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act 2

「新野雄大さん、本来ならば……貴方はまだ生きているはずでした」

「…………………」


言葉が出てこない。

じゃあ、なんで俺は死んだんだ? こんな場所で、何故女神と対面している?


手の平をぎゅっと握りしめ、女神を見据える。

形の良い眉を下げ、悲痛な面持ちで俺を見返す彼女は、それなのに、どこか優美だ。



「あの時、本来であれば……新野雄大さん、三上花凛さん、国門数馬さんは展望デッキではなく、商業施設内のレストランで食事をしているはずでした」

「本来ならば、死なずにすんだ……?」

「はい。雄大さんと数馬さんがあの場に着くまでに巻き込まれた電車のダイヤの乱れにより、運命にズレが生じてしまいました」

「確かに、西京線が遅延していて、待ち合わせに二十分近く遅れたけど……」

「申し訳ありません。我々のミスです。ズレの原因が突発的に発生してしまったことは管理……」

「じゃあ、花凛も数馬も……?」



黒い感情が、どろどろと湧き上がる。


花凛が息絶えていたのはわかっていた。数馬も応戦して刺された事も。

二人とは直に会えると言われた。つまり、二人とも地球にはいないということだろう。



本当なら、俺達は。




「貴女が言おうとしているであろうことは、大体わかりました。謝罪は結構です。貴女の言う誠意が何なのかを、示してくれませんか」



死んだという事実は変えられないのだろう。

渦巻く感情とは裏腹に、口から出たのは淡々とした要求だった。


冷静に考えれば、目の前に立つ女神に怒りをぶつけても仕方ない。運命のズレが原因だと言われても、いまいちピンとは来ない。俺達が命を落とした直接の原因は通り魔だ。その場に居合わせなかったのが本来の運命だとして……なら、どうすれば良かったんだ。

仮定の話を今更して、何になる。



「通常であれば、転生の際に前世の記憶は魂に保存され、余程の事がない限りは引き出せなくなるのですが、今回は特例ですので、地球の神が前世の記憶をそのまま引き継げるように計らいました。国門数馬さん、三上花凛さんも同様ですから、時が満ちればお二方と前世について話せるようにもなるでしょう」

「二人は俺にとって身近な人間になるという事ですか?」

「少々お待ち下さい……この事に関しての制限は……ないですね。そうです。雄大さんはエルシェリアという国の公爵家の一人息子として、数馬さんは同国の王太子……のちの国王として、花凛さんも同国、子爵家の令嬢として生を享けることとなります」


女神は暫く虚空を見つめたあと、視線を俺に戻す。


「貴族、ですか?」

「はい。奴隷制はありませんが、身分制度がある階級社会です。不便はないはずですが……困った時はご相談下さい」

「いや……ご相談下さいってどうやって貴女と連絡を?」


女神は瞬きを繰り返して、「失礼致しました」と微笑む。


「雄大さんがこれから生まれ変わる世界ルーゼファートでは神も実体化出来るのです。いえ、地球でも神が人に紛れていることもあるかもしれませんが……、神と会うことが許されているのは世界でも一部に限られますが、 雄大さんのもとには定期的に伺いますし、もし問題が発生したとしても真摯に対応をしますので、心配ご無用です!」

「そう……ですか」

アフターフォローもお任せ下さいというやつだろうか……。

熱意に誤魔化された気はするけど、当分の懸念はなさ……そう……か?


「そして、貴方のこれからの一生に我々ルーゼファートの神からの祝福を約束します。実り多き人生を歩めますように」

「あ……りがとうございます」

「それから……」

「はい?」


「……すみません。これが一番重要なのですが」

「はい」



気まずそうな顔をして、素早くお辞儀をした彼女に告げられたことが、俺の人生を大きく左右することになる。










「坊っちゃま」

「セヴァスティアン……! 驚かすな! それから名前で呼べと言っているだろう」



ユリウス・セヘレウク・ラァム・ミーガルト・クレスレード。

長い名前を名乗ることはまだ少ない五歳の冬。春になれば、ようやく六歳になる。でも、まだ六歳。

小さい身体がもどかしい。焦ったところでどうしようもないが、昨年、今世で初対面を果たした数馬……オリヴィエ殿下・・も同じ悩みを抱えているらしく、一つ歳下となった俺を揶揄いつつ、「まー、頑張りましょうぜ」と笑っていた。


ただでさえ広い屋敷……というか、城館は、この身体だと余計に広く感じる。

前世での教訓もあり、身体は鍛えるつもりだけど、早くも五歳の限界と直面している。

まあ、ゆっくりやろう。剣も魔術も貴族としての教養も、身に付けなければいけないことは山のようにある。学ばなければならないことも。


応接間から続く陽当たり抜群のサンルームのソファで歴史の本を開いていた俺の背後から、ぬっと顔を寄せてきた焦茶髪のオリエンタルな顔立ちの四十代中年男性は、我が家の家令、セバスティアンだ。


「ご所望のクレスレード領超詳細地図をお持ち致しました」

「あ、ああ。はい。ありがとうございます。ヘイデンに持たせてくれれば良かったんだけど」


ヘイデンは俺に仕えてくれている十七歳の男性従者だ。

ちなみに本邸の執事の名はライオネルで、初老の紳士である。

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