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act 3

「坊っちゃま、何を目論んでおいでですか?」

「別に……僕はただ今のうちから領地のことをきちんと知っておきたいだけだ」

「左様で御座いますか。……しかしながら、先日も目薬とやらを作りたいと仰り、領内各地から材料を取り寄せられて、鮮やかな手つきでその、目薬をお作りになりましたね」

「ええ……あの、はい」


クレスレード領は山脈と山脈が交わるところにあり、領の東は広大な国立公園になっている。山と森、湖も多い領だ。

西側は王都と隣接していて、王都側に近付くにつれ、なだらかな丘陵地帯となり人口の多い都市があり、王都や他国にまで繋がる大きな街道が東西に通っている。

北側には魔石が採れるナザリハインド山脈と竜の住処があるロノス山脈、南にも山々と大きな湖があり、塩鉱もある。


そんな領なのでお金も資源も十分にあり、生活に困ることはないけれど……、ここは異世界、地球にあるものがなかったりする。



目薬、地味に恋しかったんだ……。



山脈の恵みである世界でも有数の綺麗な名水と、塩鉱で採れる岩塩、クレスレード領東北の高原のみに自生するアミルという高原植物の葉のエキスを抽出してそれらを混ぜ合わせ、念のために消毒魔術と防腐魔術を施せば、清涼感のある目薬の完成。


目に入れるものなので、使ってみるのはちょっとおっかなびっくりだったけど、よく効きました。


「私も使わせて頂きましたが、なんと申しますか……すっきりとして、目が冴える感じがいたしました」

「そうなんです。目が疲れた時や、気分を変えたい時なんかにも役立つんですよ」


父上と母上にも使ってみてもらったら、反応は上々だった。

母上は「小さな香水瓶に入れて売り出してみたらどうかしら」とも言っていたので、もしかすると、クレスレードの新しい特産品になるかもしれない。



「よく思いつかれましたね。旦那様と奥様も驚かれておられましたよ」

「はは……」


作るの自体は簡単で種を明かしてしまえば、初歩の魔術さえ使えればすぐ作れるものだけど、この世界には存在していないものを、五歳の子供が急に作り出してしまったんだ。


……やり過ぎたかな?



ともあれ、前世で目薬の作り方を教えてくれた博識な兄に感謝して、後頭部をさする。



「ユリウスー! ユリウス! やっと見つけた! ユリウスが構ってくれないからお母様は寂しいわ」

「母上。苦しい、苦しいです」


パタパタと音を立てて応接間の方から駆けてきた母のレティシアが、俺をこれでもかという勢いで抱き締めてくる。

身体は細いのにボリュームのある胸部が軽く凶器だ。


この世界でもまあまあ珍しい銀髪は母譲りで、母も祖父から受け継いだのだけど、放浪癖があって世界を転々としていた祖父が出自を明かしているのは祖母にだけで、祖母もそのことについては語らないので、銀髪の出所は謎なままだ。世界一の蔵書を誇るテュニメユ図書館で調べたらわかるかもしれないけど、そこまですることではないだろうし、そもそもテュニメユは遠い東の国で、今現在転移魔術を使うことが出来ない俺が行けるところじゃない。


祖父は凄腕の魔術剣士で冒険者だったらしく、現在進行形で会う度に武勇伝を聞かされる。

たまに話の途中で寝てしまうとめっちゃ怒られる。

この国の伯爵令嬢だった祖母と出会ってからは、伯爵領に留まって女伯爵となった祖母を支えてきたらしい。


祖父は美声の持ち主で、楽器はからきしだけど並外れて歌が上手く、時にはアカペラで、また時には酒場の伴奏つきで旅銀を稼いでいたらしく、その才能を受け継いだ母が社交界で銀紫の歌姫と呼ばれ話題をさらい、そんな母に一目惚れした若き日の父との恋物語は、なぜか国中の人達が知っている。


母の瞳は淡い紫で、俺の青い瞳は父譲りだ。




母上は俺にすりすりして満足したらしく、ソファの隣に腰掛けて、ソファのわきから後ろに下がっていたセヴァスティアンにお茶を持ってくるように言いつけている。

セヴァスティアンは執事でもなく、従僕でもなく、家令なんだけど母は気にしないようだ。



「歴史の本と地図……ユリウスは世界征服でもするつもりなの?」

「母上、これはクレスレードの地図です。世界征服をするつもりはありません。安心してください」

「ユリウスもクレスレードの血を濃く引いているのよね。少し冷たいところとかお父様そっくりよ」

うっと顔を背ける母は、普段着ではなく少し改まった昼用の濃緑のドレスを着ていて、首を傾げる。


「どこかにお出かけですか?」

「あら、忘れたの? 今日は午後からサウトファルヒール家にお呼ばれしているのよ。ユリウスも行きましょうねって言ってなかったかしら」

「……そういえば」

五日くらい前にさらりと言われた気がする。


「夫人のお茶会だけど、今日はごく親しい人だけとのことだから、ユリウスも気を遣わなくていいからね」

「気を遣う……」

前世が日本人なもので。生まれ変わってもなかなか抜けるものじゃないだなと思ったりはする。


「ユリウスも着替えてきてね。ヘイデンに頼んでおいたわ」

「はい。わかりました……」

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