動力:over
魔力:over
運命値:因果破壊個体
スキル
<無限なる夢幻>
想像を形にするスキル。世界内のことであれば、想像の限り、全てを現実のものとする。そして想像とは無限である。
称号
<魔王討伐者>
<魔神殺し>
<運命破壊者>
<世界に反逆する者>
「な、なんという」
絶句する女神の首を掴み、持ち上げる。
そう、神域という世界において、男はただ無限であり、最強である。
しかし。
「ああ、呼んでくれて助かった。俺じゃあ、召喚されることは出来ても、別の世界に行く力はないからな」
あくまでも、世界内にしか効果を及ぼせない。
そのため。
「まぁ、呼ばせたんだがな。あえて、世界最大程度のエナジーに偽装したり、軽く肉体が死ぬように改造したり」
トラックなんぞ、当たった方が砕けるものを、死ねるようにした。
因みに、Tシャツは単なる趣味である。神域では、いつの間にか戦闘服:天下黒服へと変わっている。
それは真っ黒な、あらゆる光を吸収したかのような黒。
厨二という厨二を体現する、黒衣装束。つまり、痛いことに変わりはない。痛がる層が変わるだけだ。
「神にこんなことしてグッ」
喋るな、とばかりに首にかける握力を増していく。
「もう茶番は良いだろ? 俺が死んだトラックすら、テメーらが因果操って殺してる殺人者で、単なる誘拐犯。世界の敵たる魔王だのなんだのも、テメーらの用意した舞台装置。そして、異世界転移者はテメーらのゲーム盤の駒って訳だ」
そして喋ることの出来ない女神は睨み付けるのみ。念話系は封じている。
「なーに、俺はテメーらに復讐したいだけだ。きちんと前回、魔王殺したろ? 復讐するために、魔王の数億倍強い魔神やらなんやらもぶっ殺して力を奪った。お陰て魔王相手になめプで心折ったりしてたがな。そして、次は女神の力を奪う番だ」
それを聞いた女神は、感情を込めて睨み付ける。全ての感情を込めて。
転生を司る女神になにかあればどうなるか、そもそも前に転生させたのは私ではない。神になんてことをする。お前たちは所詮神のおもちゃだと。
「なに、転生システムはどーにでもできる。第一、神はみんな殺すから変わりはねぇ。それに人を勝手に誘拐して祭り上げて、ゲームが終わったらポイッ、なんてなぁ通じねぇよ。少なくとも、俺には、な。そして、今度はテメーらがおもちゃになる番でしかない。どうだ? おもちゃに、おもちゃ扱いされる気分は。いい気分だろ?」
そして、男は、力を完全に解放する。
震える女神に対し。
「じゃあな、また会うことは、ない」
首を、存在を砕き、全てを喰らう。
「おっ、なかなか大容量」
スキル<無限なる夢幻>が進化しました。
<無限故に無限である>
全てを終わらせる、始まり。
「おっと、ちゃんと後始末しなきゃな」
男は力を使い、召喚。
「御呼びですか、マスター」
「久し振りだな、めーこ。元気か」
「全てにおいて正常。しかし後でメンテナンスを希望します」
「ああ、幾らでもやってやる。俺はホムンクルスの主だからな。その前仕事頼むぞ。転生システム運営してくれ。これ、力な」
そして男は、かつての世界のホムンクルスに丸投げし、また、力を使う。
それは、新しいゲームの始まり。
神々を殺し、全てを解放する、終わりの始まり。
「さぁ、始めるか。お待ちかねの異世界転移を!」
かくして男は、転移する。
「行ってらっしゃいませ、マスター」
あらゆる世界へと、派手にその存在を告げながら。
────刮目せよ世界! 見さらせ神共! 俺がやってきたぞ!
俺たちの戦いはこれからだ!
藤巻光
強烈なオタクで厨二病な大学生。
異世界転移で魔王を倒す勇者に担ぎ上げられるも、無駄に冴える知性と妄想、そしてスキルにより色々と知っちゃって、魔王を倒すとすぐに送還されたり、神々の駒だったり、そもそも誘拐だったり、キレちゃった上に行動しまくった男。
魔王を倒すために、魔神を殺したり、裏ステージ攻略したり、色々と手札を揃えすぎたせいで表ボスの魔王とかデコピンで沈められる。魔王は最終的に男が育ててたスライムにより捕食された。
復讐とか企んでたけど、内政チートしたり、生産チートしたり、魔物テイムしたり、モフモフしたり、やっぱりハーレムハーレムしてた男。
異世界転移楽しんでたけど、それはそれとして復讐ざまぁ。
もっと楽しみたかったけど、魔王を倒すタイムリミットが近付いたので仕方なく弄くり倒して、元の世界に戻った。
因みに家族は転移のことを知っているため、死んだことなんて悲しんでない。おカネザックザク。むしろ異世界つれてけモフモフさせろ。理解力のある家族。
女神
カワイソス? いえいえこの女神もかなりクズいことしてます。浮気・不倫している芸能人とマスコミが接触しやすくなるように因果率を操作したり、勇者に祝福として与えるスキルに、罠を仕込んだりする。今回与えるはずだったスキルは、ハードハート・ラヴィングラバー。
好きになった相手を強化し、好かれれば好かれるほど強くなる、チーレム勇者御用達スキル。
しかし、好きになった相手が死にやすくなる。相手が死ぬ度に、勇者の力が増す。好かれやすくなり、人を好きになるのは止めることが出来ない。強くなればなるほど、因果率が死に近付き、恋人は死ぬが、自分は生残り強化される、愛憎のスキル。撫でポ搭載。イケメンに限らない。
めーこ
ホムンクルス。そう、ホムンクルス。創られた生命。なんやかんやあって助けた彼女になんやかんやあってなつかれて、なんやかんやあってぶっ殺した魔神の眷属の力を取り込んで、なんやかんや凄まじいことになってる。
製造番号がめっちゃ長いので、めーこ、と呼ばれている。実はきちんとした名前を男に貰っているが、大切な時にしか男は呼ばない。つまり、女神ぶっころは特に大したことではない。